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神アタリ先生の異世界調合  作者: 氏子かぞく
第2章  異世界抗争編

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第24話 鉄火場一派




鍛治工房第八倉庫は、鍛冶仕事をするための資材が格納されている倉庫だろうと思った。



小学校の体育館の広さくらいはありそうな平屋建ての建物だ。



倉庫の前には見張りの男たちが二人立っていた。



俺たちは、もう何人も相手にしてきたので多少気が立っていたのだろう。



俺の血鞭けつべんが自動制圧モードでひゅパッと動き、見張りの男たちの脛の辺りを打ちつけると、これまで遭遇した敵たちと同じく、男たちは音もなくその場にうずくまり、舌が痺れたように口を広げた。



扉に向かう俺たちを驚愕の表情で見上げているが、俺たちは見張りたちのことなどすでに視界に入っていなかった。



中にいるのは間違いなく、俺たちの訪れを待っている者たちだ。


どれだけ気に食わない相手であろうと、ふつうはノックぐらいするだろう。


だが、俺はそれすらする気にならないほど、頭に血が上っていた。




無言で扉を開くと、中には燭蝋しょくろうが光源と思われる光が建物のいたるところに灯っており、十分な明るさがあった。



木箱が建物の端の方に積んであったが、あまり多くはない。



どちらかというとガランとしている。



その代わり、鉄火場一派と思われる男たちが30人ほど、テーブルを囲んで奥に座っていた。



酒盛りをしていたらしく、突然現れた俺たちの姿に驚いた様子だ。



そのさらに奥の方に椅子に座らされたセティアの姿があった。



縄で椅子に縛り付けられているようだが、幸いなことに乱暴された様子はない。



俺たちの姿を見ると、心配そうな目を向けた。




「その白衣、お前がアタリか……?」



テーブルの男の一人が、俺の方を見て言った。



「アタリ、てめえ! よくものこのこ現れやがって……!!」



ハリーもいた。俺に対して恨みのこもった目で睨んでくる。



だが、俺はもはやハリーのことも眼中になかった。



「そうだ。俺がアタリだ。ゲンから聞いてあんたたちの望みどおり来てやった。俺が来ればセティアの身の安全が保障されるんだろ? 彼女を解放してくれ」



「まあ、待て。そう慌てるな。表の見張りはどうした?」



「寝ている。疲れがたまってたんじゃないか?」



「――ここに来る途中に跳ねっ返りのチンピラのような奴らに会わなかったか?」



「寝ている。疲れがたまってたんじゃないか?」



「……」



俺はさっさと用件を済ませてセティアを連れて帰るという意思表示も込めて、相手の質問に手短に答えながらツカツカとテーブルの方に歩いていく。



質問している一派の男は俺がまともに答える気がないことを見抜いたのか、軽く息を吐くと、パチンと指を弾いた。



俺たちとテーブルに立ち塞がるように、一人の男が歩いてきた。



鍛冶仕事をしている屈強な鉄火場一派の面々でさえもまるで比較にならないような頑強な肉体をした2メートルを超える大男だ。



俺は、足を止めた。



只者ただものではない空気が、対峙しただけで伝わってきた。



俺は、男を見上げた。



筋肉隆々な肉体で気づかなかったが、よく見れば男の顔は、イースター島の象徴的な像を彷彿とさせる顔の長さと彫りの深さをしていた。




「――俺の名は、モアイ」




――おいっ!!



俺はもう少しで本気でツッコむところだった。



ツッコミを思い止めさせたのは冷静な思考ではなく、セティアを危ない目に遭わせたことへの怒りの感情からだった。



だが、それが逆に俺の頭を少し冷まし、冷静な判断力を取り戻すことにつながった。



だが、さすがにココに来て、モアイのような人にモアイと名乗られると、俺の中で、「やっぱりこの世界は俺をドッキリに嵌めるための大掛かりなセットなのでは?」という陰謀説が再び頭をもたげてくる。



「ひょっとして本当はセティアも共謀者グルじゃないのか?」というように目を向けると、俺の身の心配のあまり涙ぐんでいる真剣そのもののセティアの顔が見えた。




――ごめん。それはさすがにないよね……。



俺は深刻な事態に、ほんの少しでもおふざけのような思考をした自分を恥じた。




「あんたも、あいつらの仲間か?」



俺は巨体の男、モアイに訊ねた。



モアイは俺を見下ろしたまま、無言で立っていた。



「まあ待て、と言っただろう? 何もお前たちを殺して埋めようっていうわけじゃないんだ。まあ話くらいさせてくれ」



先ほどの鉄火場一派の男が言った。



「まずは俺も自己紹介をしよう。鉄火場一派の首領ボスのバッカスだ。それとお前の質問には俺から答えておこう。モアイは、厳密にいうと俺たちの仲間じゃない。俺たちに金で雇われてそうしているだけだ。用心棒っていうやつだな」



俺はモアイを見上げた。



俺を見下ろすモアイの目には何の感情もこもっていないように見えた。



「そいつには気をつけろよ? そいつは元傭兵。正真正銘、戦闘のプロだ。その中でも個体性能だけなら群を抜く盾役タンクだったんだ。ハリーの話と、ここに無傷で辿りつくあたり、お前はちょっと普通じゃなさそうだが、そいつを突破することはできん」



俺は初めて鉄火場一派の首領という男、バッカスの方に顔を向けた。



「今度はこっちの質問にも答えてもらおう。まずはその見慣れない白衣だ。お前は何者だ? お前はこの村では見ない顔だ。最近になってやってきたんだろう? どこから来た?」


中途半端な回答を許さないような響きがあった。



しかし、俺が本当のことを言ったところで、それを信用してくれることも、身の安全を保障してくれることも期待できなかった。



相手はセティアを誘拐して俺をおびき寄せたような連中だ。



ヤクザと同じで、俺の弱みを握ったとたんにそれをネタに脅迫して支配下に置こうとするような奴だと感じた。



今は俺の正体がわからずに下手に出ているだけだ。



迂闊に信用してはいけないと気を引き締める。



「俺は……漢方医だ」



「カンポウイ? よくわからんが、回復術師か、医司のようなものか? ハリーがさんざん毒攻撃を受けたと言っていたから、てっきり呪術師のような存在だと思っていたが」



それは誤解だ。生薬のことなら相談に乗るが、俺に“領域展開”の技能はない。



「お前がセティアを使って軍需物資を弁務官事務所に納めさせたのはわかっている。ゲンに指示して、廃屋同然だった倉庫を要塞のような建物に改修させたこともな」



――いや、信じてほしい。それはホントに誤解だ。



軍需物資のつもりはなかったが、包帯のアイデアを出したのは俺なので、前者はちょっとした誤解があるだけで、大筋は合っている。



だが、住居が三階建て鉄筋コンクリート造になったのはゲンの創作意欲が暴走した結果で要塞を作ろうとしたわけではない。



セティアに目を向けると、「やっぱりアタリさんが原因だったんですか?」と若干、俺に対する信用度が下がったような半眼を向けている。



ゲンに目を向けると、ごく自然に、さっと視線を逸らされた。



どうやらここまでの経緯を察するに、すべての原因は俺の非常識さが招いた誤解から来ているようだ。



客観的な話だけ耳にすると、軍需物資を開発したり、自宅を要塞化したりと、確かに俺はちょっと危険な存在に思われても仕方がない要素がある。



さらに毒付与効果のある固有技能スキルが発現したことで、噂に尾ひれがついて呪術師のような存在に思われていた。




「だから、お前とちゃんと話をする機会を設けたいと思ったんだ。同居していたお前の女をさらえば、お前は必ずやってくると踏んだ。それと悪いとは思ったが、この際お前の実力も測っておきたかったから、俺たちの仲間の下っ端の一部に、『俺らが恐れているお前を捕まえて来れば幹部になれる』、と偽の情報を流してお前を途中で待ち伏せさせたんだ」




そんな危険な存在なら、やり方はちょっと荒っぽいが、確かに俺の女を人質に取ってでも俺の正体を確かめたくなったりするのも理解できないわけではないな、とバッカスの言い分にちょっと納得してしまう。



でも、その言い方だと、俺とセティアが恋人関係にあるように聞こえる。


表現方法は適切に願いたいものだ。



話がひと段落したら、俺とセティアはただの同居人の関係です、とちゃんと訂正しておかねば。




「──その結果は、お前たちが無傷でここに辿りつくという、この状況だ。ならば、俺たちも素直にお前の実力を認めよう」




理解してもらえて、なによりだ。



だが、その考えでいくと、俺が危険な存在かもしれないということが、まだ未解決のままではなかろうか。



この誘拐劇が俺の実力を測るためだけなら、セティアが無事解放された後に、もうちょっと詳しい事情を話してもいいかもしれない。



誤解されたままでは、いつまでも俺は胡散臭い存在のままになってしまう。




「その力を俺たちの組織で生かせ!」




……はい?




「俺たちは捨てられ村の中でも、三大勢力に入る組織だ。この村で最も勢力の大きい鍛治工房や大工工房で揉め事や賭場を仕切っているから、どの工房も俺たちの存在は無視できない。俺たちが武器を独自に調達しようと思えば、弁務官事務所を通さずに秘密裏に鍛冶工房で作らせることも出来る」



バッカスは、野望にぎらつく目を俺に向けて続けた。



「他の勢力との抗争なんてチンケなことをいつまでもやるつもりは、俺にはねえ。お前の力と俺たちの組織力があれば、この村で誰にも負けない勢力になることができる。俺たちでこの村を裏から支配することも夢じゃねえ!」




だんだん危ない方向に話が進んでいくので、俺はバッカスと近くなりかけていた心の距離を少し離した。




「お前もいつまでも一匹狼でいるわけじゃねえだろう? 要塞建設は、勢力拡大の拠点を作るためのもののはずだ。だがな、よく考えてみろ? このまま自分ひとりだけで勢力拡大をしていったとしても、俺たちがこうして女を攫ったように、ほかの勢力も組織的にお前を潰しにかかってくる。所詮、個人の力なんてそんなもんだ。生き残るためには、どこかの傘下に入らないと駄目なんだ」




なんか俺のことは、抗争渦巻くこの村の中で新たな勢力を作ろうとしているやから、と思われているらしい。……実に心外だ。




「お前の力は、俺たちの下でこそ発揮される。俺はお前を下っ端に扱う気はねえ。幹部待遇で迎えるつもりだ。お前の同居人ファミリーを守り、勢力を拡大していくためにも悪い話じゃあないはずだ」




どうやら、組織への勧誘目的で俺たちをここに来させたみたいだ。



ずいぶん俺のことを高く評価してくれているみたいで、幹部待遇を約束してくれている。



だが、同居人を"ファミリー"と言わないでほしい。



まるで俺たちが、血の掟によって結ばれているシチリア島の怖い人たちみたいに聞こえる。




「だから、俺たちの傘下に入れ!」




……鉄火場一派は、やっぱりちょっと危ない考えを持った集団だったらしい。



俺は、彼らとの話し合いがこれ以上期待できないものであることを悟った。




最後までご覧いただき、ありがとうございます。

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