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神アタリ先生の異世界調合  作者: 氏子かぞく
第2章  異世界抗争編

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第30話 漢乙女




「お前ら、少しは落ち着け! モアイがやられたくらいでなんだ? 1対1(タイマン)ならまぐれで勝てることもあるかもしれねえが、この人数で満身創痍のアタリひとりに勝てねえとでも言うのか?」



バッカスの怒声が鉄火場一派の男たちに響いた。


「あの巨人傭兵にタイマンで勝てるのかよ?!」という思いは飲み込みつつ、後段の方は一理あるため、釈然としない表情ながらも男たちは顔を見合わせる。



だが、倒れているモアイの苦しみ方、そしてハリーのPTSDの様子から、勝てるとしても誰がそれを受け持つことになるのか、が主な関心事のようだ。



いずれの者の表情からも察することができる。



(((手柄は立てたいけど、あんな苦しむような毒は死んでも食らいたくない……)))



だからこそ、バッカスの飛ばしたげきにもかかわらず、男たちの中から言葉が出てきた。



「でもバッカスさん、まだ奴は隠し玉を持っている可能性だってありますよ……。なんたって、あの “漢の中の漢” のモアイがやられたんですよ?」




バッカスは内心で舌打ちをした。



ここで鉄火場一派の首領ボスとして部下たちを仕切れなければ、今後の沽券に関わる。



たかだかぽっと出の男一人に鉄火場一派が敗北することは許されないのだ。




「モアイな……奴も存外、大したことがない。所詮見かけ倒しだったってことよ。それにな――」



バッカスがいまだ不安そうな表情の若い衆に、薄い笑みを向ける。



「奴は本当は “漢の中の漢” じゃねえ。むしろ逆よ!」



バッカスは発破をかけるように言い放つ。



「奴の身体は男だが、中身は女だ! 奴は漢乙女おとめ! 乙女オカマ野郎なんだよ!!」



一味の男たちはバッカスの言葉を理解出来ずにポカーンとしてしまう。



一様に顔は、「え……バッカスさん、モアイのことを漢の中の漢って何回も言ってましたやん…?」といった表情だ。



「考えてもみろ? モアイが優秀な傭兵なだけなら、こんな捨てられ村にやってくるわけがない。奴は巨人化っていう特異な能力ゆえに他の盾役タンクと連携がとりにくいってことで拒否ハブられたのが表向きの理由だが、本当のところは奴のそういう性質に他の奴らが嫌悪したからなんだ!」



「バッカスさんは、なんだってそんな奴を雇ったんです?」



「弱味を握れる奴の方が御しやすいだろうが! 傭兵としての奴の強さは本物だが、俺にとって重要なのはいざって時に御しやすいかどうかだ。弱味が握れなければ、元傭兵を雇うなんて猛獣を飼うようなもんだ。もし俺たちと奴とで対立したときにどうする? お前ら無傷の奴と戦えるのか?」



鉄火場一派の者たちは言葉を飲み込んだ。



急な展開と一味の切り札と思っていた用心棒がそこまで大した奴じゃないと言われて、どう反応したらいいかわからないといった様子だ。



「──ククク。随分と好き放題に言ってくれるじゃナイ?」



いつの間にか意識を取り戻したモアイが、顔だけを起き上がらせてバッカスを歪んだ表情で睨む。



先ほどまでの口調とはうって変わった甲高い声だ。



だが、やはり全身に毒が回っているのか、脂汗を流し、呼吸も荒くなっており声を出すのも辛そうだ。



だが、そんな状態でも言葉を発しようとしていた。



「確かにアタシはこんなナリして中身は乙女オンナよ? だけど、漢乙女おとめであることを弱味に思ったことなんてないわよ。それに傭兵部隊を抜けたのも、アタシが勝手に抜けただけで、別に拒否ハブられたわけじゃない」


「うるせえよ、このオカマ野郎! てめえの価値は盾役タンクとしての強さだろうが。それをあんな奴に無様に倒されやがって! 気色悪キショい本性のお前から強さを取ったら何が残るってんだ?!」



モアイの口調を聞いて鉄火場一派の者たちも本当のことなんだ、と顔を見合わせる。



「おい、お前ら! 見てのとおりだ。所詮奴は見かけだおしのハッタリオカマ野郎だったってことだ! 奴があんな無様な醜態を晒しているのも中身がなよっちいからなんだよ! 構うことはねえ、アタリもモアイもまとめて潰してしまえ! 鉄火場一派を敵に回したことを思い知らせてやるんだ!!」



バッカスが、モアイの強さを貶めて手下たちを鼓舞した甲斐あって、モアイに向けた視線がプロの傭兵に対する畏怖から、漢乙女おとめに対する嘲りに変わった一部の者たちはモアイとアタリの方へ踏み出した。



「一応確認しておくけど契約破棄、ってことで良いかしら?」



「ああ、そうさ。もうお前は用済みだ、モアイ!」



「そう、安心したわ。正直、アンタらのやり方にはけっこうウンザリしていたのよね」



モアイはそう言うと、アタリや傍に駆け付けたゲンの方を見た。



「……悪かったわね。こんなことになるんなら、もうちょっと手加減してあげればよかったかしら。でもアンタたちが思ってたより根性ガッツのある子たちだから、つい本気を出しちゃったわ」



「おめえ……」



ゲンがモアイを意外そうな表情で見る。



感情の全くなさそうだったモアイが、内面に抱いていた意外な一面に驚いているようだ。



「本当はアタシが勝てばアンタたちは鉄火場一派に編入スカウトされて、アンタたちが勝てばあの女の子をそのまま解放するっていう話だったから協力したんだけど。まさか相打ち同然になった挙句に約束を反故にされるなんてね。アタシもヤキが回ったってことかしら」



徐々に迫る鉄火場一派の男たちを悔しげに見ながら、モアイは吐血した。



「なんとかあの子を助けて貴方たちだけでも逃がしたいけど、身体の自由が利かない。毒耐性には結構自信があったんだけど、コレはちょっとヤバイかも……もう毒はコリゴリだわ」



俺はモアイの方を見た。



俺の考え足らずな一撃が、モアイの行動の自由を封じていた。



俺が致死性の猛毒を選択しなければ、ここまでの事態にはならなかったかもしれない。



俺は、モアイの強さに目を奪われて、大局を見誤ってしまったのだ。



こうなってしまったのは、俺のせいだ。



ならば、と俺は動かない手に力を込めた。



俺の掌に、赤と黒の2色カプセルが現れる。



「……ゲン、頼みがある。モアイにこれを飲ませてくれ」



「アタリ、これって……」



「解毒薬だ。俺がモアイに与えた毒の。……頼む、早く」



「わ、わかった」と言って、戸惑いながらもゲンはモアイに俺の掌から奪うように取った薬用カプセルをモアイの口にねじ込もうとする。




「ちょ、ナニ? まさか……止めを刺す気ぃっ?!」



モアイが、叫んだ。



禍々しい色の2色カプセルが誤解を与えてしまったのかもしれない。



「毒、これは毒ね?! ただでさえ死にかけてるのに、さらなる毒を!?」



解毒薬ということを告げられなかったせいか、ゲンが飲ませようとする薬を毒物と勘違いして、必死に嫌々をしている。



そこはちゃんと「これは薬だから大丈夫だよ!」と言わないと、毒物と誤解されたままになってしまうのでは、と俺は思っていたが、激痛のさなかでアドバイスできるほどの余裕はない。




「毒は、もう嫌ぁぁあああーーー!」と吐血しながら拒否るモアイに、ゲンは「いいから黙って飲め!!」とぐいぐいカプセルを口に押し込む。



はた目から見れば、駄々っ子のような巨漢モアイ像に薬を飲ませようとしている鶏冠モヒカン頭のお兄さんのような構図。かなりシュールだ。



やがて鶏冠モヒカンが勝ち、モアイ像の口に無理やりカプセルがねじ込まれる。



水無しで嫌々と首を振っていたため、思い切りガリっと薬を噛んでしまったのだろう。



「ぉ゛ぅ゛っ!!……っっがっ!!!」



モアイの口から野太い声がとどろいた。



その声は、まさに漢乙女おとめを象徴する一声だった。




最後までご覧いただき、ありがとうございます。

続きが気になる!ココが面白い!と思っていただけたら、コメントやブックマーク等していただけると、今後の執筆の励みになります<(_ _)>!

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