第4話 船着場で聞き込み
翌日、オレたちは三時間ほどかけてベルスプレイン領の港であるバドスハーバーに到着し、海の近くにいる。何か、叫び声や緊張を呼ぶような声は聞こえない。
ジゼルとカルロスは、海へと視線を向けていた。波は穏やかで特段何もないように思える。
暇になり、オレは街へと視線を向けた。すると、鮮魚屋の店番が客を呼ぶ姿が見えた。その声に釣られてお客さんも寄っていく。その客同士の会話にも発展していた。庶民は、普段通りの生活をしているようだ。
それに、風は強いが海と街の間に木々が立ち並んでいるおかげが、そこまで強いとは感じない程度には自然環境も問題はない。
街も海も特に問題は、いまここでは見られない。
カルロスはボードに置いた紙に何かを書き込み、俺たちに声をかけてきた。
「ここは、蕾の港と呼ばれてるわ。まぁ、相変わらずここら一帯の人は花が好きやし、そういう名前になるわな。さて、調査やな」
「どうしますか、カルロスさん。分けますか?」
ボードをカバンに仕舞ったカルロスにジゼルが予定を相談する。ユースティーナはオレの腕につかまっていた。オレはユースティーナのことを、何か怖いことでもあるのか、弱いやつ。と、思うことで振り払うことを止めていた。今は、振り払っている場合ではないことはオレだってわかっている。
「せやなぁ。ジゼルは、ユースを連れていったって」
「わかりました。聞き込みをしています」
ユースティーナは「じゃあ、大人しくしてるのよ」とオレに言ってジゼルと聞き込みへと向かっていく。その背中は、オレよりも年上のように見えて仕方がなかった。
同い年のくせに、転生している僕よりも年上に感じてしまう。それが気にくわない。
しかし、その考えはカルロスに肩を叩かれて切れた。
「何考えとんの? オレたちは、海に行くで」
「わーったよ、行けばいいんだろ」
オレは、不満に思いながらも、ズンズンと木々の間を通って砂浜へと出た。春の砂浜はまだ、熱いというほどでもなく、裸足でも過ごしやすいだろうなという温度感だ。カルロスも隣を歩いている。
「取り敢えず、俺たちは確認やな」
カルロスは、木々が立ち並ぶ場所を抜けてからも海の方へと歩き続ける。オレはそれを追いかけていった。波打ち際へと着くと、小さな魚も見える。
波も自然に任せた波で、特に違和感もない。
「魚の魔物もいるのか?」
「あー、おるよ。それこそ、三つ目シャークとかな。それでも、話より小さいねんよなぁ」
カバンの中から魔法具を取り出す。双眼鏡に似たものを取り出す。そして、彼は双眼鏡を海へと向けて注意深く観察していた。
肉眼でもこの先にいくつかの島があることは見えるが、何か変なことが起こっているふうには見えなかった。
「せやなぁ。ここからは、見えへんか」
「何も居ないのか?」
「みえへん、こっちも聞き込み行こか」
カルロスに連れられて船着き場に向かう。向かっている最中も、海の様子を眺めていた。しかし、何も変化はない。
船着き場に到着すると、多くの舟が停まっていた。
誰か一人に声をかけようかと探る。すると、一人の漁師が小型船の手入れをしているのを見た。
カルロスはその太陽の光に焼けた腕の太い優秀そうな漁師に声をかける。
「おぉい、ちょっと話聞きたいんやけど」
「なんだ? お貴族様のくるところじゃねーぞ」
漁師は鋭い目を更に険しくする。カルロスは怯まずに、肩をすくめギルドカードをちらつかせる。漁師はそれをみて、目を見開いた。
「俺、最近出るサメの魔物を調査してるんや」
「はぁ、そんなのどうするんだ。探索者として行ったやつのほとんどが返り討ちにされているのに」
ビルは「無駄だ」と、言わんばかりにため息を吐く。そして、胡散臭そうにオレたちを見てくる。しかし、カルロスは気にせずに話を続けた。
「おぉ、そうなんやな。どんな、感じなん? ちょっと、ギルドから頼まれてな」
その漁師は「ビルだ」と、名乗り話をしてくれた。船着き場から海の方、おそらく島の内の一つを指さして示した。
「あの一番デカい島があるだろ? あそこの真ん中は洞窟になっている。その中をあのサメ、住処にしてやがる」
「サメの見た目はどうなん? 俺、大きさしか教えられてへんから、教えてくれたら嬉しいわ」
カルロスは、調査書に書き残していく。こういうのはとても重要なのだろう。オレは、船着き場から海を眺めていた。ゆらゆら揺れる水面から、小さめの魚が見える。
「サメは、黒色で目が赤いんだ。これまでのサメの魔物は青や黒だったんだが、初めて赤を見た」
「なるほど、せやなぁ。了解、わかったわ」
カルロスは書き終え「行ってみたいんやけど、どうにかならん?」と、ビルに話しかける。
「……。お前一人ならいいんじゃねーか?」
「オレかぁ。まぁ、ええけど……」
オレを見てカルロスは、ビルと向き合う。
「まぁ、でもなぁ。連れと合流してから考えよか。失礼するで」
カルロスはスマホによく似たものを取り出す。そして、どこ繋げたのか「カルロスですわ」と、名乗り出した。
「バドスハーバーで魔導船の小型のもんってお持ちです? ギルドカードさえあれば、運転できますよね」
どうやら、連絡先は父のようだ。返事を聞いて、カルロスは頷いていた。
「え、えぇ。お子さんには運転させませんて。ほんなら、整備確認して動かしますわ。ギルドに預けてあるですね、分かりました。ほな、また……」
カルロスがそれを切り、オレへと向く。おそらく、父からの情報を教えてくれるのだろなと、待ってた。
「取り敢えず、小型の魔導船で行くわ。おそらく、ほぼ一緒やと思うけど。先導して欲しいわ」
漁師のビルはキョトンとしてから、頷く。どうやら船があれば、連れて行ってくれるらしい。
「持っていたのか? わかった、じゃあ明日はどうだ?」
「そうしよか……。こっちも整備確認しなあかんみたいやしな。朝の八時にしよか」
「いいぜ、ちょうど明日は漁は休みだしな」
そう、漁師が言った時、黒光りするようなボディを持つ何かが海を跳ねた。サメは、シャチのように跳ぶのだろうか。ただ、その跳びはねた場所には、黒っぽい霧のような何か残っていた。
「あれが、そうだ……」
ビルは、何処か怯えたように言った。足が震えている。先ほど、カルロスなら良いという話となにか関係しているのだろうか。ただ……何故か、簡単に許可してくれたんだが。
「……。俺はギルドの仕事を観察するのは、別に駄目だとは言わない。しかしだな、若い子どもが危ないことをするのが嫌なだけだ」
「まぁ、せやなぁ。それは、わかるで。俺も危ないことをさせたない。でも、な。これ、どうにもうちのご主人様の命令やねん。すまんな」
ビルは、何処か苦虫を噛み締めたような顔をした。なにかあったのだろう。それは、確かだ。
あれを狩ってみたい、そんな気持ちが湧き上がってきた。
「なら、また明日な」
その言葉でお互いに別れた。ビルは船へと乗り込んだが、海へと向かうことはなかった。




