第27話 巨人硬化
「固有技能【巨人硬化】」
モアイの身体が体長5メートルほどになった。
モアイの口から短く発せられた言葉により、俺たちは事態が悪くなっていることを悟った。
これはモアイの固有技能らしい。
「こんなの反則じゃないか?」と言いたげなゲンと目が合う。
だが、モアイの性能分析数値を診ることができる俺は、ゲンが把握していない事態に内心驚愕していた。
『モアイ』4210/4830Lx
[体力]1200/1400
[魔力]130/200
[攻撃力]630/700
[素早さ]230/280
[器用さ]220/250
[耐久力]1400/1500
[精神力]400/500
[麻痺耐性(強)]
[下半身麻痺(弱)]
2メートルから5メートル級に体長が伸びたことに応じて、ステータス値がほぼすべての項目で倍増している。
特に[体力]700→1400と[耐久力]500→1500の伸びは、もともとのステータス値が高かった分、まさに化物じみたものになっている。
(えっ、耐久力が3倍って……?)
負傷や弱体化が入ったところは、その影響が残っている様子はあるが、ステータス値の上昇で相対的に薄れている。
魔力値が大幅に下がっているのは固有技能を使ったことによる影響だろう。
とてもMOBの俺が相手にできる存在ではない。
巨人化したモアイは、その巨体に似合わない俊敏さで後ろ足を蹴りだして、勢いよく俺たちに一歩を踏み出した。
巨体に似合わない俊敏さというのは「巨体なんだから少しくらい遅くなっててほしい」という、俺の被害妄想が生んだ偏見だ。
[素早さ]のステータスが上昇したことにより、巨体となっても元のサイズと同様の俊敏性はあるようだ。
モアイはその巨体から小動物のような大きさの俺たちに対する最も有効な攻撃方法を選択した。
すなわち、“踏みつぶし”である。
俺たちの頭上に巨体の足裏が迫る。
若干、遠い目をしていた俺とは違い、ゲンは巨人モアイの初動に対する準備ができていた。
「岩流・【岩壁】!!」
土壁では通常モアイですら貫かれたのだ。
巨人モアイでは全く効果がないと判断し、より強固な『岩壁』を俺たちの頭上に形成した。
だが、
「ぬるい」
巨人モアイは岩壁をなんなく踏み抜いた。
俺たちは踏み抜かれる僅かな時間差を生かして後方に飛び退いた。
ゴロゴロと転がる背後で、岩壁の破壊される音が響く。
振り向くと、俺たちのいた地面がモアイの足裏の形に陥没しているのが見える。
逃げるのが一瞬遅かったらと思うと、ゾッとする。
俺たちの顔にでかい足跡が浮かび上がるという程度ではすまないはずだ。
「こんな相手にどう相対すればいいんだ!」、と頭を抱えていると、ゲンが膝をついた。
脂汗を出して苦しそうな表情をしている。
モアイの攻撃を受けた形跡はないが、ひどく消耗している様子だ。
俺はゲンの腕をミニサイズのトゲ血鞭でほんの少し刺した。
ゲンのステータス確認をするためには、血鞭で傷つけるしかできない。
チクッとするかもしれないが、ゲンの異常事態を把握したかった。
『ゲン』640/960Lx
[体力]180/250
[魔力]10/200
[攻撃力]20/30
[素早さ]50/50
[器用さ]280/300
[耐久力]70/80
[精神力]30/50
ステータス確認をして俺は理解した。
ゲンは、[魔力]の枯渇状態にあったのだ。
攻撃・防御に耐えうる土壁の生成は、魔力の消費量が激しいことは想像できる。
まして、先程のはそれよりも硬度の高い岩壁だった。
度重なるスキル発動に加え、岩壁生成で[魔力]が尽きかけている。
だが、そのおかげでかろうじてこれまで渡り合ってこれたのだ。
ゲンがいなければあっという間にやられていただろう。
これ以上、ゲンに負担はかけられない。
「わるい、ゲン。これを飲んで、ちょっと休んでてくれ」
俺は、両手の掌で生成した薬用カプセルのうちの一つをゲンに渡して言った。
「おい、アタリ。お前、何を……?」
カプセルを受け取ったゲンは、怪訝な表情で俺を見た。
俺は、もう一方のカプセルを口に放り込み、前に進んだ。
俺の表情を見て何かを察したのか、モアイが身構えた。
どうやらこれだけの体格差があろうと、油断してくれる気はないらしい。
ゲンに渡したカプセルは、以前俺が摂取した魔力を微回復させる薬草を体内で濃縮還元させて生成したカプセルだ。
おそらく、今のゲンなら薬の効力が現れてくれば半分くらいまでは回復するはずだ。
だが俺が服用したカプセルは、身体能力を回復させる薬ではない。
本来、身体能力とは、土台となる肉体に応じて出力できる能力をいう。
そしてどれだけの力を出力できるかは、身体の機能を司る五臓六腑によりバランスが取られている。
だが、この薬はそのバランスをあえて崩し、魔力の大量供給により、身体能力を強制的に引き上げる。
言わば、身体能力を過剰上昇させる劇薬だ。
俺は、モアイの身体の巨人化と[魔力]消費を見て、魔力を使って身体能力を一時的に引き上げられるのでは、と考えた。
俺の固有技能【解毒発効】は、摂取した薬物の毒物を身体に取り込み無害化したうえで、成分を体内に保存しておくものだ。
成分自体は体内に吸収されず、保存された成分を固有技能【体内調合】で望む効能の薬剤へと生成することができる。
そこで疑似的にそのように身体に作用する薬を調合したのだ。
だが、本来の身体機能を狂わせるような劇薬が、身体に良いわけがない。
それどころか著しい悪影響を及ぼす危険があった。
だが、それでもこの方法を選択したのは、もう後がないと思ったからだ。
ゲンの魔力がもう限界で、俺がここで倒れれば、セティアを助け出せる機会が失われてしまう。
賭けに出るしかなかった。
薬の効果はまだ感じないが、ためらっている場合ではない。
俺は血鞭を放った。
血鞭は狙い通りモアイの脛に当たったが、無傷だった。
耐久力が段違いで、もはや俺の貧弱な鞭では傷ひとつつけることすらできないらしい。
代わりに、モアイからサッカーのボールを蹴るような足のひと振りが襲いかかってきた。
だが、巨人の足から振り抜かれるそれは、トラックに正面衝突されるような勢いと圧力を感じる。
これは避けられない、と思った瞬間、俺の身体に変調が起きた。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
続きが気になる!ココが面白い!と思っていただけたら、コメントやブックマーク等していただけると、今後の執筆の励みになります<(_ _)>!




