第8話 解毒発効
それならばと、俺はほかに薬の材料となりそうなものを探した。
素材が未知のものであっても、この能力があれば、口に入れた瞬間に成分を自動で分析してくれる。
生薬として使えるものが見つかるかもしれない。
しかし、室内にはそれらしい素材は見当たらなかった。
仕方なく外へ出た俺は、道端に生えていた野草や花、木の根を片っ端から引き抜いて持ち帰った。
自然の植物、特に野草の根には、熱を下げたり毒を抜いたりする薬効を持つものが多い。
水瓶の水ですすぎ、ナイフで細かく刻み、そのまま口へ放り込んだ。
――その瞬間、俺の中で、何かが弾けた。
自然の物を摂取するときに最も気をつけなければならないこと。
それは、有毒物質を含んだ物の摂取を避けるということだ。
そのことをわかっているつもりではいた。
だが、心のどこかで大丈夫だろう、と思ってしまっていた自分がいた。
これは、そんな安易な考えをしてしまった自分に対する罰であろうか。
素材の一部に有毒な成分が含まれていた――
それも、よりによって致命的な猛毒であったらしい。
下腹部に、生命の危機を訴えるような激痛が走る。
同時に、幻覚作用もあるのか――
耳をつんざく大音量が頭の中に流れ込んできた。
激しく叩きつけるドラム。
嵐のようにかき鳴らされるギター。
地鳴りのようなベース。
無秩序な爆音が脳を揺さぶり、下腹部の激痛と相まって、俺は地獄の釜の底に引きずり込まれたかと思った。
だが――その爆音は、次第に“形”を持ち始めた。
何の曲か理解するまでに数秒かかった。
──これは、XJAPANの『紅』のイントロ?!
思わず、脳内でTOSHIの叫びが響いた気がした。
だが歌声はない。
伴奏だけが、爆音のまま俺の意識を支配している。
激痛に苛まれながらも、
そのロックサウンドの奔流に、
なぜか俺の気分が高揚していく。
視界が真っ赤に染まり、
素材の成分表示と、自分の状態が
次々と浮かび上がった。
『オウジュソウ』
効能:補気(中)・補血(強)
[肝]0[心]3[脾]3[肺]1[腎]5
『ホンゾウカ』
効能:鎮痛(中)・鎮静(中)・消炎(中)・強心(中)・鎮咳(強)・去痰(強)・健胃(中)・【相乗薬効】
[肝]3[心]3[脾]3[肺]5[腎]0
『クコビの根』
効能:清熱解毒(強)・瘀血改善(強)・水腫消失(中)・【胃腸毒(弱)】
[肝]5[心]3[脾]2[肺]2[腎]1
『サソリの根』
効能:止痛(強)・強心(中)・補気(弱)・【神経毒(強)】
[肝]2[心]4[脾]1[肺]5[腎]2
『オウジュソウ』は、気や血を補う生薬らしい。
漢方でいうところの[腎]に強く作用するタイプだ。
『ホンゾウカ』は、薬効が極めて優秀だ。
鎮痛・鎮静・消炎・強心に加え、
咳や痰を抑え、胃の働きまで整える。
さらに他の生薬の効果を底上げする“相乗薬効”まである。
道端に咲いていた花にしては、驚くほどの当たりだ。
問題は――『クコビの根』と『サソリの根』。
木の根は薬効が強い反面、毒を含むものも多い。
そして、こいつらはまさにその典型だった。
『クコビの根』は強い清熱解毒作用と瘀血改善作用を持つが、弱い胃腸毒を含んでいる。
毒抜き処理をせずに摂取すれば、腹痛は避けられない。
そして、『サソリの根』。
──こいつが最悪だった。
強い止痛作用と強心作用を持つが、それを帳消しにして余りあるほどの“強力な神経毒”を含んでいる。
常人なら、経口摂取した時点で死ぬ。
俺の体調パラメータも、
凄まじい勢いで悪化していくのが分かった。
どうやら俺の固有技能は、
生薬の成分分析はしてくれても、
解毒までは自動でやってくれないらしい。
ひょっとすると、この激しく響き渡る爆音も、
俺の体調が“本気でヤバい”ことを示す警告音なのかもしれない。
――だが、脳内で神曲が響き渡ったことで、
俺のテンションは妙にハイになってしまった。
――どうせ夢だ。
――覚めるまでの辛抱だ。
――だったら、この異常事態、気合で乗り切ってやる!
”厨二病”よろしく、格闘漫画の主人公みたいに、「ウオオオォォォ!」と身体の中の毒に抗った。
すると、また俺のなかで変化が起こったことに気づく。
俺のエネルギーを使って徐々に状態異常が改善されていく。
そして、目の前に新たな表示が現れる。
固有能力【解毒発効】
【解読発功】と同じ読み方だが、漢字の書き方が異なる、新しい固有能力が発動した。
成分の分析をしてくれるのではなく、体内に取り込んだ毒を直接解毒してくれる能力なのだろう。
獲得した固有技能により、やがて全ての状態異常がなくなり、体調パラメータが正常になったことを確認する。
疲労感がひどいが、本当に気合いでなんとかなってしまった。
それに、苦しみに耐えたおかげでわかったことがある。
自分の体内に取り込んだ毒物は自分の力で解毒できる、ということだ。
そしてなぜかは分からないが、俺の右手の掌にひとつの薬用カプセルが握られていた。
昔、よくやったゲーム『ドクター〇リオ』でお馴染みの、白と黒で半々になっている二色カプセルだ。
俺はまじまじとカプセルを見ると、その正体が判明した。
『サソリ止熱薬』
効能:止痛(強)・清熱解毒(強)・強心(中)・瘀血改善(中)・補気(弱)
[肝]5[心]4[脾]1[肺]5[腎]4
そして、俺の目の前には、このカプセルを作り出した能力が示されていた。
固有能力【解毒発効<体内調合>】
どうやらこのカプセル薬は、サソリの根やクコビの根などの生薬を、体内で自動調合して作り出したものらしい。
それぞれの薬効が高いバランスで配合されている上、サソリの毒素などは除去されている。
呆然と掌の上のカプセルを見ながら俺の中の人格がせめぎ合う。
――おぉぉ!なんか自動で調合して薬が作れたぁ!!
――俺、なんかSUGEeeeeeーーー!!
――空想世界……ここに極まる。
――こんな世界が現実であるわけがない…。
だが、目の前の少女の苦しそうな様子を見て意識を取り戻した俺は、内面の葛藤を横に置いて少女に向き合った。
「この薬を飲めるか?」
俺は、少女にカプセルと水の入ったコップを見せた。
差し出された俺の手を見て、
少女は微かに目を開け、力なく頷く。
コップの水を少女の口に含ませ、カプセル薬を放り込む。
少女の喉がコクっと動き、カプセル薬を飲み込むと、
そのまま眠ってしまった。
……大丈夫だよな?
その瞬間、頭がクラっとして俺は床に膝を着いた。
この世界に放り出されてから、ずっと緊張の糸が張り詰めていたが、瀕死の少女に治療薬を処方できた安心感で、一気に気が緩んだ。
何の抵抗もなく、俺の意識は、闇のなかに落ちていった。
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