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私の完全無欠の傲慢ナルシス婚約者は婚約破棄の大騒ぎの中でもいつも通りブレないけどそれはそれで嫌

作者:quiet
「以上の状況証拠から鑑みて、聖女セイラの命を狙ったこの事件の犯人は……君、いや、君たちに他ならない! 公爵令嬢ユークレア、ひいては君たち全員……三十人の共犯だ!」
「そ、そんな……、王子! いくらなんでも馬鹿げていますわ!」
「ユークレア様のおっしゃる通り、こんな推理馬鹿げています。……しかし、それ以外にこの事件を起こす術がないこともまた事実」
「ミリアン……? あなたまで、まさか!」
「おっとご令嬢方、動かないでいただきたい。レディに手を上げたくはない」
「バルズレッド……! 見損なったぞ、騎士の誇りを忘れたか!」
「ま、待って……、待ってください! こんなのおかしいです! もう一度、もう一度考えましょう! 絶対に、本当の真実があるはずです!」


 うわあ、すごいことになってる。

 顔が引きつるのを感じながら、遠巻きに私は様子を観察していた。

 今日は華やかな卒業パーティのはずだったのだ。略して卒パだ。美味しい料理を食べて適当に踊っていえーい学園生活、苦しかったけどめっちゃ楽しかったよね!とみんなでにこにこ肩を組んで笑い合う素敵な一日になるはずだったのだ。

 それが今や。

「こうなってはもはや是非もない……、ここにおいて、君との婚約の破棄を――!」
「ま、待って! 早まらないでください!」

 もうおしまいだよこんなの。国が割れますよ。
 お姉さん背中に汗かいてきちゃったよ。結構食べるだろうと思ってコルセットゆるめにしてきちゃったし。

 端緒となったのは聖女セイラ――、平和にパン屋の娘をやっていたところをうっかり宗教的な意味を持つ魔力形質を発現してしまったために、突然貴族社会に放り込まれてしまった同級生の女の子。それでも成績優秀品行方正、驚異の頑張り娘。

 今朝がたのことである。そのセイラが密室で襲撃を受けたとの報が届いた。
 かなりびっくりしたし今日の卒パは中止だろうな、と思った。なのにそのまま開催しますという報も続いて届いた。不審に思いながらも顔を出してみたら、案の定王子の華麗な推理ショーが始まってしまった。

 しかもその推理がえげつなさすぎる。三十人共犯説。確かにそれで綺麗にトリックは完成するけど限度があるでしょ限度が。その三十人というのが公爵令嬢ユークレア様を初めとして国の重役貴族家ばかりだからさあ大変。しかも王子サイドは宮廷魔術師長だとか騎士団長だとかの血縁のミリアンとかバルズレッドとか、これもまた重役ばかりで、しかも犯人側との婚約者だというからもう大変。当の被害者のセイラが必死で状況を止めようと青い顔に包帯巻いて頑張ってる姿が、この状況のノーコントロールの象徴という印象で本当にいたたまれない。

 あとついでに言うなら、その三十人に私も含まれてる。

 私も含まれてる。



「……で、あんたはあっち側に行かないの?」
「ん?」

 と、おしまいすぎる状況を客観的に見つめることで現実逃避していたけれど、そうとばかりも言っていられない。私は隣に立つ婚約者、辺境伯家子息のリューノールに声をかけた。

 返ってきたのはいつも通りの何を考えてるんだかまったくもって透けて見えない静かな微笑みで、仕方ないからもう少し踏み込んで質問を続ける。

「いや、だからね。今、私もセイラ襲撃犯の一人として告発されたでしょ」
「笑えるよね」
「いや全然。全然笑えないから。で、あんたはあっち側に行かなくていいのって話。王子たちとかほら、みんな友達でしょ?」

 リューノールは王子を初めとしたあの探偵サイドの友人メンバーだ。この間も『この世から小麦粉が消えたとして、一体何の材料を使えば限りなくパスタに近い食べ物ができるか選手権』を開催して街を巻き込み一緒に大盛り上がりしていた。こいつらアホだなと思ったけど、ちょっと楽しそうとも思った。

 リューノールは頷いて言う。

「いつも傍にいるばかりが友情じゃないさ。お手洗いとかは別々に行くし」
「いやそういう話じゃないでしょ」

 もう長いこと一緒にいるけれど、未だにリューノールのこういう返しが天然ボケなのかはぐらかしなのかよくわかっていない。人を食ったような、というのはこういう人間を言うのだ。

 と、こんな締まらない話をしている間にも当然のごとく舞台は進行中で、今は王子が「そこまで言うなら初めから事件を振り返ってみよう……」ともう犯人の自白を待つばかりの推理小説みたいな台詞とともに三十人共犯説以外での解決不可能性について説明を始めていて、それに対してセイラが一つ一つとんでも推理をぶつけている。これはこれで見ごたえのある推理合戦だった。ユークレア様は「早業密室……? どうして聖塔から遠く離れた水車が関係して……?」と延々困惑している。たぶん普段推理小説とか読まないんだと思う。頑張って!

「でもほらさ。今ならチャンスよ。行きたいんなら行ってきたら? 上手くいけば私との婚約を解消してセイラと結婚するチャンスかも」
「?????」
「えっ、なんで今そんなハテナマーク飛ばされたの私」
「言ってる意味がわからなかったから。どうしてボクがそんなことをする必要があるのかな」
「なんでって、そりゃあ……」

 セイラって可愛いし。
 超のつく美人だし、スタイルも良いし、頭も良いし、魔法も使えれば剣も使えるし、生徒会副会長もこなして要領も良いし、突然投げ渡された聖女の務めもこれ以上ないくらいに全うしてるし。

 明るいし、健気だし、人の話を聞くのも上手いし、今だって自分が被害者だっていうのに事態を収拾しようと頑張ってるし。どうせ国がハチャメチャになるんだったら、こういう子と一緒に生きていきたいと思うのはごく自然な感情だよね。私だってそう思うもん。王子たちも聖女襲撃事件の解決のためってのもあるだろうけど、半分くらいはセイラの魅力にやられて暴走してるんじゃないかな。

 というようなことを考えていたらものすごくみじめな気持ちになってきて、口から出たのが、この言葉。

「私……、ブスだし」

 実際にはクラスで三番目くらいには可愛いよな、と思いつつそんなことを言うと、リューノールは碧い瞳を私に向けて、そのあとセイラに向けて、もう一回私に戻して、爽やかに、二、三度、頷いた。



「大丈夫、ボクから見ればどっちもブスだ! 大差ないさ!」



 そう言って、リューノールは、この国どころか世界でも一、二を争うであろう美貌をキラキラ煌めかせて、にっこりと笑った。

 はっ倒してやろうかと思った。

「クウリ、そんなに自分を卑下することはない。ボクのような完全無欠の麗しき天上人から見れば万事万象悉くボクより下だ! 下にいる者同士がどんぐりの背比べに落ち込むことはない。空から見れば何もかも低く、下等なのだから……」

 ひょぅおお~、みたいな声が出そうになった。怒涛の勢いである。

「確かに聖女殿はボク以外の人間にしては優秀な方なんだろうね。王子と対等に知恵比べができて、ミリアンと魔術理論の共同研究ができて、バルズレッド相手に得物勝ちとはいえ対等に戦える相手はそういないだろう。

 でもボクには関係ない。王子もミリアンもバルズレッドも、ボクの足元にも及ばないからね」

 ところでこの会話、一見私とリューノールの二人だけで行われているように見えるだろう。
 そんなことはない。卒パの会場内である。みんなが推理合戦に注目しているとはいえ、周囲にはダダ漏れである。『国の重役とか言うけどあいつら全員ボクより下』と言い放つリューノールの言葉が。

「いや、あの」
「君の気にする顔についてもそうだ。確かに聖女殿はそこそこ整った顔ではあると思うがね。所詮はボク()()だよ。世界で一番美しい犬とまあまあ整ったミドリムシくらいの開きがある」

 どういうたとえだ。
 というか世の中には犬よりもミドリムシの方が美しいと思う人だっているかもしれないだろ。全人類が犬派という前提で話すんじゃない。

「あのね、スイッチ押しちゃったのは謝るから」
「ボクは結婚相手に優秀さを求めない。そんなことをしたら結婚する相手がこの世にいなくなってしまう。なぜならボクの目から見て優秀に値する人間などいるはずもないからね。どうでもいいんだ、そんなこと」
「うん、あのね。声のボリュームをね」
「というか今まで気付かなかったけれど、まさかクウリはボクとの釣り合いとかそういうことを気に病んだりしていたのかな。

 安心するといい! ボクと釣り合う人類などこの世にいない! 全員釣り合わない! 全部虫けらみたいなものさ!」
「ちょっと黙ってろ」

 リューノールの足の甲に狙いを定めた。思い切り踏み下ろした。ひゅっ、と空を切る音がした。

 信じられるだろうか。この男、当然の権利のような顔をして私のヒールを避けた。そこは素直に食らっておくべきではないだろうか。言いたい放題言っておいて一切の痛みを拒絶するというのはおよそ人間に許されるべきでない傲慢である。そして攻撃が外れたために順当にリューノールの独奏会が続いてしまう。

「それにほら、ナンバーワンよりオンリーワンというだろう。君は確かに美しさにおいてはボクと比べるのも可哀想になるほど劣りに劣っているが、その間抜けたかわいさについてはボクの最高の審美眼をもってしても驚嘆に値する独自性がある。

 覚えているだろうか、十年前の春の日に、君が寝言で『ぶぶひー……。もう食べられないぶー』と言いながら心底幸せそうな顔でおもむろにお腹を、」
「ほわあーっ!! わぁああーっ!!  あーあーあーっ!!」

 知られたくない過去が大声で暴露されそうになったので、思わず私は恥も外聞も気品も貴族根性も投げ捨てて捨て身の回避を試みる。

 そして会場内のすべての視線が私たちに集ってしまった。
 王子とセイラすら、推理合戦の舌を止めてこっちを見ている。

「リューノール、お前というやつは、この一大事に何を……」

 すみませんこいつに悪気はないんです。ただちょっとナルシストが極まってるだけなんです。

 そういう風に王子に弁解しようと思ったけれど、よくよく考えると私も告発される身であるし、そもそも弁解になっていない。

 そしてリューノールは、そんな王子の言葉を気にした風でもなく、いつもの何を考えてるんだかよくわからない、異常に美しい微笑み顔でするり、と会場を見渡した。それから「ふむ」と知ったような顔で頷く。

「もう少し友人たちの醜態を見ていたくもあったけれど……。こうして注目されてなお舞台に上がらないのも、もったいぶりすぎか。いいだろう。この稚拙な密室トリック、このボクが直々に解いてやろうじゃないか」

 そう言ってリューノールは王子とセイラの方へ、推理劇の中心へと歩みを進める。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

「ああ、そうそう」

 その道の途中、リューノールはテーブルナイフをひとつ手に取る。
 それから、手首だけで、ひゅんっ、と投げつけた。

 きゃっ、と響いたのは誰の声だったか。

「喜劇の礼だ」

 そしてそのナイフの投げつけられた先には、いつから潜んでいたのやら、色褪せたローブを纏った、怪しい人物が立っている。
 たった今、そのローブと壁を、ナイフに縫い付けられた状態で。

 リューノールは、その人物に、穏やかに微笑んで言う。

「名も知らぬ邪霊よ――、最後まで特等席で見ていくといい。

 名探偵の推理劇を、犯人の立場でね」

 私は汗ばんだ手を握ったり、開いたりしながら考える。

 王国歴代最高の天才のこと。

 剣を握ったその日より無敗。
 その魔術理論は深遠玄妙にして真なる魔の極致。
 幼き時分に己が美貌に見惚れ泉に身を落とし、過ぎること九日九晩。再び地に身を現したときよりその顔に光るは碧の精霊眼。万里を見通すはその恩恵か、はたまた冴え渡る知恵の賜物か。

 そして、何より、


――ぶー、ぶひー……、んあっ!?
――ぶたさん?
――ち、ちがっ、いまのはねむくて、
――おなかかゆいの?
――ち、ちがう。……ちがいますっ!
――……かわい。
――え?
――とうさま。ぼくはこのこがいいです。


 あの日から、ずっと。

「気にするに、決まってるでしょ。……釣り合いたいもの」

 私の隣に立つ、静かな笑顔。

「さあさあ王子にミリアン、バルズレッドを初めとした愚か者どもが愚かにも愚にもつかない迷推理を繰り広げていたようだが残念ながらそこにひとつとして真実などない。三十人共犯説というダイナミックさについては点数を与えてやってもいいけれど、しかしそれだけだね。

 だけどそう落ち込むことはないさ! ボク以外の人間はみな愚かで、愚行を犯すのも当然の存在なのだからね! ちなみにこの愚かな推理を黙って聞いていた諸君らも愚かだぞ! 数々の推理を披露しながら一つとして王子たちを説得するに能わなかった聖女殿も言うまでもなく愚かだ!」
「言い方が悪すぎるでしょ!」

 あまりの言い草にずんずん進んでリューノールを諫めようとすると、ふわりとごくごく自然な動作で、指先を絡めとられる。

「諸君らに紹介しよう。彼女はクウリ。これからボクが披露する華麗なる名推理に平凡極まりない素朴な合いの手を入れて諸君らの理解の手助けをしてくれる、探偵助手にしてゆるキャラさ」
「誰がゆるキャラかっ! ……ゆるキャラですかっ!」

 否定の合いの手は残念ながらリューノールの琴線に触れなかったようで何らの訂正もないまま、彼は会場をぐるりと見渡し、視線を集めながら言い放つ。

 はっきり言うと、リューノールがいつもの調子で解決に乗り出した時点で事件は終わりである。ひょっとしてひょっとすると今回ばかりは彼の手に負えないのではないかなんてちょっと思ったりもしたけれど、結局いつもの流れになってしまった。そうすると私のやるべきことは事態が解決した後にいつも発生する謎のオーバーランを最小に抑える努力になるんだけれど、今回のように国の一大事となればさすがにリューノールも自重するだろうし、これについてはそれほど心配する必要もない。……ないよね?

 となると、目下最大の心配は、いつもいつだって抱えているそれのことで。


「さあ始めよう。聖女密室襲撃事件――その美しき解決編を!」


 婚約者にかわいさ含めて全部負けてる私の明日はどっちだ。

 そんなことを、ぎゅうっと握られた左手を見ながら、考えていた。

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