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第2話 神様から貰ったギフト

 翌日の朝。

 カルロスに儀式用のローブを着せられ、オレは不満顔をわざとカルロスに見せていた。鏡には、青みがかった銀髪が見える。鏡を見て父親そっくりに育ってしまったなぁと、ため息をつく。


「あかんで、そんなご不満顔しとっても、あかん」

「ケチぃ!」

「ケチぃ! やないわ! はよ、準備しぃ!」


 怒っているわけでもなくニヤニヤしているカルロスに、オレはフンッと鼻を鳴らした。すると、カルロスは急に、真面目な顔をする。


「終われば何か変わるかもしれん。俺も、お前のお父上とお母上も味方や」

「そんなわけ……」


 無い、と言いかけて、口を閉じる。その時、オレは足音と開くドアの音を聞いた。ピクリと、肩を跳ねさせる。なにせ、父と会うのが怖いのだ。


「準備は出来たか?」

「えぇ、着替えさせてありますわ。この通り、そやけど……嫌がったはるから。そこは注意して欲しいですわ」

「わかった……。ウェイン、行くぞ。手を取れ」


 父は、青みがかった銀髪をきれいにまとめている。ローブに合わせて、青いリボンだ。母が刺繍したのだろう可愛らしい柄がある。

 手を取っていいのか分からず、戸惑う。自分で自分の手を握ると、父はオレの肩に手を置く。


「ウェイン、何を怖がる。私はお前の父親だろう。怖がらなくていい」


 震える手で父の手を握れば「行こう」と、引かれる。その手は優しく包むような握り方で、オレは力を抜いた。


「ウェイン、それでいい。これから、頑張っていこうな」

「……。分からない」

「そうか、嫌ではないんだな。進歩だ」


 父の微かな笑い声が聞こえる。でも、オレは下を向いた。規則正しい足の動きだけが見える。父に連れられ、オレは馬車の場所まで連れて来られたようだ。父は近くの自分の侍従を呼び寄せる。


「行くぞ。ウェイン、先に乗りなさい」

「いっ……」


 嫌だと言おうとした。けれど、言えなかった。だって父が背中を押すから。何とか、馬車へと乗り込む。


「ふふ、こちらにおいでなさい」


 紅茶の水色、綺麗な色の髪を結い上げた母は、オレを呼び座らせる。座席のクッションが柔らかい。


「大丈夫、大丈夫よ。王妃はいないわ。あなたを害する人はいない。怖がらなくていいの、自分を守ろうとしなくても大丈夫」

「別に、守ろうなんかしてない。ほっとけよ……」

「ウェイン、お母さまにその言葉使いはだめだろ?」


 父が乗り込み、オレを叱る。オレはフンッと鼻で笑って、俯いた。

 すると、心の声がするどうせオレのことなんか守らないって言えって。


「……。どうせ、守ってくれないだろ」

「……ウェイン、今日は真面目にやれ。これは、命令だ。その言葉は許してやる、その代わりに儀式からは逃げるな、分かったな?」


 父は怒るでもなく、静かに言った。オレは小さく「はい」と、言った。命令には逆らえない。なにせ、父は王弟殿下なのだから。


「いい子だ、ウェイン。お前はいい子だ。怖がらなくてもいい」


 否定の言葉が喉元につっかえる。父は、優しく金色の目を細めていた。


 怖いんだ、その言葉がでない。苦しい、その言葉もでない。辛くて、苦しくて、怖くて、心臓を握られているように、息苦しかった。

 記憶が消えているある日から苦しい、悲しい、辛い、そういう感情が吐き出せなくなった。丁度、その時は僕が転生した時と同じ。転生して、ウェインと僕が混ざったからなのか、また別の何かがあるのかは分かっていない。

 その時から、心のなかにどす黒い何かがたまっていく気がする。何か答えないと、そう思いながらツンっと言い放つ。


「儀式ぐらい、できるし」

「そうだな、その言葉を信じているからな」


 父はオレの頭を撫でる。温かな手で、撫でられて。きゅっと手を握った。父の手が離れ、父の顔を見れば、少し笑っている。


「私たちは、ウェインの味方だからな。それは忘れないように」

「えぇ、あなたの親だもの。あなたの味方よ」


 しばらくの無言の時間……じっと目を瞑っていた。何も見たくない、何も理解したくなくて……。それでも、父も母も何も言わなかった。少し、軽く、笑い声がした。その時間は心が静かで、居心地はよかった。


 馬車が止まり、父が降り、母をエスコートする。その後に降りた。

 

 すると、白い建物は凛々しく建っている。中へ入ると、綺羅びやかさよりも、何処か落ち着いていて、厳かな雰囲気だった。

 海を描いたステンドグラスから淡い青色や緑色の光が振り注ぐ。父の先導で中を歩くと、水の中にいるような錯覚さえさせてくるほどに青かった。


 儀式の部屋には既に人々が揃う。魔法大臣、内務大臣、外務大臣、軍務内陣、財務大臣……国を支える宰相、この全てが揃っていた。


「オライオン王弟殿下、キャンディ王弟妃殿下、ウェイン王子、お待ちしておりました。メリル神殿にようこそ」

「あぁ、ガードナー頼んだぞ」

「承知しました。では、こちらに……ウェイン様」


 水色のローブを纏うこの神殿の大司祭のガードナー氏が、オレの名前を呼ぶ。その声に従い素直に足を進めた。後ろにはこの国の重鎮たちと父と母がいる。


 オレは盛大にため息をつく。なんで、こんな事をしなくちゃいけないんだ。そう、声を出しそうになり、言葉をどうにか飲み込む。


 目の前には泉、清らかな水が沸いている。

 虹の泉の中に、色とりどりの宝石があった。みな、同じ形をしているようだ。赤、青、黄、緑、橙、白、黒……一色だけでなく二色混ざるものもある。


 そして、カラン、カランと別の音も聞こえた。壁には、枠がありそれに括り付けた木の板がカランッとその存在を示していた。それは、人が神に感謝と願いを伝えるものだった。


 泉に入った瞬間、何だか体の中がざわつく。水は透き通り、冷たいけれど寒すぎないのに、体がおかしい。

 この水は苦手だ。何故か体が熱く感じる、何かが暴れているような気さえする。

 ただ、それだけで「やめる」なんて、言えない。


 神官が泉の噴水の場所で止まる。その噴水は、シャチが水を吹っ飛ばすような形で作られていた。とても、ダイナミックな神様らしい。噴水の流れる音、カランカランと音を立てる宝石と木板、ウェインはその音を聞いていた。


 そして、この国特有の木であるイリスの木でできた木の板を神官は僕に渡す。


「こちらをどうぞ。これは、これからの儀式を通し、貴方様を示す身分証になります」


 オレはそれを受け取り、よく見る。気になったことは自分で確認したいのだ。

 裏表を確認すると表には竜と鯱、裏にはオレの名前が掘られていた。


「では、その流れる水に当て……。『七色の精霊よ、我に素質を示せ』と、声に出して言ってみてください」


 正直、やりたくない。怖いんだ。もしかしたら、両親に捨てられるかもしれない。もしかしたら、誰かに殺されるかもしれない。意味の分からない恐怖に支配される。


 そう思うと、足が竦む。


 でも、ユースティーナが「明日の儀式で貴方の人生は変わるわ」なんて、言うものだから。何とかその場所へと足を向けた。そして、板を水につける。


 別に受けなくてもいいという声が聞こえる。

 それでも……何とか声を絞り出す。呪文の術式は間違えてはならない、良くないことが起こる気がするから。


「七色の精霊よ、我に素質を示せ」


 呪文を唱えた時、ぱぁっと板が輝き、そこへと文字が記される。七色の、レーダーチャートのような、模様が現れた。

 よく見れば……光が七、水が七、風が六、雷が五、闇が五、土が四、火が四……のようだ。


 それは、属性適性といってどのレベルまでの魔法が使えるか、というのがこのチャートでわかるらしい。基本的には五までが多いが、オレかなり高いほうだ。


 ガードナー氏は、手を伸ばしオレへと差し出す。そして、この板を示した。


「確認します。宜しいですか?」

「あっ、あぁ。た、頼む」


 オレは確認なんて必要ねぇだろ、という声を押しのけて、頼むと言った。

 魔力の量も書いてありガードナーさんは「今の歳では、かなり多いですね」と、感心の声を上げた。


「ギフトは……。あぁ、おめでとうございます……。これは、三百年ぶりですな! 絵魔師《えまし》です」


 自分に与えられたギフトの内容が分からない。

 仕方なく「あぁ」と、返す。これは、勉強をしてこなかった、弊害だろうか。しかし、転生を自覚した五歳からできることは限られている。それでも、ギフトについては絵本やらで確認はされただろう。今のオレはそういうことは何も知らない。


「絵魔師って、何?」


 オレはすぐにガードナーに尋ねる。絵を描く魔法っぽいが、一体なんだ。


「絵魔師。とは、人と精霊を繋ぐ者。魔力を操り、地面、空、水中……それら自然の中に絵を描く者。絵魔師の能力で描いた食物は精霊にとってご馳走となる、そう言われています。空想を現実にする、複製する能力に近いかと……」


 絵なら得意だ。なにせ、奏多は中、高と美術部だった。水彩画が得意なので、その辺は割と問題ない。転生前のオレは分からないけど、今のオレなら得意だろう。


「……精霊に関わることなのか?」

「えぇ、とても珍しく……とても、大切な力です。契約精霊以外へも願いを直接に伝えられる、稀有な力でありますよ」


 まだ、絵魔師については分からない。そんな事を考えていたらガードナー氏が、話しかけてくる。


「では、もう一度その泉から、宝石を受け取ってください」


 指示に従い、オレはまた水に手を付ける。すると、彼は杖を振る。


「我が国に住まう精霊たちよ応え給え。神の尊き加護の内から出で、世界という荒波に立ち向かう者に祝福を、与え給え」


 彼が唱え終わるとき、コロンと何かが手のなかにあった。それを見ようと手を水から出す。

 すると、それは、綺麗なものだった。水にラメが入っているようなそんな感覚がする宝石が手の中にある。まるで海と光だ。


「それに、魔力をその石に込めて……君が唱えるといい『我、自然との対面を求めるものなり』と」


 ガードナーに言われたようにする。めんどくさいけれど、仕方ない。

 すると、その宝石がとても強く輝く。強い光とともに、それが割れるかと思い目を瞑る。


 その光のなかで笛のような音が聞こえた。優しげで、とてもとても聞き心地のよい音だ。神殿内の空気が、震えた気がする。


 目を開ければ、強い光の中に人影を、はっきりと見た。


世界観・用語説明


魔法属性:火・水・雷・土・風・光・闇の七属性がこの世界には存在する。

魔法階級:第一階級〜第七階級まである、儀式で判明した【適正値】によって、どこまで使えるか決まる。これは、契約精霊などの影響を受け変化する場合がある。

ギフト:受け取るギフトにより効果は様々。魔法の魔力使用量が減る場合や威力の向上、七属性外の魔法が使える、二体以上の精霊と契約できる……等。

【ギフトは神の気まぐれとされ、受け取れないこともある】

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