第2話 まず、はじめに向かう先は
約束通り……翌日の早朝のこと。王都の父の隠れ家からの出発となった。侍女のジゼル、侍従のカルロスこの二人、そして……ユースティーナとの旅立ちだ。
「何か問題があれば必ず、連絡しなさい」
「わーってるよ……なんだよ。オレが邪魔だから、行かせるんじゃないのか?」
オレはそっぽを向いて、父のまっすぐな目を見ないようにした。父は、今もなお愛おしい子どもを見るかのように、愛を注いでくれる。
それでも、オレを監視しようとしてくる国王は、オレを排除する動きをするのではないか。そんな確証もない何かが襲ってくる。
ただ、それでも……そんな状況のオレにも父はとても優しかった。オレが死ねば問題だからじゃくて、本当に心配してくれている。
「お前にかかっている呪い、それをきちんと管理しなさい。お前にはそれができる。信じているからな」
「……。見捨てないの?」
「私は、自分の息子を捨てたりはしない。お前がすべてを諦めて、死を受け入れてしまうなら……私は厳しくするがな。そうじゃないだろ?」
オレは、父の言葉を受け入れる。
不思議と嫌な気持ちにはならなかった。でも、つらい気持ちは沸き立ってくる。嘘だろう、どうせ……捨てるんだ。そんな気持ちは、心の奥底から生まれてくる。
「いってらっしゃい。貴方が元気に過ごしてくれるように祈っているわ」
拒絶したいのに、父や笑顔で見送りをしてくれる母の愛情は、オレと僕をこの世界につなぎとめる。
「あぁ、そうだとも。未来を信じている。ジゼル、カルロス、二人を頼んだぞ」
「お任せください。まぁ、きちんと約束は守りますわ。ほな、行ってきますで」
カルロスがジゼルが先に運転席に着いた魔車にオレを乗せる。そして、その中に座り、中の窓から見える景色は、何処か絵画のような気がしてきた。
「……。またね」
そっけなく言う。父も母も、表情は柔らかい。だからこそ、すぐに顔を隠した。見えるのは自分の太ももで、カルロスが笑う声がする。
「帰りを楽しみにしている。連絡をくれたら、ベルスプレインには、私が行こう。王都まで来なくていい。あそこは私の管理地だからな」
「これから通るから、教えておきますわ。では」
カルロスが乗り込み、オレの頭を撫でる。そうして魔車は発車した。そして、ユースティーナを途中で迎え入れて王都を出発することになる。
「よろしくお願いします。お父さまとは会えなかったけれど、私は貴方といれてしあわせだわ」
「好きにしろよ!!」
どうも、彼女の父親は魔法省に閉じ込められているらしい。どうせ、勇者の誕生の件なのだろう。
「お父さまが言うには、どうやら……街の周辺にも出てきているそうなのよ、魔物が」
「そりゃ、心配やなぁ。まぁ、まずは……ベルスプレイン領の領都イリスフロスにいくで」
カルロスは、父から貰った資料を確認している。が、なんというか安直な名前だ。
「イリスフロスって、イーリスの花かよ」
「そうや、王都についで華やかな世界やわ。まぁ、本来の王都がここやったんよな。何故か、海側に寄せたんやけど。まぁそれはえぇ。取り敢えず、イリスフロスのギルドで情報収集せなあかんっぽいな」
ウェインは歴史についてはそこまで知らない。魔法に関しては、カルロスや父がやたらと本を並べていたので属性魔法についてはいくつか理解している。
今、魔車は王都を出て、大公領イリスフロスへと向かっていっていた。
ようやく、早朝から朝になり日は徐々に高くなっていっている。しかし、馬車はまだすれ違うことはない。
そして……今、まさに問題の一つとして挙げられている、魔物が増えた森へと魔車を向けていた。
魔車は整備された森のなかの道を進んでいくようで道は確かに伸びていた。この森の中へとはいるまでにすでに二時間近く魔車を走らせている。途中
森の中を一時間半ほど進んだ時、カルロスは「ちょうど真ん中やな」と、言った。そして「休憩ついでに調査に行くか。ジゼル、のんびりしとき」と、オレとユースティーナを連れ出したのだ。
「まず、解呪師は、浄化の刃を使えるんや。普通の光属性やったら切るだけやけど、そこに魔を祓う力が付加される。よって、威力は倍になるんやで」
「ギフトによっては、力が増すだけのギフトもあるのか?」
「せや、魔法の発現に必要な魔力量も変わる。ウェインみたいに独自の魔法がある場合もある。やから、ギフトによっても、差があるわな」
カルロスはユースティーナに彼女のギフトを説明しながら歩いていた。もう既に日は登り、森の中にも日の光が入ってきている。
森の中を歩いていると、がさりと音がした。オレたちの足音ではない。
「魔物やな、ちょっと隠れて」
カルロスの指示で草木に隠れ、様子を窺う。するとそこには大きな盾のような形の虫がいた。
「タテムシやな、こりゃたまったもんやない。攻撃したら臭いんよな。しっかし、ここにあれは確認されてなかったはずや。記録とっとこか」
「描くのか?」
「いいや、撮る。マルマグは、こういうときに使うんよな。まぁ、これを書類にしようと思うとギルドに行かなあかんのは面倒やけど」
もしかしたら、ギフトで書けるのじゃないかとオレは思ったのだ。だから、父から昨日追加でもらったノートにペンを向けた。
「魔法の素よ、ノートに魔物を描け」
すると、紙に魔力が集まり絵が描ける。紙に描かれた、緑色の盾のような物を背負う虫が描けた。
「虫なら、凍らせたらいいんじゃねーのか?」
「せやなぁ。冷気が苦手やしな。まぁ、やってみ」
「そうなの? じゃあ、頑張って」
ユースティーナが、オレの背中を押す。杖を伸ばして、オレはそれを振る。
「魔法の素よ、自然のキャンバスに魔物を包む氷を描き、凍らせろ」
イメージするのは、カチコチに包まれた氷だ。指示どおりに魔物は凍る。一定範囲のものは凍らせられたが、量の多さでガクンッと魔力は持っていかれる。これを、第三階級の爆破の魔法でカルロスが破壊した。
バシンっと綺麗に爆破された。ユースティーナが「すごいわ!!」と、声を上げる。カルロスの技術を褒めているのだろうとスルーする。
「まぁ、ちゃんと記録が取れたな。集団行動しよるんよな、あいつら……。まぁ、ええわ。取り敢えず、ウェインは第三まではこの一年、二年で使えるようになろか」
「ここには何がいるんだ?」
カルロスは「どでかいキバもった、キバイノとか。シッポで釣りをする釣狐とかおるなぁ」と、言った。
この世界、ヘンテコな魔物がたくさんいる。どこに何がいるのかはまだ不明だが。
「土属性のスライムなんかもいるか」
「かわいいものね、私好きよ」
ダンジョンで見た、可愛らしいスライムを思って彼女はくすくすと笑っていた。
「さぁ、出発しよか!!」
今度はジゼルとカルロスが交代して、イリスフロスへと向かう。昔はそこが、王都だったらしい場所。そこでは、どんな人と会うのか。
「勇者と会わないといいんだけどな」
「せやなぁ。あそこ、ギルド校があるんよな。下手すればおるかもしれん」
カルロスが、予言じみた話をする。オレは、その言葉が頭のなかにこべりついた。




