《最終回》誕生日
「終わったん・・・ですね」
先程のレインボウによって空は晴れ間を見せ、大きな虹が架かっている。
その光景を見て、響は呟いた。
しかし、そこには先程まで戦っていたアリスが以前見せた少女の姿で横たわっている。
「アイツ、倒しますか?」
朝江がふらつく足を押さえながら周囲に問う。しかし、雨音はそれを制止する。
「やめた方が良いわ。彼女は世界を節制する元の状態に戻っている筈だし、
朝江さんだってもう体力は残っていないでしょう?」
「確かに・・・さっきの必殺技で体の殆どの体力を奪われてしまいました。
それ程までに高い威力を持っていたのでしょうか」
響が息を切らしながら言う。朝江もそれに頷く。
「ええ。私もどっと疲れたわ。早く旅館に戻りましょう・・・・・・」
そう言うと雨音ら三人は倒れてしまった。
「本当に本当の最終奥義だったって事か・・・・・・本当に良く、
頑張ってくれたぜアイツらは」
彼女らの姿に、晴斗は微笑む。
「まぁいい。こいつらを連れて旅館へ行こう」
四楼が頭を掻きながら言う。そこへ丁度大きめのキャラバンが彼らの元に到着した。
「遅くなったな、曇天。彼女らを運ぶぞ」
キャラバンから顔を出したナルラトテプが言う。彼の姿に錫が驚く。
「ナルラトテプ!?お前今まで一体何をしてたんだ!?」
錫が指を指して叫ぶがナルラトテプも見覚えの無い男から突然指摘されて戸惑うが
特に気にするでも無く用件を話す。
「ああ・・・こいつらを運んでた」
ナルラトテプが後ろの座席へ振り向く。するとキャラバンのドアが開いて鬼原、
ヘルマンが出て来た。
「やぁやぁ皆!取り敢えず佐伯君達をこのキャラバンに乗せてくれ。取り敢えず旅館は
貸切にしといたから皆一緒に行こうや」
「鬼原、お前もそこにいたのか。兎に角、貸切にしてくれているなら丁度良い。
佐伯らを休ませるぞ」
この状況下でいつものペースを崩さない鬼原に気後れしながらも晴斗が指示をする。
それを聞いてそこにいる面々が協力して雨音らをキャラバンの中へ運ぶ。
「これで良し、と・・・一段落した所で聞きたい事があるんだけれど、何で山本錫が
そこにいるんだよ!?」
鬼原が指を指して叫ぶ。
「実はコイツ、アリスっつー今回の元凶に操られてたんだよ」
晴斗がそう言いつつ錫の肩を叩く。
「はい。形式上そうなっているのですが、人を殺めてきたのは僕のこの手です。
これから僕はその贖罪をさせて頂く所存です」
錫が丁寧にそう言う。その姿に鬼原はたじろぐ。
「ああそう、操られていたのね。確かにテンペがやりそうな事ではあるが・・・
こっちの超絶可愛いロリっ子は?どちら様?」
鬼原が冷や汗をハンカチで拭いながら問う。その答えは彼女も薄々感づいていたが、
改めて言われると流石驚きを隠せないだろう。
「・・・・・・アリス、だ」
晴斗が眼鏡を掛け直して答えた。それに対して鬼原の開いた口が塞がらない。
「お、おう」
「そんな反応をされるのも凄く共感できるが、俺達にも何が何やら分からねえんだ」
鬼原の気の抜けた返事に晴斗も溜め息を吐く。
そうしていると、ナルラトテプがキャラバンの発車を伝える。
それを聞いて皆は準備を整える。
「準備は出来たか。発信する」
ナルラトテプがそう言うとキャラバンを出す。
そしてそのまま旅館へ戻る。
暫くの間キャラバンに揺られ、旅館付近の駐車場に到着する。
そこから旅館へつらつらと歩く。旅館の前では女将や手伝いの方々が
並び、彼らを出迎える。
「おいでやす。あらあら、そちらのめんこいお嬢さん方は疲れはったんですか?
お運びお手伝い致します」
女将が気を利かせて言う。その言葉に甘えて雨音らを任せる。
「それではお部屋に運びます」
はい、と晴斗が答えると、面々は部屋へ運ばれていく彼女らを尻目に"サプライズ"を
進める。
「さて、明日に備えて準備をするか。ここの大広間を使うのは許可済みだ」
晴斗が腕を組み伝える。それに皆が各々返事をする。
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翌日、雨音が目覚めると、いつの間にやら旅館の自分の部屋にいた。
少し戸惑ったが、隣で眠っていた響と朝江を見て、昨日の事を思い出す。
外はもう日が上っていてふと気付く。
「私の、誕生日・・・・・・!」
すると雨音は二人を叩き起こす。彼女の声に二人は目を擦りながら目覚める。
響は外の晴々しい日差しを見て今日のイベントに気が付く。
「雨音、今日でいくつ!?」
響が雨音の肩を抱き、寝起きとは思えない声で雨音に問う。
「レディに聞くかしら?」
雨音が微笑むと響は彼女を抱きしめた。
「雨音ぇ、誕生日おめでとう、ございます・・・・・・!!」
響の激励に雨音は目を潤わせながら響を抱きしめる。
その姿に同じく目覚めた朝江が亜然とする。
「寝起きからとんでもないシーンを見てしまった・・・」
朝江は小さく溜め息をしながら呟いた。
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雨音らの支度が整い、京都へ再び買い物へ行く。
「お昼は向こうで済ませるわ。六時には帰って来るわね」
雨音が母にそう伝えると雨音の母が帰って来たら大広間へ来るよう伝える。
それを聞いて雨音が頷く。
「それじゃあ行ってきます」
そう言うと雨音達が旅館を後にする。
彼女らの後ろ姿を見て雨音の母が感慨深く思う。
「大きくなったわね、雨音・・・・・」
「この短い間で雨音はたくさんのお友達・・・たくさんの大切なモノを手に入れたわ」
雨音の母が涙を拭く。そして大広間へ向かう。
「さぁ、私も準備しなくちゃ!大事な雨音の誕生日をこんな大人数で祝うんだから
頑張らないと!」
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「そういえば雨音、私達の体の不調もなんだか治っちゃいましたね」
道中響が瞬きをしながら言った。
「ええ。あれは恐らく急激にナノクオーツを消費して因果律を失ってしまったからだと
思うわ。だからまた羅刹になった響さんの目は治って、私の意識も・・・・・・」
雨音がそう言っていると、突然あっ、と声を出した。
「あの子、私の別人格はどこに行ってしまったのかしら?」
それに響が答える。
「うーん、あの意識も因果律の副作用の様なものだったのかも知れませんね。だとしたら
少し寂しい気がします」
「ええ。リボンもあの子にあげる筈の物だったのに」
雨音が俯く。しかしその辛気臭い面持ちを吹き飛ばす様に朝江が言う。
「そんな気負わないで下さい、彼女はきっと佐伯さんの心の中の深層心理。
またいつか会えますよ」
その言葉に雨音はそうね、と返す。
「それじゃあお店回って行きましょうか!」
響が手を大きく上げ、叫ぶ。
彼女らは京都の名所、清水寺や五条大橋、渡月橋を渡りながら響の探すリボンをす。
嵯峨付近の飲食店にて食事を済ませると、再びリボン探しに出る。しかし、中々
目ぼしい物が見つからない。
「うーん、見当たりませんねぇ」
響が首を傾げると、朝江が一つ提案する。
「私の因果律、ケルベロスを使いましょう。三体まで随伴機を呼び出せるので
そいつらに一緒に探して貰いましょう」
朝江がそう言うと、虚空から三機のケルベロスユニットを模した機械的な随伴機が
浮遊する。それらは透明化し、朝江以外に視認する事の無い物となる。
「さぁ、行って来い!」
朝江が言うと、随伴機らは各方向へ散開し、目当てのリボンを探しに飛ぶ。
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一方、雨音らが出かけて暫く。残った面々は大広間にてパーティーの準備を進める。
もうすぐ三人が帰って来るので作業も忙しくなる。
「それにしても、こうやってまた兄さんと会えたのも不思議な気分だね」
鈴が兄である錫に言う。それに対し錫もああ、と答える。
「僕も、何故こうやってパーティーの飾り付けなんてしているのか不思議だよ」
「それでも、お前のお陰で作業が捗っているんだぞ」
苦笑する錫の肩を四楼が叩く。
「錫のリヴァースで生み出したアイツら、結構良い働きをしているじゃないか」
四楼が目を後ろへ流すと、錫の傀儡が料理の盛り付けやたこ焼き機の設置をしている。
彼らもまるで喜んでいる様だった。
「そうか・・・なあ四楼。これから僕に出来る事って無いだろうか?」
錫が四楼に問う。すると四楼は笑顔で言って見せた。
「今、篠崎重工で面白い計画が進んでいるんだ。東京の田端に車両基地があるだろう?
あそこを改修して研究所にしようって言うんだ。お前そこの所長になれ」
四楼の突拍子も無い言葉に錫が言葉を失う。
僕で良いのか。錫のその問いに四楼が頷く。
「お前しかいないんだ。だから、さ」
「僕にしか出来ない・・・か」
錫がそう呟いていると、旅館の戸が開く。雨音達が帰って来た様だ。
「ただいま!」
三人が声を揃えて言う。彼女らの声を聞いて雨音の母が飛び出す。
「おかえりみんな。それで誕生日プレゼントは見つかった?」
雨音の母の質問に響が大きく頷く。
「はい。ご飯を食べ終わるまでどう言うリボンかは内緒ですよ」
それを聞くと雨音の母は三人を旅館へ上げる。
そして、三人を大広間へ案内する。
大広間の戸を開けると、そこには雨音の誕生日を祝う飾りと、
今まで関わって来た人々が集っていた。
「雨音、誕生日おめでとう!!」
全員のその言葉と共にクラッカーを放つ。
響、朝江も隣で雨音を祝う。
「皆・・・・・・ありがとう」
雨音はその場で泣き崩れた。今までの辛かった思い出、仲間との出会い、別れ、再会。
この短い間にも雨音を取り巻く事件や思い出が彼女を強くさせて行った。
雨音達の物語はまだ続く。
またいつか会う日まで。
たこ焼きパーティーもショッピング回もその時にでも。




