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神アタリ先生の異世界調合  作者: 氏子かぞく
第2章  異世界抗争編

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第15話 大工のゲンさん




集落に、日の入りの時刻を知らせる七つ鐘が響き渡る。


一般的な世帯は、このあたりで就寝の準備を始める時間だ。



セティアは燭台しょくだいに入っている燭蝋しょくろうのお尻を指先でちょんと触る。



ピクっと一瞬震えた後、燭蝋のお尻から徐々に明るい光が発せられる。



こうして日の入り以降は、体長20cmくらいの『燭蝋しょくろう』という発光虫を使役して灯りをとる。



細長く白い、蚕のような身体をした虫を燭台に頭部から入れておくと、自力で抜け出せなくなり、臀部の発光体からLED電球のような明るい光を放つのだ。



燭台に水さえ入れておけば、およそ2,3週間ほどもつらしい。出られずに時折モゾモゾと蠢く姿は、見慣れてしまえばちょっと癒される。



触り心地もスベスベしているのでクセになって触っていると、セティアからちょっと気持ちの悪い人のような冷ややかな目で見られた。



どうやらこの世界では、そういう愛で方はしないらしい。



お触りはほどほどにしておいた方が良いだろう。




「まだ作業するの?」



「今日は思ったより(はかど)らなかったので」



セティアの仕事は家の中でも出来る内職のようなものだ。日の入り以降でも出来なくはない。



「ほどほどにしておいた方がいいと思うよ」



「わかりました。もうちょっと仕上げたら今日は寝ます」




セティアの病状は一時的に回復したが、完全に体調が回復したわけではなかった。



俺は毎朝、セティアの『脈診』をとることにしている。



セティアの病後の経過が心配であることもあったが、俺の固有技能(スキル)【解読発功〈五行診療〉】についても、より深く理解しておきたいからだ。



俺は目の前に浮かぶ『体調パラメータ』でセティアの状態を視覚的に確認しつつ、中医学の“脈診”から俺自身が読み取る情報と照合していく。



セティアはまだ一日のうちで頭がふらついたり、胸に熱感を感じるときがあるらしい。



胃腸が弱く、動くと疲れやすいこともあるようだ。



彼女はもともと虚弱体質であり、身体の元気やエネルギーが不足している状態、中医学でいうところの【気虚】の状態にあると、俺はみている。



こういうとき漢方理論では、不足しているエネルギーを補う処方である【補気】で対策をする。



たとえるなら、身体が冷えている人に滋養のある温かいスープを飲ませたりするようなイメージだ。



しかし、セティアの場合、悪化時に高熱を伴う【陽証ようしょう】を患っていた。



高熱時に悪寒を感じるからといって、ただ身体を温める処方をしても患者の身体を平熱に戻すことはできない。



必要なのは、免疫力を回復させるために生命力を司る[腎]の気を補いつつ、熱症の身体を冷やしたり、熱毒症に対応した解毒作用のある薬の処方だ。



今は熱症が治まっているので、生命力を司る[腎じん]の気と、食べたものを消化・吸収して身体に栄養として供給する[脾]の気を補う処方で様子を見ている。



ちょうど住居の近くで自生していた『ギオウ』の木の根を採取したところ、セティアの症状に良く合う生薬となることがわかった。



俺は乾燥させて細かく刻んでおいたギオウの根を、口に放り込む。




固有技能(スキル)【解毒発効〈体内調合〉】により、取り込んだ生薬を体内で自動調合して二色カプセルを生成する。



このスキルは地味だが、俺にとってはとてもありがたい。



元の世界であれば、効果的な生薬素材を見つけても、患者に処方するには綿密な成分分析をし、医薬品として使用するための様々な手続きを踏み、大変な手間をかけて生薬製剤としなければならないのだ。



病に苦しむ人に効果のある薬を安全に提供するためには、現実ではとてつもなく大変なことなのだ。



それを俺の身体ひとつで、すべて自動処理してくれるこの機能スキルは、さすが異世界ファンタジー



こればかりは現実とは違って超便利(なんてことでしょう!)、と感心するしかない。




そんなわけで、診察が終わると俺はセティアに朝の分の薬を渡す。



セティアはすっかり慣れた様子で、コップの水と一緒にカプセル薬をくいっと飲み込んだ。




◇       ◇       ◇



修繕計画の依頼を出した一週間後。



俺たちの家に、大工工房から職人が派遣されてきた。



総勢五人。



先頭に立つのは、棟梁と思われる厳つい表情をしたスキンヘッドの大柄な男。


腕は良くても、クセが強そうだ。



機嫌を損ねないように注意した方が良いかもしれない。



続いて、普通っぽい男が三人。


そして、人相の悪い鶏冠とさかのような銀髪モヒカン頭の男。



普通っぽい三人はともかく、最後の男はいかにも印象が悪い。



なんとなく気が合わなそうだ、というのが第一印象だった。



「よろしくお願いします」と、俺とセティアは挨拶する。



棟梁の男は、ぞんざいな態度で一瞥しただけだった。


どこの世界も職人は愛想がないものなのだろうか。



「じゃあお前ら、作業にかかれ」



そう言い残し、棟梁はどこかへ行ってしまった。



ほかの三人も、あまりやる気のあるようには見えない緩慢な動きでそれぞれの持ち場で働いている。



こんな感じで本当に修繕が終わるのかとつい心配になってしまうほどだ。




あまり印象の良くなかった銀髪モヒカン男だけが、手際よく黙々と扉の補修作業をしている。



作業中の姿は、一見して信頼のおけそうな職人の雰囲気を纏っている。



そして修繕作業が始まって数日後――。



棟梁以外の三人の男の姿も見えなくなり、銀髪モヒカン男だけが来るようになった。



「……あの、棟梁とほかの三人の人はどこにいるんですか?」



俺は仕方なく訊いてみると、銀髪モヒカン男は面倒くさそうに俺を見上げ、面倒くさそうにため息を吐いた。



「……あぁ、あいつら、たぶんもう来ねえよ」



「えっ?!」



修繕計画は五人で20日間かかる計算だったはずだ。



どういうことか訊ねると、男は作業に目線を戻し、こともなげに言った。



「作業をしてもしなくても、大工工房から割り当てられた時点で、その日分の配給金は貰えるんだ。やりたくなくなったら来なくなるのは当然だろ?」



――どんな理屈だ?!



銀髪モヒカン男によれば、修繕依頼が大工工房に回され、職人に割り当てられた後は、詳しい作業手順や進捗は「依頼主」と「職人」に丸投げされるらしい。



「じゃあ修繕作業が工期内に終わらない場合はどうなるんですか?」



「別に、どうもならねえよ?修繕が足りなければ、また弁務官事務所に申請すればいい」



「終わっていない分を、大工工房で追加対応してもらえたりは?」



「修繕完了のノルマなんて俺たちには課せられていねえからな。無理だろうな」



なんと、工期内に完了させるかどうかは、完全に依頼主と職人との調整次第らしい。



「でも棟梁は、最初からやる気がなさそうでした。ほかの三人も数日でいなくなりました。これじゃ、最初から直す気なんてなかったとしか思えないんですけど」



「ああ、あんたの言うとおりだな。あいつらには仕事をしようとする気なんかないと思うぜ」



「弁務官事務所や大工工房に抗議とかできるんですか?」



「依頼主と職人の間のことは当人同士の問題だから、言っても無駄だと思うがな」



「じゃあ、棟梁に直接抗議しなきゃいけないってことなんですね?」



「ああ、まあでもやめておいた方がいいかもな」



「なんでですか?」



「ハリー、あのハゲな、あいつは鉄火場一派の傘下にいて、その中でも名が知れている奴なんだ。奴と問題トラブルを起こすってことは、鉄火場一派と事を構えることになるかもしれないってことだ」



「鉄火場一派って、なんなんですか?」



「あー、うるせえな! 仕事の邪魔になるだろうが!」



終始仏頂面だった男が、ついにこちらを向いて吠えた。



「俺は仕事中に話しかけられんのが大嫌いなんだよ!! もしなんか訊きてえってんなら、昼飯でも奢れ! その時になら話してやるよ!」



どうやら、かなり我慢して答えてくれていたらしい。


だが、その直情的な態度に、俺はむしろ好感を抱いた。



元の世界でも、家を建てる時には職人に昼飯や飲み物を差し入れして関係を築いていたと聞いたことがある。この世界でも、そういう気遣いが必要なのだろう。




「うおーーー!? 肉? これ肉だよな?! お前ら見た目によらず金持ちなのな!!」



一緒にお昼を食べることになった男は、パンと「肉」の入ったスープを食べた途端に上機嫌になった。



この村では、昼飯に肉が出るなんてことはまずないらしい。



「俺は大工工房のゲン。よろしくな!」



大工のゲンさん、だと……?



ただでさえ鶏冠モヒカン頭でツッコミ要素満載なのに、名乗った公名あざなが有名パチンコシリーズでお馴染みの主人公と同じとは。



しかも、"大工の源さん"の髪型は確か角刈りだったはずだ。


「どうしてモヒカンなんですか?」と喉まで出かかったツッコミを飲み込んだのは、この世界できっと俺だけだろう。



「私はセティアといいます。よろしくお願いします」



「俺はアタリです。よろしくお願いします」



「セティアにアタリか。アタリって縁起がいい名前じゃねえか! 俺はそういう名前、好きだぜ! 俺のゲンってのも、ゲンを担ぐってのに掛けてんだ」



裏表のない、真っ直ぐな性格なのだろう。


思ったことを正直に口にするこの男は、見た目の第一印象に反して、信用できる気がした。



「それで、鉄火場一派っていうのは?」



「この捨てられ村にある、三つの大きな非合法勢力の一つだ。鍛冶や大工の中でも、特に荒くれた奴らの集まりで、賭博や恐喝、暴力行為を繰り返している。対抗勢力との抗争も多い」



「取り締まりとかはされないんですか?」



「騒動に発展するようなでかい事件になれば守備隊も動くらしいが、集落内の小競り合い程度じゃ干渉してこねえ」



「それじゃ、泣き寝入りしてる被害者がたくさんいるんじゃ……」



「……だろうな。恐喝なんて日常茶飯事だ。みんな自分が一番可愛いし、良い思いしている奴を見ると引きずり下ろしたくなる。ここはそういう掃き溜めのような奴が行き着く場所だからな」



ゲンの顔に、一瞬だけ暗い影が落ちた。



「ゲンさんはそういう風には見えないですけど」



「ゲン、でいい。敬語も使うな、気持ちわりい。俺もお前をアタリって呼ぶぜ」



「じゃあ、ゲン……君はなんでこの集落に?」



「さあな……」



ゲンはスープを啜り、ふいと目を逸らした。



「この集落に来た奴で、過去を語りたがる奴なんていねえよ。お互い詮索はやめようぜ。俺は、お前たちの家を修繕するために来ただけだ」



「……そうだね。ごめん、気が利かなかった」



「いいんだよ、気にするな」



ゲンはパンの欠片を口に放り込むと、ニッと笑った。



「それより、俺はあいつらと違って、一度請け負った仕事はきっちりやらねえと気が済まないタチなんだ。工期までに全部終わるかはわからねえが、俺にできることは責任もってやるぜ! 優先して直してほしい所があったら、遠慮なく言え!」



ゲンが景気よく顎を上げると、鶏冠のような銀髪モヒカンが「ブオンッ」と音を立てるように跳ね上がった。



最後までご覧いただき、ありがとうございます。

続きが気になる!ココが面白い!と思っていただけたら、コメントやブックマーク等していただけると、今後の執筆の励みになります<(_ _)>!

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