幕間① 水守のノート(訳)・その一
〔スイラン・アルナ・ナギア・ルーダ、ナギアの泉守の記録。この地の水の道を写しておく。村へ持って帰るために〕
(表紙に、この地の字で日付が一つ。持ち主の字ではない)
〔ため池の取水口〕
(図。池の取水口、ポンプ、斜面を下りる太い管。上から三段目に、小さな丸)
ここで、二人で直した。
村の泉は、湧いたぶんを、湧いたときに配る。この池は、降ったぶんをためておいて、夏に配る。水を、先の季節へ送っている。
小屋の壁の図には、ところどころ茂どのの字がある。わたしには読めない。二人で直した所の印の横にも、一つあった。茂どのも、そこを疑っていたのだと思う。
〔台所の蛇口〕
ひねると、いつでも出る。夜中に三回確かめた。三回とも出た。水は、花と鉢と、わたしで分けた。
コップを三つ並べたところを、家の娘に見られた。四回目は、見られない夜にする。
〔みかん〕
(図。花の形に開いた皮。その上に、すじを長い順に)
家の娘が紙に何か書いて、審査だと言った。家の娘はすじを取らない。わたしが名を全部言うより早く剥いて、二房まとめて口に入れた。
わたしは、すじを長い順に並べた。点は、まだ聞いていない。
この家の実は、秋に食べさせてもらえる。そう言われた。
〔モノレール〕
斜面をまっすぐ上る、細い道。水を運ぶのかと聞いたら、みかんを運ぶのだと言われた。
がっかりしたのを、家の娘に見られた。この道には、悪いことをした。
〔海〕
全部、塩の水。飲めない。
なんて、もったいない。
村には、海がない。これを真水にする方法を、この地の人は、たぶん、もう考えている。家の娘に聞く。
〔町の大きな店〕
入口に、押すと水が上がる箱がある。押さなくても上がってくる泉を、わたしは一つ知っている。後ろに子どもが並んでいた。一人一回、だそうだ。
見るためだけに水を上げている所もある。誰も礼をしない。この地の水は、礼をされなくても怒らないらしい。うらやましいのが水なのか、この地の人なのか、まだ決めていない。
手洗いの前の壁の中を、水が通っていた。耳を寄せた。家の娘が、壁とわたしのあいだにいた。音が、少し聞こえにくかった。
地下足袋を、四足はかされた。三足目で、土が分かった。選ぶのに、家の娘は、わたしがみかんを一個剥くより長くかかった。そのあいだ、一度も顔を上げなかった。
(余白に)
〔傘の上の雨。頼まれた。礼は、この地の言葉で言った。四行目の「二人のための」だけ、少し考えた〕
〔分かれ〕
(図。四角い升、板一枚、切りこみ二つ。来る水を十として、右に四、左に六)
茂どのの父の、そのまた父のころに、下の田んぼの広さで決めたという。
村でも、泉から下りる水路が二つに分かれる所がある。そこの板の切りこみは、わたしの師が刻んだ。誰も触らない。触った家と、触られたと言った家が、十年口をきかなかったからだ。
力丸どのが板に手を伸ばしたので、強い声で止めた。測るだけだと、分かっていた。村の癖が、先に出た。
力丸どのは、板に当てないと測れない所は、言わない。右が少ない、までだと言った。村長に見せたい。
〔笹の舟〕
(図。葉の端を折り、三つに裂き、両わきを組む)
一艘目は、裏返った。舟は、底を少しふくらませるものらしい。家の娘は、長い礼を一つ言い終えないうちに、二艘作る。
少ない水は、細くすれば速くなる。村の水路のやり方が、この地の溝でも通じた。
赤いはさみの獣に、指をはさまれた。向こうに、悪気はなかったと思う。
勝った。舟一艘ぶん。力丸どのは、わたしの名を、聞き返さずに全部書いた。
〔王子〕
井戸と管の話が通じる。主旋律は譲らない。勝負の途中で、こちらの溝に泥を運んできた。
井戸は、来月見せてもらう。聞くことが、二十三ある。
〔ミロへの返事の控え〕
一通目。鍵は返す。生きている。
順番が逆だと、家の娘に言われた。逆ではない。鍵の倉庫に、水当番の桶がある。わたしが生きているかより、桶のほうが先だ。
二通目。長くなった。控えは、要る所だけ。
名簿の改革は、帰ってから聞く。三軒ぶん早いのは、認める。村長には、わたしから謝っておく。
腹は、出していない。
(最後の頁の余白に。ほかの頁より、あとから書き足した字で)
〔水の記録。水汲みの歌の返しを、家の娘に頼んだ。一回目は、家の娘の声が裏返った。三回目で、「受け取りました 一杯の水」「来年の実で 返します」と、終わりまで歌ってくれた。花が四十一しかなかったあの枝の、来年の実を、見たい〕




