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深夜の理科準備室、あるいは『偽物の青』について  作者: マオ・ウミ


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第9話 カードキー

 封筒を拾い上げたサキのその手は、微かに震えていた。


 封筒の中から現れたのは、二枚のカードキーと、一枚のメモ。

 そこには、癖のある美しい文字で謎めいた問いが記されていた。


『コランダム――「情熱」か「誠実」、どちらに付く』


 カードキーは、形も重さも全く同じ。

 1枚は深い青、もう1枚は鮮やかな赤。


「鍵が出てきたところで、あの電子ロックが開くとは思えないんだけど・・・」


 サキが思わずため息を漏らした。


「ねえ、サキちゃん、ここ!ここにカードキーを入れるのかな?」


 リンが指し示したのは、水槽の横に、見慣れない小さな金属製のボックス。

 それにはカードキーのスリットの様なものがあった。

 横には警告を促す一枚の張り紙がしてあった。


『強磁気発生中。金属類を近づけると故障の恐れあり』


(これにカードキーを入れろって事?

 でも、赤と青。どちらが『正解』への鍵なの?)


「ねえ、サキちゃん、コランダムって何?」


 唐突なリンの無邪気な問いかけに、またしてもサキの思考が乱される。


「えっと、コランダムっていうのは鉱物の種類で・・・

 サファイアもルビーも同じコランダムっていう石なんだよ。」


「ルビーは『情熱』、サファイアは『誠実』って石言葉があるよね。」


 リンがゆっくりと、確かめるように(つぶや)く。


(!・・・ひょっとして、青い鍵がサファイアで、赤い鍵がルビーを象徴してるってこと?)

 サキの瞳が一瞬、明るく輝いた。


(・・・そうだとしても、どちらのカードキーを差し込めばいいの?)


 すぐに、次の疑問で瞳が暗く沈む。


(サファイアとルビーの違いって・・・ユキはあの時に何と言っていた・・・?)


 ——『クロムが混ざれば赤くなり、鉄やチタンが混ざれば青くなる。』


 点と点が、サキの中で一本の線に繋がった。


(サファイア・・・青は鉄を含んでいるから、磁石にはくっつく。対して、ルビー・・・赤のクロムは磁性を持たないから、くっつかない!)


 強い磁気が発生しているこの装置に、鉄を含む『青』を差し込めば、磁力に引かれて二度と抜けなくなるか、あるいは回路を破壊してしまうかもしれない。


(でも確証がない!

 磁石、・・・磁石さえあれば・・・

 あ、これだ!)


 サキはブランド柄のスマホケースを掲げた。留め具の部分に仕込まれた小さな磁石。サキは恐る恐る、二枚のカードキーに近づけた。


 カチッ・・・


 はたして青のカードキーが吸い寄せられた。


「・・・そっか。」


 サキは、迷うことなく、磁石にくっつかなかった赤いカードキーを装置のスリットへと差し込んだ。


 ボックスがゆっくりと開き、鼓膜を(つんざ)くような電子音が鳴り響いた。

 サキは反射的に両耳を塞ぐ。


「正解よ。『情熱(ルビー)』と『誠実(サファイア)』・・・今のあなたは、それを見極められるのね。」


(今の声はユキ?それともリン?)


 驚いて振り返ったが、そこには青白い光の中で彫像のように佇むリンがいるだけだった。


「ん?コランダム・・・サファイアとルビーは・・・同じ石。ユキとリンも、本当は・・・」


 サキの独白を遮るように、リンの冷ややかな声が聞こえる・・・。


「サキ、また封筒よ。」


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