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神アタリ先生の異世界調合  作者: 氏子かぞく
第3章  孤児院編

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第35話 悪地米




「なんですか、この食べ物は?! 淡白な味わいかと思えば、後から仄(ほの)かに立ち昇ってくる豊潤な甘味、ひと粒ごとがもっちりとしていて適度な粘りとコシが感じられる。これは今まで食べたどの穀物とも違う食感だ! これは、これは何という食べ物ですか?!」



「えーと……これは『赤飯(せきはん)』と言います」



今、俺たちの食卓には、書司のユンフラークがともに座っている。



包帯の納品の催促に住居を訪れたユンフラークが、昼食どきにさしかかったので、俺たちのところで一緒に食べていくことになったのだ。




最近はセティアの作る包帯が思いのほか好評らしく、納税品の納品時期を前倒しで依頼されることが増えてきた。



以前は1カ月単位で弁務官事務所に包帯の木箱を持っていくという流れだったのが、ユンフラークの前倒し納品依頼が始まってからはユンフラークが住居を訪れて依頼するとともに出来上がった包帯の木箱を根こそぎ持っていってしまうようになった。



2週間に一度、毎週というようにどんどんペースが早まっていき、最近はまるで週間連載の漫画家の編集者が出来上がった原稿を持っていくが如く、完成品の包帯の入った木箱を回収している。



こっちとしては、わざわざ弁務官事務所まで出向かなくても納税品を納めることができるので、便利この上ないが、それとは違った問題も発生していた。




「この赤飯、非常に美味ですね。納税しませんか?」




商品の勧誘員のように納税を勧めてくるユンフラーク。



納税したものに応じて配給金が支給されるので、新商品の買取りの商談と言えなくもない。



ただ単に「納税額を上げたいんですけど?」と言われるのであれば「ちょっと仰っている意味がわかりませんけど?」と返答するだけなのだが、書司として価値あるものを見出して買い取ると提案してくれているのだ。



本来ならありがたい話として前向きに応じるべきなのだろう。




しかし……



「このタオルも良いですね。上質な触り心地に速乾性のありそうな素材。非常に良い出来だと思います。納税しませんか?」



トイレを借りたユンフラークは、トイレの手洗い用の水場に設置しておいたタオルを持ち出してきた。



俺たちは揃ってユンフラークを半眼で見つめた。



どうやら、俺たちの住居で新たに作られる物はどれも画期的な発明品らしい。



ユンフラークとしては、世のため人のためにぜひ納税品として買い取りたいと提案してくれる。



その心意気は、書司の鑑とも言える。



だが、こちらとしては少々鬱陶しい。




例えるなら、週刊連載を抱える漫画家の担当編集が勝手に机の引き出しをまさぐって、アレもコレも面白いので連載しましょう、と提案してくるようなものだ。



それに、一度納品することになれば、定期的な安定供給を求められる。



そして需要が高まれば、さらに短期間でさらに多くの供給を求められる。



いくら納税品に応じた配給金を手にすることになったとしても、納税スケジュールに追われて生活自体が破綻してしまうことになりかねない。




ちなみに、この世界では特許というのは存在しないらしい。



最初に画期的な商品を発明した者は、その価値に応じた配給金を受け取り、需要の高まりに応じて他の者もその商品を作るようになって需要と供給のバランスがとれるとともに、一般普及と生産者の雇用が生み出されていく。



希少価値の高い物や作成にあたって技術的専門性の高い物は、それだけ買取単価が高く値崩れしにくいが、一般的な生産品であれば他の者が作っていくために値崩れしていくことは避けられないらしい。



こういう点は市場原理と同じとも言える。



だから、新たな生産物を開発する者は、より需要が高く、より付加価値の高い物となるように研鑽を続けなければならないらしい。



それが社会のためであり、自分が生きていく糧を得るためでもあるのだ。




だからこそ、社会的価値が認められそうな生産物はいち早く納税品として取り上げ、社会と納税者の利益となるように取り計らうのが書司としての使命であり責務、ひいては昇級判定に響いてくるのだ。




「ですから、納税にご協力を!!」




だが、断る。



こっちとしては生活破綻してまで社会貢献することを望んではいないのだ。



今はいろいろとやることがありますので、これ以上ノルマを増やされるのは困ります、という趣旨のことを丁重にオブラートに包んで申し渡した。



ユンフラークはガッカリしたような表情を見せたが、「ふっ、俺は諦めない。諦めたらそこで昇級終了だ!」とばかりに瞳に炎を宿した。




「ところで、この『赤飯』はなんの穀物でできているのですか?」



「ああ、これはですね──」




この世界には、米がない。



穀物といえば、麦、ヒエ、粟(あわ)が代表的なものらしい。



俺としては、やはり日本人である以上、米の味が恋しいとは感じていたが、無ければ無いでしょうがないと思っていた。



だが、もはや日課となった素材の摂取をしているうちに、ある植物を発見したのだ。




『悪地草(わるちそう)』




ヒエと同じく寒さに強く、土質を選ばずにぐんぐん成長する植物だが、その実を包む殻に毒性の棘があるために強害雑草として認識され、これまで実を食用として利用はされてこなかったそうだ。



殻の中には20粒から30粒の乾燥した米粒のような円粒状の実が内包されている。



土壌によっても色や性質が変化するのか、ここら辺で採取される実の色は紅砂の影響か、もともと赤い色をしている。



鍋で水炊きすると、水を吸い込んで輝くような艶のある赤飯のような炊き上がりになった。



試しに食べてみたら、コシヒカリのようなモチモチした食感と豊かな甘みのある俺が求めていた米そのものの味わいだった。



遺伝子に刻まれた味との感動の再会に、俺が咽(むせ)び泣いたのは言うまでもない。




見たこともない赤い穀物を泣きながら食べている俺の姿に、毒に中(あた)ったと勘違いしたセティアが無理やり水を飲ませようとしたのもご愛嬌だ。




恐る恐る食べたセティアたちも、こんな美味しい穀物は食べたことがないと絶賛していた。



やはり米は、異世界も飛び越えた万国共通の究極志向食品(マストフード)なのだ。




だからこそ、俺はこの世界に息づく強害雑草の地位回復を祈念しつつ、愛すべき究極至高の穀物として、こう命名した。




「『悪地米(わるちまい)』、通称『コメ』と名付けました」



「『コメ』ですか?なんかゴマみたいな名前ですねえ。そういう穀物と思っておけば良いのですか?」




ちなみに、この世界にはゴマはある。



栄養が豊富なため、そのまま食用にしたり、油を取ったりするのはもとの世界と同じだ。



ユンフラークに誤解を与えてしまったが、さしたる問題でもないだろう。



悪地草は強害雑草なので、誰も刈り取ろうとはしない。



そのため、住居区域内の近所にもわんさか生えている。空き地なんかには稲穂のように群生しているほどだ。



そこで、モアイにも手伝ってもらって住居の近所に群生していた悪地草をことごとく刈り取って持って帰ってきた。



モアイは、家の外の作業では無類の便利さを披露した。



なんと言っても、巨大化すれば10人分の仕事を一瞬でこなしてしまう。重機いらずだ。



作業はすこぶる順調に終わり、50キロはあろうかという悪地草をゲンに作ってもらった脱穀機で脱穀すると、40キロくらいの実が取れた。



悪地草の重量のほとんどが実の重さらしい。



脱穀された悪地草は、種火用に取っておこうと木箱に入れておくと、かさが減って延べ棒のような形状で固まっていた。



なんか炭のようだな、と思って一部をちぎって試しに燃やしてみたら火付きは悪い上に、一旦燃え始めると特大火力で瞬時に燃え尽きた。



生活利用には不向きかもしれない。



悪地米が稲の米と異なる点は、籾殻(もみがら)などが無いため、籾摺(もみす)りや精米の手間がないことだ。



実を収穫すればそのまま米研ぎをして炊飯することができる。



米研ぎをすると血の色をした研ぎ汁になるため、研いでいるときはちょっとスプラッタな人になる。




「『赤飯』は弁務官事務所で開催される月例賞に応募しても好成績を収めることができると思いますよ」




赤飯をおかわりしながら、ユンフラークは諦めきれないように言う。



ちなみにおかわりは三杯目だ。



セティアがユンフラークから自然にすっと出されたお椀を見て、いい意味ではない方で目を細める。




これから客人のおかわりは二杯までと決めておこう。





最後までご覧いただき、ありがとうございます。

続きが気になる!ココが面白い!と思っていただけたら、コメントやブックマーク等していただけると、今後の執筆の励みになります<(_ _)>!

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