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オール5の落ちこぼれとクビにされたけど、俺のスキルは"好きなだけ極振り"できるらしい 〜表示は最弱、中身は無双。誰も俺が"名無しの怪物"だと気づかない〜  作者: りおりお
第1章「最底辺の烙印と『能力再分配』の覚醒」

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第9話 森の主と斬撃をまとう掌底

 主の低い唸りが開けた空間の空気をびりびりと揺らした。


 合図はそれだけで十分だった。


 周囲の暗がりに並んだ取り巻きども――ひと回り小さなフォレストウルフの群れが、いっせいに牙を剥いて地を蹴る。左右から、背後から。十を超える影が唸りを上げて俺めがけて殺到した。


 なるほど。数で押し包んで、消耗したところを主が仕留める算段か。群れで狩る獣らしい堅実な戦法だ。


 だが。


「悪いな。その手はさんざん洞穴で見飽きたんだ」


 俺は指を滑らせ裏に溜め込んだポイントを一息にAGIへ叩き込んだ。


『AGI:440』


 世界の速度が、がくんと落ちる。


 牙も爪も、宙で凍りついたように緩慢に見えた。俺は最小限の足運びだけでその濁流をすり抜ける。狼の顎が虚しく空を噛み、あとには俺の残像だけがぽつんと置き去りにされた。


 すれ違いざまに一体の脇腹へ手のひらを添える。次の刹那、AGIからSTRへ――全ポイントを瞬時に乗せ替えた。


『STR:440』


 軽く押し込んだだけの掌底が狼の巨体を横倒しに吹き飛ばす。木の幹に叩きつけられた影は、二度と起き上がらなかった。


 避けるときはAGI。触れるときはSTR。コンマ数秒でスイッチを切り替えながら、俺は群れの中を舞うように泳いだ。


 一体、また一体。手のひらが触れるたびに影が沈んでいく。やり込んだ格ゲーのコンボと同じだ。相手の隙間を縫い、途切れさせず次へ繋ぐ。牙の届かぬ間合いを一瞬で作り、作った端からまた踏み込む。


 瞬く間に取り巻きの群れは物言わぬ骸の山へと変わっていた。


「さて」


 俺は息ひとつ乱さず、中央の巨影へと向き直る。


「お待たせ。次はあんたの番だ」


 主が、初めて動いた。


 地を蹴る一歩でその巨躯が掻き消える。


 ――速い。


 取り巻きとは比べ物にならない。さすが格上と称賛する暇もなく、銀灰の影は俺の眼前に迫っていた。裂けた口が牙を剥き、そのまま喉笛を食いちぎろうと襲いかかる。


 俺はぎりぎりで首をひねってかわした。頬のすぐ横を灼けるような熱風が通り抜ける。


 だが主の攻めは止まらない。かわした先へ回り込むように、鞭のような尾がしなって薙ぎ払われる。とっさに身を沈めてやり過ごすと、今度は逆側から爪が跳ね上がってきた。速い。重い。しかも一撃ごとに次の手が淀みなく繋がってくる。


 なるほど。ただ強いだけの獣じゃない。こいつは"戦い方"を知っている。


 と――その主の喉が、ぐう、と低く鳴った。


 直感が警鐘を鳴らす。来る。


 次の瞬間、主が咆哮とともに前肢を薙いだ。爪の軌跡に沿って空気そのものが刃と化す。目に見えぬ斬撃の風が、俺の立っていた地面をごっそりと抉り飛ばした。


「へえ」


 紙一重で跳び退きながら俺は思わず感嘆した。


 ただの獣かと思えば、芸を持っているじゃないか。今のは間違いなく"スキル"だ。風を刃に変えて飛ばす、遠隔の斬撃技。


 そして――俺の脳内の画面が、その技をしっかりと捉えていた。


『解析中……スキル《斬撃強化Ⅰ》を検出』


 ほう。


 俺のスキルは、どうやらステータスをいじるだけの代物じゃないらしい。敵の放った技の構造を覗き見て、そっくり手元へ写し取ることもできる。


『《斬撃強化Ⅰ》を習得しました』


 脳内画面の隅に真新しいスキル欄がひとつ増えていた。


「悪いな。いい技だ。ありがたく貰っておくよ」


 主が、俺の余裕をあざ笑うように吼えた。


 再びの突進。今度は先ほどより速く重い。前肢の一撃、牙の連撃、そして時折混じる斬撃の風。格上の猛攻が休む間もなく降りかかる。


 だが――俺は避けなかった。


『VIT:440』


 全ポイントをVITへ。


 振り下ろされた爪が、まともに俺の肩口を捉えた。


 鈍い衝撃。だが、それだけだ。硬化した肉体の前で格上の爪は皮一枚裂くこともできず、火花じみた手応えだけを残して弾かれた。返す牙も、しなる尾も同じこと。俺の体に食い込む寸前で、ことごとく力を失って滑り落ちていく。


「……なるほど。これは確かに悪くない防御だな」


 主の隻眼が初めて戸惑いに揺れた。


 最弱に見えた獲物が渾身の一撃を平然と受け止めている。獣なりに、理解が追いつかないのだろう。


 だが、付き合うのもここまでだ。


 俺は肩口に食い込んだままの爪を掴み、主の巨体をぐいと引き寄せた。逃がさない。この間合いこそ、俺の一撃が最もよく届く距離だ。


『STR:440』


 VITからSTRへ。すべてを乗せ替える。


 そして覚えたばかりの技を――拳ではなく、開いた手のひらへと纏わせた。


『斬撃強化Ⅰ』


 手のひらの周囲で空気がぎちりと軋んで刃と化す。


「餞別だ。持ってけ」


 俺は、その胸元へ掌底を叩き込んだ。


 ――ドンッ、と。


 空気が爆ぜた。斬撃をまとった一撃が格上の巨躯をまっすぐ後方へと撃ち抜く。


 主は数十メートル先の巨木をへし折り、なぎ倒し、そのまま動かなくなった。


 静寂。


 森の主のあっけない最期だった。


「ま、こんなもんか」


 と――呟いた、その時だった。


『警告:Lv30個体による物理法則の整合性喪失を検知。安全措置を強制シャットダウンします』


 脳内に、いつぞやとまるで同じ調子の無機質な警告が走った。


 ぴしり、と。


 Lv30を頑なに閉ざしていたあの見えない天井に――ひびが入る音がした。


『セーフガード、クラッシュ』

『保留経験値プールを開放します』


 次の瞬間。


『レベルアップ』

『レベルアップ』

『レベルアップ』

『レベルアップ』――


 堰を切ったダムのように、脳内でレベルアップの音がマシンガンじみて鳴り響いた。せき止められていた経験値が一気になだれ込み、数字が目まぐるしく駆け上がっていく。


 そして。


『天宮 湊 Lv.80』


「……はっ」


 Lv30から一足飛びにLv80。溜め込んだダムが予想通りに決壊したわけだ。


 裏の未配分プールを覗けば、ポイントの桁がまるで変わっている。極振りすればもう一項目で軽く千を超える。その一点だけなら、A級ランカーはおろかS級の領域にすら踏み込む数字だ。


 それでいて、表向きの俺はあいかわらずオール5の最底辺のまま。ずいぶんと剣呑な"最弱"になったものだと思う。


「悪くない。実に悪くない収穫だ」


 俺は倒れ伏した主に背を向け、開けた空間から森の出口へと歩き出した。


 この隠し領域の"お楽しみ"も、これで打ち止め。この森で得られるものは、もう粗方いただいた。


 さて――次はどこへ足を向けたものか。


 まだ見ぬ格上の気配を求めて、俺は霧の晴れた森を悠々とあとにした。


ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』と『レビュー』をよろしくお願いします。


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