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神アタリ先生の異世界調合  作者: 氏子かぞく


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第11話 セティアの能力




「おなかが空きましたね。何にもないですけど、何か用意しますね」



セティアが竈に火を入れて、お椀半分ほどの穀物粉に水を加えて練った物を焼き始める。



竈の傍らには、豆の入った作り置きのスープがあった。



これが一食分だとすると、食糧事情はかなり悪そうだ。



焼き終わると、2つのお椀にとりわけ、豆の入ったスープを添えて出してくれる。



もともと少なかった食糧を2人分に分けたことで、ほんの1~2口程度の昼食が出来上がった。



「もともとこの食糧は、君の分じゃなかったのかい?」



「アタリさんはこれからこの家で暮らしていかれるのでしょう? でしたら、これはこの世帯分の食糧になりますので、お気になさらないでください」




俺は手を合わせ、「いただきます」と言った。



セティアは両手の指を組んで、「恵みに感謝を」と言った。




なるほど、ここではそう言うのか。


これからはそう言い替えよう。




料理の味は予想していたことだが、塩気が少しする以外は何も味がしなかった。



セティアによると、この集落では、家屋に共同生活する世帯ごとに納税する義務があり、それぞれの世帯ごとに納めた納税品に応じて、食糧や生活必需品と交換できる配給金が給付される。



納税は物納が原則で、それぞれの世帯で暮らす者が生産したり、狩猟した物の価値を弁務官事務所の担当官が判断して配給金に反映させるのだという。



生産物は自分の世帯で消費することはできるが、他の世帯に売ったり、物々交換をすることは許されていないらしい。



「セティアが納めている物はどんな物なんだい?」



セティアは部屋の隅に置かれた箱を持ってくる。



中から複雑な幾科学模様のような編み方をされた美しい敷物が出された。


大人ひとりくらい座れるサイズだ。



「私の作る敷物は”夫婦茣蓙(めおとござ)”といって、夫婦で過ごすときに敷く物なのです。ひとり用の茣蓙もあるのですが、一人用のに比べて夫婦茣蓙の方が価値が高いので、一月分の納税品で私が作れる物と言ったらこういうものしかなくて……」



一枚作るのに手間と時間がかかるため、付加価値の高い夫婦茣蓙一枚を仕上げるので手一杯らしい。


まだ半分くらいの完成度だそうだ。



あと五日ほどで納税期限だが、病で臥せっている間は作業が中断してしまい、いまから再開しても恐らく納期には間に合わないという。




「納税期限の延長をしてもらうことはできるの?」



「その場合は最低限の配給金しか受けられなくなり、食糧を購入することもままならず、生活に支障がでてしまいます」



沈んだ表情でセティアは言う。



先月納税した際に受け取った配給金は、この1カ月間の食糧費でほとんど使い切ってしまい、今は銅貨が数枚程度しか残っておらず、今はパンひとつ買うこともできない経済状態という。



ちなみにパンひとつあたり15ルクス、銅貨15枚は必要だそうだ。



納税品が間に合わなかった場合の配給金はごくわずかと聞いているらしいが、いくら給付されるかはそのときにならないとわからないという。



そのうえ、これからだんだんと冷えてくる季節に入り、薪などを用意したりと、いろいろ物入りになるらしい。



セティアの作った敷物を手に取らせてもらう。



手触りが非常に良く、柔らかで厚みがある上質の生地だ。



この敷物一点で一月分の納税品として認定されているということからしても、これは生活用品ではなく、工芸品に相当する物ではないだろうか。



今からこの敷物を納税期限までに仕上げることができないならば、その他の納税品を考えなければならないだろう。



これだけの敷物を一人で作り上げるからには、セティアは織物に関する高い生産技術があるはずだ。



ほかの布製品を作れないこともないのではないか。




「これはどういう方法で作るんだい?」



「私の一族は、魔力を使って体内で糸を生成することができます。糸の色を変えながら、模様を合わせるようにして生地を編んでいくんです」




なんと。魔力で糸を生成して作るとは、全くの予想外だった。



そうなると、この敷物はセティアが自分の身体の一部を削って出来たものなのか。




俺の頭に浮かんだのは、自分の羽毛で布を織る美しい鶴の化身の娘の物語―――。




狩猟を営んでいた貧しい若者のもとに、ある日突然美しい娘がやってきて、めでたく二人は結ばれた。



娘は別室に籠って機を織り、美しい反物を仕上げる不思議な能力があった。



しかし、反物を仕上げる度に痩せ衰えていく娘を心配に思った若者は、「絶対に中を覗かないで下さい」という娘の約束を破り、中を覗いてしまう。



そこで判明した娘の正体は、以前自分が助けた美しい鶴だったのだ。



「正体を知られたからには貴方様のもとにはいられません」と、涙ながらにバサバサーっと飛び立っていく鶴。



その後ろ姿に向かって、若者は叫ぶ。




「おつう―――っ!」




――そう、みんな大好き、『鶴の恩返し』だ。




まさか、セティアも鶴の化身のような存在なのだろうか。



いきなり現れたお伽話のような状況に、俺の鼓動が徐々に高まっていく。




「そ、その糸でどうやって編んでいくのかな?」



好奇心が先に立ち、思わず訊いてしまった。



セティアが本当に鶴の化身のような感じなら、やはり別室で作業することになるのだろうか。



セティアは、目を瞬くと、ちょっと恥ずかしそうに俯く。



「人前でやるのは少し恥ずかしいのですが……」



愛らしい唇をすぼめて、両手の指を添える。




しゅーーーー




セティアの唇から一筋の糸が吐き出され、指で手繰り寄せられる。



恥ずかしそうに頬を少しピンクに染めているものの、その光景は鶴というより、むしろ蜘蛛。




そっちの方だったかーーー!?




セティアは、吐き出した糸を指で器用に編んでいく。軽くひとまとめにしたものを手渡してくれた。



俺は、恐る恐る糸を手にする。



白く輝く糸は張りがあり、絹のように艶やかで手触りが良かった。



美少女が口から糸を吐く光景は、かなり衝撃的なものがあったが、これはむしろ俺の偏見が招いたギャップ。




悪いのは俺だ!


偏見は良くない!


ダメ、ゼッタイ!




蜘蛛っぽいかどうかはともかく、セティアは身体内で生成された糸を口から吐出することができ、魔力の性質を変化させることで糸の色を変えることができるという。



だが、様々な色の糸で組み合わせ、幾科学模様のように複雑な模様を編み上げるのは、手間と時間のかかる大変な作業らしい。




「私にはこれくらいしか取り柄がありませんから」



セティアは寂しげに微笑んだ。



俺にも何かできることはないだろうか。



世帯ごとで協力して生活していかなければならないのであれば、俺も納税品を作る必要があるだろう。



だが、俺は漢方医。


患者の容態を診た上で薬を調合しなければならないし、必要な生薬が得られるかどうかもわからない。


そもそも、この世界でどのような医薬品が必要とされているかもわからないのだ。




ふと、俺の中でひとつの考えが思い浮かぶ。




「セティアの糸の性質を変化させることはできるの?そう、たとえば伸縮性のある糸とか?」



「こんな感じですか?」と再び、しゅーーーと糸を吐き出すセティア。



手渡された俺は糸を引っ張ったりしてみた。



ほど良く伸び縮みできる糸だった。



「たとえば、この糸を包帯みたいに細長い布にすることはできるかな?」



「包帯?」とセティアは首を傾げた。



なんとセティアは包帯を知らないらしい。



俺は、吸水性の高い素材で血や膿を吸収したり、骨折・捻挫したときに保護、固定したり、さらには圧迫することで止血できるなど、包帯の機能を説明した。



ちなみに、セティアに聞いたところ、この世界で止血をしたり傷口などを保護する場合は、服などを裂いた布で巻いたりするのだという。




「模様はどうしたらいいですか?」




「模様?」と俺は首を傾げた。



布に模様をつけないという発想がなかったようだ。



俺は色も模様もつけなくていい、と言った。



そういうことなら、とセティアは口に指を添えた。




シュロロロロロロロロロローーーーーーーーー




糸を出して編んでいくと思ったら、編まれた一枚の包帯が直接セティアの口からシュロシュロ出てきて、セティアの手でクルクルと纏められていく。




俺は本日2回目の衝撃に顔色を失った。




偏見は良くない、と自戒した直後だが、予想の斜め上をいく展開に心が追いついていけない。




拳ひとつ分くらいの一巻きの包帯になると、セティアは吐出を止めた。



出来上がった包帯を渡された俺は感触を確かめた。



ガーゼとは違った絹のような滑らかな素材だが、ほど良い伸縮性と吸水性がありそうな上質な手触りだ。



これなら医療用の包帯として十分な品質と言えるだろう。




「素晴らしい出来だと思うよ。身体の負担はどう?病み上がりで疲れたんじゃないかい?」



「いえ、これくらいならぜんぜん大丈夫です」



ニコリとして、セティアは言った。




それからの5日間、俺はセティアと試行錯誤しながら最適な品質の医療用包帯づくりを進めることにした。




いろいろと調べた結果、最初に作った包帯は非常に高品質であり、あたかも人工皮膚のように肌に吸い付くような感触で、吸水速乾性が非常に高く、汚れも簡単に洗い落とせるうえ、耐久性が極めて高いということがわかった。



だが、消耗品として使うには品質が良過ぎる。



高級品としての需要があることを見越して一定量は作っておいてもよいかもしれないが、それ以外はもっと低品質の包帯を揃えた方が良い。



医療用消耗品として必要とされるのは質より量だ。



その点、セティアの包帯は品質を落としても、肌触りと吸水速乾性が多少劣るくらいで、耐久性はそこまで悪化しないことがわかった。



これなら品質としては全く問題ない。



連続して包帯作成をしても、セティアの身体への負担はほぼないことがわかると、セティアは納税期限までになるべく多くの包帯を作りたいと言った。



セティアの体調管理と包帯の品質確保を考慮し、あまり無理をしない方がいいと俺は助言したが、結局セティアは一日のほぼ大半を包帯作りに費やした。



その結果、セティアは納税期限までに

高級包帯100個と一般包帯1000個を作り上げた。



最後までご覧いただき、ありがとうございます。

続きが気になる!ココが面白い!と思っていただけたら、コメントやブックマーク等していただけると、今後の執筆の励みになります<(_ _)>!

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