第36話 月例賞
「月例賞ですか・・・」
月例賞とは、その名のとおり月に一度弁務官事務所で開催される納税品の優秀作品を選定するコンテストのことである。
武器や防具、回復薬などの軍需用品、生活に役立つ発明品から既存の品種改良、取組改善まで幅広く募集されており、捨てられ村の住人であれば誰でも応募することができる。
そして担当編集…もとい、書司は自分の所管する業務担当の住人で優良な案件があれば、推薦提案することができる。
その結果はもちろん、昇級判定にも関わってくる。
「月例賞なら、先月セティアの包帯で最優秀賞を獲ったでしょう?」
先月の月例賞では、セティアが初めて作った『包帯』を新規納税品としてユンフラークが推薦提案したところ、ぶっちぎりの評価で最優秀賞を獲得した。
『包帯』は、傷口の保護や損傷部の固定、圧迫止血の機能が認められ、戦場での生還率向上に大きく寄与することが見込めるという点で軍需用備品として試験的に採用することも決定された。
供給量が足りれば即座に制式採用の声もあったのだが、制作にはセティアの能力に寄るところが大きいので、供給量が追いつかないだろうという結論になり、試験採用にして用途を検討することになった。
その結果、今後なるべく多くの包帯を制作するように、とノルマを大幅に引き上げられることになってしまったが、そのおかげで多大なる配給金が安定して入ることになり、セティアの生活水準は劇的に改善された。
いわばユンフラークは俺たちの今の生活の基盤を作ってくれた恩人である。
だからこうして昼食くらいならご馳走もする。
ユンフラークからの追加依頼とあっては無下に断わるのも気が引けるし、新たな納税品を思いつけば相談するつもりだ。
……しかし、だ。
「ペース早くないですか?」
俺は、ユンフラークに言った。
セティアもゲンも、うんうんと頷く。
「今が大事な時期なんです!アタリさん!!」
赤飯をモリモリ食べながらユンフラークが言い放った。
俺たちは半眼でユンフラークを見つめた。
「私は今、3級書司です。アタリさんたちのように常に新しい作品を創造する人たちには、さらなるバックアップ体制を確立することが不可欠なのです! そのために、私はさらに上を目指さなければならないと決意したのです! そのためには、更なる推薦提案の案件を出してもらわなければならないのです!!」
明け透けな本音をさらけ出して、ユンフラークはアタリに案件依頼をかけてくる。
ユンフラークの言う"新しい作品"に、"得体の知れない"という意味は含まれていないと思いたい。
そういうふうに思われていたら、ユンフラークとの関係を見直さなければならないかもしれない。
ユンフラーク曰く、 『書司』は『5級』から始まって『1級』まで階級が分かれている。
当然、配給金も階級に付随して上がってくる。
ここが大事なところだ。
そして、『1級書司』の中から特に優秀と認められる者は、他の弁務官の推薦を経て、弁務官事務所の最上級の役職である『高等弁務官』により『弁務官』に任命されることもあるのだ。
『書司』として勤務する者にとっては、『弁務官』という幹部職の地位は目指すべき絶対的な目標なのだそうだ。
ちなみに『弁務官』にも序列があり、『初段』、『二段』、『三段』というように上がっていくらしい。
上限はなく、功績の有無や配給金の優劣などを位階分けするための便宜的なものであるという。
上位位階の弁務官の中から、こういう集落や街に設置される弁務官事務所の役職が決められ、最高位の『高等弁務官』のほかに、それを補佐する『首席弁務官』という人もいるらしい。
「いま混じり気のない出世欲をさらけ出しましたね? 先月の最優秀作品の推薦提案の功績で4級から3級に上がったばかりでしょう?」
「い、いや。たしかにすぐには昇級はしないでしょうが、こうして毎月推薦提案で優秀作品を上げていけばいずれは2級に――、ゴホン! いえ、そういうことではなく! 私は皆さんの生活水準のさらなる向上と、新たな生産物を世に広めたいという思いで申し上げているのです! それに、包帯の功績はあくまで生産者のセティアさんのものです。発案者のアタリさんにはまだ実績がない。ここでアタリさんが功績を示せば、アタリさんの社会的地位の向上にも役立つのではないかと――」
「コメはまだ刈り取り始めたばかりで、基本的に自家消費用で考えていますので、まだ納税することは考えていません」
キッパリと俺は言った。
ユンフラークの言葉は、自分自身の出世のためばかりではないだろう。
俺のことも考えてくれていることはわかるし、俺自身、生活水準を引き上げてくれた恩義も感じている。
だが、それとこれとは話が別なのだ。
まだどの程度コメが継続的に収穫を続けられるのかわからないし、コメが納税品として広く世に知られてしまえば、今まで利用されてこなかった悪地草の乱獲が起こるかもしれない。
そうなればコメの単価が下がるばかりか乱獲の影響で俺たち自身がコメを食べられなくなるかもしれない。
俺は一度手にしたこのコメを手放すつもりはないのだ。
セティアたちの納得顔を見れば、同じ思いでいることは明白。
世の為人の為よりまずは隣人や恩人のため、隣人や恩人のためよりまずは自分たちのため!
納税しちゃ、ダメ!ゼッタイ!
結局ユンフラークは、原稿を取り損ねた担当編集のような恨めしい表情で帰っていった。
ちなみにセティアの作った包帯の木箱はしっかり抱えてだ。
ユンフラークが帰っていくと、入れ替わりに扉を小さくコンコンとノックする音がした。
忘れ物でもあったかな? とセティアが出ていくと、扉の外に背丈の幼い少女が立っていた。
「燭蝋は要りませんか?」
少女はセティアの目をまっすぐに見上げて言った。
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