第41話 孤児院の少年
「さて、それでは説明してください」
食卓の前にはセティアと俺、向かうようにしてチハが座っている。
その周りには様子を見守るようにゲンとイアーモが立っていた。
そしてチハの横には、セティアの糸に全身を拘束された少年が簀巻き状態で座らされていた。
拘束された際にあまりに喚き散らしたので、いったん静かになるように口にもきっちり巻かれており、少年はモガモガ言いながら俺たちを睨みつけていた。
「まず貴方は誰ですか? チハちゃんとどういう関係なんですか?」
「モガ! モガモガ! モガモガモガっ!!」
「彼はパルル。あたしと同じ孤児院で暮らしている」
少年は口が塞がれているためか、モガモガしか言っていないが、チハがそれを代弁しているかのように彼のことを紹介した。
「そうなんですね。では、なんでうちの家の前で暴れていたんですか? 人の往来があるところでナイフをあんなに投げるのは危ないでしょう」
「モガモガ! モガモガモガモガモガっ!」
「セティア。さすがに話を聞くなら口の周りの糸は解いてあげない?」
俺がセティアに言うと、「そういえばそうですね」とセティアは頷いた。
セティアが操作すると、しゅるり、と少年の口を覆うように拘束していた糸の束が解けた。
「これでちゃんと話ができますね。なんでうちの家の前で暴れていたんですか?」
「……まずてめえらが説明しろ! チハに何しやがった!?」
「昨晩うちに来たチハちゃんがそのまま眠ってしまったので、朝にお風呂に入れてあげて服を洗濯している間に朝食を食べてもらっていたところです」
セティアの説明を受けて、悪鬼羅刹のような表情をしていた少年の顔が少し和らいだ。
「……本当か、チハ?」
「……うん」
「じゃあ、ほかに何かされなかったか?」
「……わかんない」
少年の顔が悪鬼羅刹に戻った。
「わかんないって言ってんじゃねえか!? チハが寝ている間に何かしたんだろっ!!」
「何もしていませんよ。どうしてそう思うんですか?」
「大人なんて信用できるか! そこにいるバッカスだって、前に孤児院の仲間をさらったことがあった。オレが連れ戻しに行かなきゃどうなっていたことか知れたもんじゃねえ!!」
俺たちは少し離れたところにいるバッカスを半眼で睨んだ。
「またお前が原因か?」という視線が集中したバッカスは直立不動のまま、冷や汗をダラダラ流している。
今や絶対服従モードのバッカスは、お仕置きされるまでもなくこの姿勢だが、少年の誤解の原因を作り、再び俺たちの世帯に危険の火種を放り込んだ張本人となると、更なるイアーモの折檻が必要になるかもしれない。
必死に表情を保っているが、足と腰はすでにガクガクブルブルだ。
俺は正面から少年を見つめた。
「信じてほしい。俺たちは彼女に何もしていない。昨晩、人形を売りに来た彼女から話を聞いただけだ」
「ふんっ!お前の言うことなんか信じられるか!!」
「……パルル。そういう言い方は、良くない。あたしの話も聞いて」
チハが少年に向いて言った。
どうやら少年の名はパルルと言うらしい。
なんだか某48人以上いるアイドルグループに所属していたメンバーの公名のような可愛らしい名だが、内面と表情は悪鬼羅刹そのもの。
名前を聞いても親しみがまるで湧いてこない。
だが、少年はチハのひと言を受けて、俺たちを罵ることをやめて真剣な表情でチハを見る。
その様子から、チハのことを本気で心配していることが窺えた。
「あたしはこの家でおにぎりを食べさせてもらった。そのあとは憶えていないけど、朝起きたらお姉さんに体を洗ってもらって、朝ご飯を食べさせてもらった。優しくしてもらった……」
「おにぎり。なんだそれ? だけど、それも何か狙いがあってのことかもしれないじゃないか?」
「……そうかもしれない。だけど、あたしは今まで感じたことのない優しさを感じた。……みすぼらしい恰好の子どもに対する同情かもしれない。だけど、おにぎりは可愛かったし、美味しかったし、温かかった」
「……わかったよ。じゃあオレもこれ以上暴れるのはやめる。だけど、ならもうココには用はないよな? みんなが心配してるから帰るぞ?」
「……」
「……チハ?」
「お姉ちゃん」
「……なに、チハちゃん?」
「あたしをここに置いてもらえませんか?」
「「「「「「えっ?」」」」」」
「あたし、ここで暮らしたい」
「「「「「「えええぇぇぇーーーーー!?」」」」」」
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