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神アタリ先生の異世界調合  作者: 氏子かぞく
第3章  孤児院編

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第38話 おにぎり




とりあえず、玄関の外で立ち話もなんだということで、ダッチ○イフを抱えた少女を室内に招き入れ、食卓に座ってもらった。




煌々と明かりが照らす室内で改めて見る少女の姿は、あまりにも痛々しいものだった。




肌は青白く、目の下には深い隈があり、慢性的な栄養失調の兆候が現れている。



体内の「気」と「血」が枯渇し、体内の五行のバランスが崩れている証左だ。




漢方医としての俺は少女を診察した方がいいのでは、と思ってしまう。




そのとき俺の出した大声に何事かと思って下に降りてきたセティアが、女型(めがた)の裸体人形を抱えた少女の姿にこれまた引き攣った顔をした。




「えーと、まずは自己紹介しないと話ができないかな。俺の名はアタリだ。よろしくね。この人形だけど、これは誰が作ったの? ……ちなみに一応訊くけど、人形(コレ)は弁務官事務所での評定は受けているのかな?」



「あたしの名はチハ。この玩具は私たちの孤児院で作られたもの。……評定は、受けていない」




少女の名前はチハといい、孤児院に住んでいるらしい。




「どうして俺たちのところに玩具(コレ)を売りに来たの?」



「昼間に燭蝋を買ってくれて、金払いが良さそうだったから……」




「だからって、あなたのような女の子がこんな人形(モノ)を売りに歩くだなんて!」




セティアは思わず声を荒げる。




俺はセティアを見やった。




セティアの心配はもっともだ。



ただでさえ危ない夜道。



そんな中で幼い少女が、評定されてもいない違法な性的玩具を売り歩くなんて、無鉄砲にもほどがある。



弁務官事務所に見つかった場合はもちろん問題になると思うし、それ以前にもし万が一、暴漢に襲われることにでもなったらどうするつもりだったのか。




セティアの荒げた声に対して、チハは表情を動かすことはしなかった。




俺はチハの感情を読み取ろうと、注意深く瞳を見つめる。




だが、そこには危険な状況や詰問する俺たちに対する恐れや悔恨の雰囲気はまったく感じられない。




芯のある翡翠の瞳には、底知れぬ暗い諦念が沈んでいる。




「あたしが稼がないと、孤児院のみんなが飢えてしまう」




視線をわずかに下げつつ、感情を感じさせない口調で呟いた。




「……孤児院には、ご飯がないの?」




俺は静かに尋ねる。




「十分な蓄えがなくて去年の冬は3人死んだ。ついこの間も1人死んじゃった」



「孤児院には配給金がほとんど来ない。生活をするための食べ物を手に入れるためには稼ぐか……盗むしかない」



チハの口から語られる孤児院の現状に、悲痛な表情を浮かべたのは俺たちの方だった。



子どもたちに必要な生活物資はおろか、食料も満足に行き渡らない現状。



そのため、子どもたちは自分たちで日銭を稼いで食いつなぐしかない。



俺は、少女の様子にこの世界の残酷な現実を見た。



昼は無評定の生活用品を売り歩き、夜は違法玩具を売り歩く。



そこには他者が安易に立ち入ることのできない、圧倒的で無情な生活の困窮があるだけだった。



少女の目は、夢を見てはいない。



少女の瞳には、ひとかけらの希望も入ってはいない。



無表情の中に誇りと尊厳を内包させながらも、少女の表情は、ただ冷酷な現実だけを写していた。



この少女に大人として"常識"を説くのは簡単だ。



違法な商品を販売することの危険性。



危険な時間帯に出歩くことの危険性。



だが、俺たちの無責任な"常識"は、残酷な現実を必死で生きている少女の心には響かない。



命を削るようにして、孤児院の仲間たちのために一人で暗闇を歩き続けてきたこの少女に、何と声をかけてあげればいいのかわからない。



そんな重苦しい静寂がその場を包んだ頃、きゅるるるるる~~~と可愛いお腹の虫が産声を上げた。



恥ずかしそうにお腹を押さえる少女の姿に、張り詰めていた空気がふっと緩む。



セティアは小さく息を吐くと、「ちょっと待っていてください」と優しく声をかけ、台所へと向かった。



やがてセティアが出してきたのは、赤飯に塩をまぶして三角形に握ったもの。



チハの視線が釘付けになった。



「――これは、何?」



「『おにぎり』と言うそうです。晩御飯の残り物で作った保存食ですけど……」




チハが不思議なものを見るように、皿に盛られた三つの小豆色(あずきいろ)のおにぎりを見る。



「可愛い……」



まるで愛おしいものを見るようにおにぎりを持つと、チハは「はむっ」とひと口かじった。




すると、チハの目から大粒の涙が零(こぼ)れた。



大粒の涙は頬を伝い、おにぎりに雫となって滴(したた)り落ちる。



涙は次々と溢(あふ)れ、無表情のチハの顔を濡らしていく。



何も言わず、チハはおにぎりを「はむはむ」と言いながら三つとも平らげた。




三つのおにぎりを食べ終わると、チハはそのまま食卓に突っ伏して眠ってしまった。




セティアは何も言わず毛布をチハに掛けてあげた。




チハはそのまま翌朝まで起きることはなかった。




最後までご覧いただき、ありがとうございます。

続きが気になる!ココが面白い!と思っていただけたら、コメントやブックマーク等していただけると、今後の執筆の励みになります<(_ _)>!

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