第26話 傭兵の男(2)
モアイの様子の変化に、俺は確かな手応えを感じた。
おそらく、腰に力が入らなくなってきたのではないだろうか。
『モアイ』1455/2230Lx
[体力]550/700
[魔力]200/200
[攻撃力]100/200
[素早さ]25/80
[器用さ]30/50
[耐久力]200/500
[精神力]350/500
[麻痺耐性(強)]
[下半身麻痺]
モアイのステータスを確認し、弱体化が成功したことを確認した。
固有技能【解毒発効<毒草経典>】
血鞭付与推奨:『ウミヘビブドウ』
【筋肉細胞破壊(特効)×神経麻痺(特効)×痙攣(強)×下半身不随(強)】
筋肉細胞を破壊するとともに、神経麻痺や全身の痙攣を引き起こす猛毒の希少果実だ。
特に【腎】に対して深刻な影響を及ぼし、摂取量によっては下半身不随になる。
漢方医としての勘から、俺はモアイの肉体面での頑強さの根源は、【腎】の強さにあるとみていた。
東洋医学における【腎】は生命力を司るとともに、下半身の強さを支える役割をもつ。
そして、状態異常に対する耐性は身体内の解毒機能を司る【肝】の強さに起因すると推測したが、中医学上の理論では、その【肝】を下支えするのも【腎】なのだ。
つまり、モアイに対しては、【腎】に対する弱体化攻撃が有効なのではないか、と考えたのだ。
常人であれば一生歩けない身体になってしまう危険性のある『ウミヘビブドウ』の毒を使うことに、ためらいがないわけではない。
だが、強大な敵に対して俺たちに取れる選択肢は限られている。
これが突破口にならなければ、このままなすすべもなく敗北してしまうだろう。
そうなれば、俺もセティアもゲンも鉄火場一派に従って生きていかなければならない立場になってしまう。
だから猛毒であっても心を鬼にして使う。
俺は、絶対に負けるわけにはいかない。
「ゲン、頼む!」
「よしっ! 岩流・【土流拳】っ!!」
正面の地面からいきなり生えてきた巨大な土の拳に、モアイは驚いた様子を見せた。
重い衝撃音の後、モアイの巨体が宙に浮いた。
「やったか!?」
「いや、まだだ!」
モアイは咄嗟に防御をしていたようで、身体の中心まで攻撃は届いていない。
モアイのステータスを診ることができる俺は、モアイに大したダメージは入っていないことを確認していた。
「だったら、これでどうだあっ!!」
ゲンが地面に手をついたまま、叫ぶ。
モアイの足元から次々に拳が生えてきて、モアイを殴る。
その拳は殴打すると崩れ、また生えてきては殴打し、を繰り返す。
モアイの防御している様子からしても、一発一発が重そうだ。
俺だったら数発も耐えられそうにないが、モアイは防御の姿勢を解かない。
じりじりと巨体が後方に下がる。
ゲンはここを勝負どころと見たのか、地面に渾身の力を込めた。
ゲンの腕から発せられた黄色い魔力光が、地面を通じてモアイの足元に伸び、拳の繰り出す速度がぐんぐん上がっていく。
ゲンの「オラオラオラオラオラオラ」と叫ぶ声と相まって、ジョ○ョ並みの迫力のある殴打感を出している。
土流拳の猛攻を受けて、ついにモアイの防御姿勢が弾かれた。
直撃を受けたモアイは吹き飛ばされ、地面に激しく身体を打ちつけた。
バッカス始め鉄火場一派の男たちは生粋の盾役であるモアイが、ろくな戦闘経験がない俺たちに吹き飛ばされるのを見て驚愕している。
さすがにこれならだいぶ効いたのではと思い、俺はモアイのステータスを確認する。
『モアイ』850/2230Lx
[体力]150/700
[魔力]180/200
[攻撃力]80/200
[素早さ]20/80
[器用さ]20/50
[耐久力]100/500
[精神力]300/500
[麻痺耐性(強)]
[下半身麻痺]
ゲンの土流拳を正面からあれだけ受けたせいか、[体力]と[耐久力]がだいぶ減っている。
[精神力]がそれほど減っていないのは傭兵だからだろうか。
それを裏付けるかのようにモアイはすぐに立ち上がった。
戦意が全く衰えていないのは、眼力の強さでよくわかる。
「モアイ! そんなガキどもに何やってるんだ!」
バッカスが声を張り上げる。
モアイは何の感情もなさそうな目線をバッカスに向けた。
「……わかっている。俺は決して負けない」
「――そうだ。お前は女子どもには決して手を上げない。そして相手が誰であっても守り抜く“漢の中の漢”だ。男に二言はないよな?」
バッカスがニヤッと歪んだ表情で笑った。
俺は嫌らしい笑い方だ、と思った。
モアイは俺たちの方へ静かに歩いてくる。
下半身に麻痺症状が入っているせいか、身体は重そうだ。
「お前たちは強い。だから……ちょっとやりすぎてしまうかもしれん」
独り言を呟くように、モアイは言った。
俺はその言葉に、モアイはまだ何か奥の手を隠しているのではないか、という根拠のない漠然とした不安感を感じた。
「もう少しで倒せる。ここで畳み掛けるぞ!」
まだ麻痺の残る下半身で億劫そうにしているモアイの様子をみて、ゲンが気勢を上げた。
だが、声の大きさとは裏腹に、ゲンの顔色は悪くなっているように見える。
「ゲン、大丈夫か? さすがに疲れが出ているんじゃ」
「俺のことは気にするな! そんなことより、奴が回復しないうちに、さっさとケリつけねえと!」
言葉はその通りだが、なぜかゲン自身に焦りが見える。
俺はそんなゲンを横目で見ながらも、油断のならない雰囲気を放っているモアイの動向に注視することにした。
モアイのステータスを確認できる俺は、このままならステータス値が自然回復する前に倒せるのではないか、という思いを抱いていた。
ここで一気に決着をつけるのが最善策だ。
ゲンの攻撃と連携して、俺の血鞭でさらなる弱体化を与えれば叶う。
そう思って、血鞭に新たな毒効果を付与したときに、それは起こった。
モアイのステータス値が急上昇を始めたのだ。
ダメージの自然回復ではなく、数値自体の急上昇。
こんなことがあり得るのかどうかがわからず、俺の身体は硬直してしまう。
ゲンの視線と身体も同じく硬直していた。
ゲンは性能分析数値が見えるわけではない。
そのゲンがなぜ驚愕しながら硬直しているのか。
それは、モアイの身体の外見自体が徐々に大きくなっているためだ。
膨れ上がるのではなく、そのままの身体の体型を維持したままの巨大化。
まるで、〇撃の巨人のように。
ただし、裸ではない。
服や装備なども含めて“そのまま”巨大化していく。
「アタリ、俺たちは夢でも見ているのか?」
俺とゲンの偽らざる本心は、その一言に現れていた。
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