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倒してくれる勇者募集中  作者: ミッキー・ハウス
第二章 選定編
39/39

夜の舞踏会1

お久しぶりです、マジでお待たせしました!

ようやっとマロを起こして城内に入れた。

マロの安眠の邪魔しちゃったけれど、必要だったから許してほしい。


騒ぎにならないようにと先に人払いをしていたみたいで、マロと俺は人目につかないようこっそり裏門から城壁内に入ると、まっすぐ会場直結の控室に入れられた。

そこからは俺とマロは色々と準備することになる。

マロには毛の艶を良く見せるために専用の油を塗られたが、本人にとっては有難迷惑らしく仕切りに体を舐めてた。で、塗り直し。また舐める。エンドレス。

まぁ、天然ものの植物油らしいから舐めても害はないだろうけど、あんまり舐めすぎるとマロが体調を崩すかもしれないから、塗る係りのメイドさんと根比べになりそうなところで止めてもらった。


そして、俺はというと……会食時に着用している(もの)を再び着ることになった。

人前に出るための一張羅。まぁ、礼服としてキチンとした服って、これしかないんだろ。

色々お披露目の手順とか、陛下の御前ではどういう風にお辞儀するとかミッキーに叩き込まれた。一夜づけというより、俺の場合は漬物の浅漬け状態だよな。


しかし、準備が終わったあと控室で待っているのも飽きてきた。

なぜって、俺がマロを連れて入場するのはダンスパーティーが開かれる時間は暗くなってから――――つまり、夜だ。

まだ日が昇っている時間から控室で椅子に座ったまま待機しているというのは、俺にとって苦痛。

隣で大人しく伏せをしているマロは、ちょうどいいお昼寝タイムらしく、目を閉じてすぴょすぴょ寝息を立てている。

床に敷かれている絨毯ふかふかだもんな。……あ、前足ぴくってした。


椅子からそっと降りると、マロを起こさないよう会場に繋がる廊下の扉を開ける。

扉の前には誰もいなかった。ミッキーかドナルドは立っていると思ったんだが。

まったく人の気配が無いわけではなく、今夜のパーティーのために使用人総出で頑張っているらしい声とか何かを運ぶ音とか会場がある方からは聞こえてくる。


ちょっとくらいなら控室から出てもいいよな。暇だし……。


わずかな隙間から体を廊下の方に出すと、静かに扉を閉めて会場とは反対方向に歩いて行く。

道に迷わないように、何かしら目印になるものを記憶しながら進む。


開場前で使用人が通用口のようなところを忙しく行き来しているのを遠目に、回廊を歩いて行くと分かれ道にぶつかった。

まっすぐ進んで行く通路と、左右外回りに作られた通路。

生憎目印になるようなものはなく、似たり寄ったりな彫刻が彫られている壁しかない。左右どちらかに進んだら開場の控室に戻る道を見失うし、これ以上の目印を覚えるのも面倒なのでまっすぐ進んでみる。


どこも曲がらずまっすぐ長い通路を通り抜ければ、どこかの区画に作られた噴水がある中庭らしき場所に出た。

噴水から落ちる水音とどこかにいる小鳥の囀りが聞こえる長閑な風景だ。


ふと、噴水の水音にかき消されそうなほどの耳を澄ませないとわからない音量で、責める声が聞こえてきた。

それが子供の声だと気づく。

何かあったのか、と野次馬根性で声のする方をのぞきに行った先には、俺と同じくらいか少し年上くらいの四人の女子、そして四人が囲む中心には長いストロベリーブロンドを腰位までに伸ばした幼女がいた。



「なぜ貴女のような魔属モドキが、ここにいらっしゃるのかと聞いていますの」



鮮やかなオレンジ色の長い髪に、黙っていれば可憐と言われそうな雰囲気のレースを使ったドレスを着た、四人の中でリーダーらしい女子が幼女に向けて放った言葉は、年下に向ける言葉としては少々棘があるものだった。



「分不相応なのがわかっていらっしゃらないんですよ、シェリーナ様」


「わたしだったら、恥ずかしくて顔から火が出てしまいそうです。シェリーナ様もそう思われません?」


「聞くところによれば厚顔無恥なお母上らしいですよ。幼過ぎてそれがわからないんじゃなくて?」


「あら、皆さん。そのようなことを言っては可哀想ではありませんか。ほら、こんなに小さくなって……折角の魔王陛下からのご招待なのに、このままお帰りになったら恥の上塗りになってしまいます。

 会場の隅にいる程度なら大目にみて差し上げましょう」


「「「まぁシェリーナ様、なんてお優しいんでしょう!」」」



続いて嘲笑う声や貶す声。

対する幼女は相手を睨むように見つめながら、スカートをぎゅっと握りしめて一文字に口を閉ざしている。


うーん。どうすっかなー……。

女の喧嘩には関わりたくない。面倒臭いからな。ここは見ないふりだ。

どこにでもある精神年齢の低いお子様達が徒党を組んで気に入らない子をハブってるだけ。

第一、俺は控室にいることになってるんだから、騒ぎになることを考えたらスルーがベストな選択だよね。



「わ……わたしの家は、はくしゃく家です。すみにいることはできません」


「隅にいるだけでも目障りなのを我慢してあげるとシェリーナ様が仰ってるのに、なんて失礼なのかしら」


「やはり母親が厚顔無恥だと子供もそうなるわよね」


「……お、おかあさまを悪くいわないで、くださ、い!」


「嫁ぎ先から出戻ったせいで国許では貰い手がいなくてアデレストへ来たそうじゃない。すぐに他の家へ入るなんて恥ずかしいこと厚顔無恥じゃなかったらできないわよ」


「ち、ちがう……ます。おかあさまは、おとうさまが好きだから……だから、だからいっしょに」


「まぁ素敵な話ね。でも、家名に(きず)がつくのも厭わないというのは貴族としては品位を下げることなのですよ、わかってらして? アデレストの貴族として、その魔属モドキの容姿が一番似つかわしくないの」


「こんなに何度もシェリーナ様が教えて差し上げてるのに、わからない子ですね」


「そうね。でも、こうしたことを下の者に示すのも、淑女の(たしな)みとして必要なことよ」


「まさに、そうですわね!」


「……寄ってたかって弱い者いじめするのが淑女の(たしな)みかよ?」



やばい、思わず口が出ちまった。

案の定、俺の声に全員が振り返る。

一瞬見えた顔は「ヤバッ!」という感じの表情だったが、俺を見た途端「なんだこいつ」みたいな表情になった。



「あらいやだ。こんなところにゴミがいますわ」


「誰に断ってここにいるのかしら」



取り巻き共が早く反応した。

あ、火に油を注ぐ結果になったな、コレ。

とはいっても、直情的に殴りかかってこないからまだ平和か。



「貴族に対しての(しつけ)がされていないようね。ここは貴族しか入れない庭園よ、お前の主人は何をしているの?」



俺を見下しながら威圧してくるシェ……何とか様。それに便乗するようにあからさまに嫌な視線を送ってくる周囲の取り巻き。これがあるから集団でいる女とか嫌なんだよ。

それにしても今の俺の格好は、貴族の端にも引っかからないんだな。



「あんたらの保護者こそ、どこにいるんだか。つーか、んなガキ囲んでわいわいやってるのが淑女だってんなら、お前らの家の母親ってそんな感じなの? 息苦しくて退屈なんだな。ついでにいうと器量も狭い」


「あなた! この方を誰だと思っていらっしゃるの!?」


「知らね。どこの誰さんなんだよ? そんなに自分自身が有名とか思ってるわけ? 名乗りもしないでわかれとか無理だっての。そんなに周知したいなら名札でもつけとけよ」


「な、な、なっ……」



取り巻き一号といった風の一番乗りで前に出た少女は、俺の切り替えしに開いた口が塞がらないといった状態だ。

俺みたいな闖入者がいるとは思わなかったらしい。

いやだって、初対面だぜ? 名前を知ってるわけない。

ま、芸能人だったら俺も名前くらい知っているけどさー。



「皆さん、行きましょう。言葉を理解しない、このような者に構っていては私たちの品位が損なわれます」



そういって先に踵を返したのはリーダー格。

遅れて取り巻きがぞろぞろと俺に侮蔑の視線を寄越しながら去っていった。


名前も知らない偉そうな集団を見送ってから、幼女へ顔を向けるとあからさまにビクッ!と体を震わせる。



「う……あ……」



ひとり残された幼女は、落ち着きなくキョロキョロと視線を動かしている。

取って食わないから怯えないでほしいんだけどな。俺、コミュ障だからこの状況でどうやって声かけたらいいんだか……わからん。

とりあえず、何か喋った方がいいだろう。



「……あ、あのよ」


「やぁっ! にんげんきらい!」



声かけと同時に近寄ろうとしたのが悪かったらしい。拒否られた上に、人間嫌いとか言われちまった。

ん……人間?



「いや待て、俺は人間じゃねーよ!」


「く、黒いかみは、にんげんでしょ!」



ガーンッ!

この世界ってやっぱそういうローカルな認識あるんだな。あ、違うこっちでは常識か。

毛を逆立てて怒る子猫みたいになった幼女には、これ以上近づかないようにして説明をしないと……。

さっきの偉そうな集団が主人とか躾とか言ってたのは、俺が人間だと思われてたからか。

前世じゃ普通に人間やってたから、自分で人間否定するのも複雑だ。



「俺は魔属なの。んで、ここに住んでるの」


「……魔王さまのめしつかいとして?」


「いや、うん……召使いじゃねーけど、とりあえず俺、魔属。ここは理解できたか?」



こっくりと頷く幼女。

納得していない顔だけど、そこはあえてツッコミはしない。



「まぁ、思わずだったんだけど……横やり入れて悪かったな。また変なのに絡まれる前に親んとこに帰りな」


「おとうさまとおかあさま、おしごと中」


「……あ、そう。貴族だろ、メイドとか付いてないのか」


「おかあさまのことバカにしたから、おいて来たの」



いや、お前それ置いてきたんじゃなくて、撒いてきたんだろ絶対。


俺の問いに答えられるくらいだ。さっきよりは落ち着いたように見えるけど、心許なくドレスをいじっている。皺になるからやめといた方がいいぞ。

それより、俺どうすりゃいいんだ。

幼女ひとりここに置いてくのも心配だし。元はと言えば、変なことに首突っ込んだ俺が悪いんだけどさー。



「じゃあ友達んとこに行ってろ。友達くらいいるだろう」


「ともだちいない。にい様もおしごと中、ちぃにい様もたぶんおしごと。みーにい様もおしごと中なの」


「そ、そっかー。みんなお仕事中かー……」



おーい! こんなチビ放っておくなよ。誰か側にいてやれよ。

いや、側にいたメイドが嫌だから撒いて逃げてきたから、この状況なんだろうけどさ!

つーか友達いないって、どんだけ箱入りで育てられ……いや俺も、人のこと言えないけどさっ。


もう頭を抱えたくなる。現状打破できる要素がない。

控室まで戻ってミッキーやらドナルドやら呼んできて、この幼女を保護してもらって迷子センターに連れてってもらえりゃ簡単なんだ。

それか託児所くらい作っておいてくれー!


さっきから一定の距離を保ったままのだが、俺といる状況に慣れたからか、ゆっくりと少しずつ怖々といった感じで幼女が側に寄ってきた。



「……本当にまぞく?」


「本当、本当」



幼女の(見た)まんまの反応が返ってくるので、対応もそれなりに幼い子の扱いになる。

城に泊っているお転婆幼女も、これくらいの反応なら可愛いで済むんだけどなぁ……。

警戒が薄れたところで、ちょっと話を聞いてみるか。



「なぁ、さっきのは何だったんだ。お前と仲悪いのか、シェ-……あのオレンジ頭」



名前を覚えてなくて悪い。といっても自己紹介もなかったんだから覚える以前の問題だよな、あれ。



「……ばかにしない?」


「しない。俺も周りから馬鹿にされてるからなー。馬鹿にされるのって嫌だろ?」


「……あ、あのね」


俺の答えを聞いて、しばし迷ってから上目遣いで素直に教えてくれる。

ほぼ初対面なのに相手を否定しないよう伝えれば、それだけで信用獲得という子供あるあるな警戒心の薄さだ。



「おかあさまね、となりの国にすんでたの。でも、知らない人とせーりゃくけっこんするのがイヤでおとうさまの国にきたの。

 こわい人に、わーっ!ておいかけられた時に、おとうさまが助けてくれて好きになって、がんばってかぞくになったの。おとうさまにいっぱい大好きって言われて、好きがいっぱいになったから、にい様とちぃにい様とわたしがうまれたの!」


「そうか。うん、すごい子供向けアレンジでもわかりやすい内容だな」



すごいでしょー、えっへん!と言いたげに胸を張って好きがいっぱいを強調する幼女。

だよなー。ちっちゃい子供に生々しい赤ちゃんの作り方なんて説明できないもんなぁ。

その辺はグッジョブな教え方だ、ご両親。


簡単にまとめると、母親の方が国許でするはずだった政略結婚前に逃げ出してこっちで素敵な出会いがあってめでたしめでたし……いま聞いた限りじゃ問題無い気がするんだが。



「おかあさまを悪くいう人がいて、ちがうって言ってもわかってもらえないの」


「何が悪いって?」


「きぞくのひんかくが、そなわってないって……。け、けがれた身でとつぐなんて、しゅくじょとしてさいていだって……」


「穢れねぇ……、政略結婚前にこっちに来て親父さんと出会って結婚したなら穢れもなにもないとは思うけどな」


「おかあさまを“ははうえ”っていう子が家にきたことがあったの。でも、おとうさまがたいおうして、にい様がいうにはむこうの家のぜんさい?の子だから、おかあさまを“ははうえ”っていうのは失礼だって」


「……うん、オブラートに包み切れてねぇな兄ちゃん。とりあえず、その子は母ちゃん子じゃねーのな。わかった」


「そんなことがあってから、ほかのきぞくから、おかあさまがふしだらっていわれるの」


「あー……うん、話に尾ひれとかついて広がっちゃったんだなー」



人の口に戸は立てられぬってな。

こういった話って、悪い噂の方が広がりやすいんだよ。


でも、あれ……?

俺にも似たようなことがあった気が――――。


――。

――――。


『……でね。○○さん家の息子さんのお嫁さん、疎遠だったのに突然来て子供を置いて行ったんでしょ』

『そうそう。それにね○○さん、亡くなった息子の本当の子じゃないって飲み屋で愚痴を言ってたわ』

『生まれた時に検査はしてもらったんでしょ? でもねぇ、うちも息子があんな繁華街にいるような嫁連れてきたら疑うわー』

『しかも旦那が亡くなって三ヶ月経った途端、嫁の方が新しい男と再婚したでしょ』

『いやだ……旦那さんが亡くなる前から関係があったのかしら? ふしだらよね』

『新生活で邪魔になったから○○さんの息子さんとの子を置いて行ったらしいわ。子供は可哀想だけど……ねぇ?』

『それがね、虐待しててそれが発覚したから周りを気にして置いてったみたいよ。○○さん家に警察が何度か来たって話もあって……』

『あら嫌だー』


――――ちがう、ぼくが悪い子だったから。でも、おかあさんはいい子にしてたら、むかえにくるってっ……!

――。



……やばい。俺、ちょっとトリップしてたわー。

うわー、なんか嫌なこと思い出したー……。


変なところで前世の記憶が浮上してくるのって、なんとかできないかな。


今は幼女の話が優先だ、と頭を振って切り替える。

この子の家が問題って言われてるのは、貴族のやっかみとか噂好きが勝手言ってるからだろ。本当に隣国との摩擦になるんだったら、国ひいては魔王が粛清してるはずだ。

なら、この子が心配するようなことはないはず。

ただなー、子供ってのは思い込むと一直線だったりするからなぁ。



「……んで、お前はお母様のことどう思ってんだよ」


「おかあさま、優しいから好き」


「じゃ、それでいいんじゃねーの? ちゃんとお前のこと大切にしてくれるんだろ。だったら周りの奴らの言ってることなんか気にすんな」


「でも、きぞくのひんかくが……」


「品格がどうのって言う前に、お前の母親だろ。一番近くで見てるんだ、今のところはそれ信じてたらいいんじゃね? それとも、お母様ってはお前にとって恥ずかしい存在なのか?」



ハッとしたように俺を見たと思ったら、勢いよく首を横に振る幼女。

これくらい素直な子は可愛いなー。どっかのお転婆幼女と違って。

さっきから涙を瞳いっぱいにためたまま我慢している状態なので、この服になるとミッキーに必ずポケットに入れられているハンカチを出して拭ってやる。

毎度見るけど白いハンカチに紫の刺繍って、子供の持ち物らしくないな。



「や、やさしくしてよっ」


「おお、悪い。力加減がわかんねーんだ」



力任せに擦ると痛いだろうと思って、ハンカチを目にぐいぐい押しつけたのが悪かったらしい。

こういうのは、やり慣れてないから加減がわからねぇ。

俺自身は服の袖でも十分なんだが……。


幼女はすんすん鼻をすすってるが、かなり落ち着いたのがわかる。

ここで大泣きされたら俺が悪者になるので助かるわー。

目に当てたままの俺の手からハンカチを受け取ると、幼女は自分で涙を拭い始めた。女の子らしくハンカチを軽く目に当てる程度で。

見た目に反して、やっぱり歳はもう少し上なんだろう。

見た目年齢からすると三歳か四歳だろうから、見た目年齢×二か、三でいいのか?

俺だってたぶん見た目、十歳はいっていると思うんだ。周りがデカくてチビに見えるだけで……。それで実年齢二十歳は越えてるんだからな。


幼女の方はまだ気分的につかえているものがあるのか、またじわりと涙が込み上げてきては手に持ったままの俺のハンカチで拭く。

うーん、そろそろ戻ろうと思うんだがハンカチを返してもらえそうにない。まだ若干すんすん鼻すすってるもんな。

まぁ……ハンカチくらいくれても怒られないだろう。



「それやる。だから大人しく宛がわれた部屋に戻ってろよ」


「え、でも……」


「また変なのに絡まれたくないだろ」



俺の言葉にハンカチが借り物だったという事実をいま思い出したらしい幼女が、返そうとしてくるがやんわり押し戻してやる。

話を聞く限りじゃ子供想いの親みたいだしな。泣き顔で子供が戻ったら、それこそ犯人探しとかされそうだし。



「こういうとき、お礼はちゃんとしないと失礼よっておかあさまが言ってた」


「じゃあ、大人になってから倍返しでもいいぞー」



出世払いといってもわからないだろう。案の定、きょとんとして俺の方を見てくるので、よしよしと頭を撫でてやる。

柔らかい髪だな。もうちょっと触っていたい気分になるふわふわな髪質だ。

撫でられるのは幼女も嫌いじゃないらしく、嫌がる素振りはみられない。心なしか嬉しそうにも見えるんだが。


出会って数分前の警戒状態からコロッと変わって、懐いてくるような可愛い面を見せられると邪険にはできないし、むしろ可愛く見えてくるから不思議だ。


魔属ってのもわかってもらえたし、嫌な奴じゃないって認識のはずだし、俺としては撫でるのに嫌いな髪じゃないしな。

……こ、このまま友達になれば将来色んな意味でオトモダチ、というか好みの金髪美少女になってもらえればお付き合いし……。



「何をしている――!」



怒声と同時に脳天に打撃がきたのは、その直後。

ガツンと固い物で殴られたことしかわからない状態で、頭を抱えながら地面にうずくまる俺。

打たれた頭が痛い。痛すぎると声って出ないんだな……。


うずくまった状態で側から遠ざかっていく足音のする方に涙目になりながら目を向けると、金髪の中学生くらいの新緑の色の礼服を着た男の子にさっきの幼女が手を引かれて去っていくところだった。

「ちいにい様、ちいにい様」と何度も手を引く男子中学生に呼びかけながら幼女が振り返る。幼女の手を引くその男子中学生は、腰に装飾が施された剣を()いていた。

髪の色からしても幼女が言っていた兄なんだろう。でも兵士とかじゃなさそうだし、年齢からみてまだ騎士にもなってないだろうから、あの剣たぶん儀仗だな。あれで俺の頭に思いっきり西瓜割りされたんだろう。


なんだ。俺の脳内で考えていたことに対しての天罰か、コレ。


ズキズキする頭部を押さえつつようやく起きあがると、すでに人影はなく噴水の水音だけが庭に響いている。

誰も通らないし、たぶん通っても声をかけてくれる奴なんかいないだろう。

思いきり叩かれた部分を撫でるとコブができていた。人助けしたのにこの仕打ちだ。俺ってついてない気がする。

将来、対峙するだろう勇者にもこんな感じであっさりやられちゃいそう。どうしよ。


地面に座り込んでいてもどうにもならないので体についた草を払ってすごすごと控室に戻ったら、ミッキーが俺を探しに行こうと出るところだった。

そこからはもういつもの説教という名の言い聞かせから入り、頭のコブがバレて適当に転んだと言い訳したんだけど「コブが頭頂部にできる状況なんて限られてます」といって聞かないし、俺が言葉に詰まって言わないもんだから膝に乗せられたまま何度も頭撫でられるし、それを目撃したドナルドに腹抱えて笑われるし最悪だった。

やっぱり俺、ついてない気がする。



 † † † † † †



空が夕焼け色に染まり始める頃になり、俺らは招待客とは別口で会場に入場する時間になった。ようやく控室から解放だ。

ついでにミッキーの撫で撫で攻撃も髪をセットする面目で終了となった。うぇーい!


さて、今回のお披露目は創世記祭が明けた最初の夜会も兼ねていて、マロのことがなくても俺も有無を言わさず参加させられるものだったらしい。つまり「あけましておめでとう」的な事を祝う夜会という名の後夜祭(ダンスパーティー)だ。

なんでダンスパーティーでマロのお披露目があるのかというと、どうやら創世記祭中に寝込んでいた俺を気遣った魔王陛下が、ここで“お友達”を作る機会を与えてくれたらしい。

……無駄だと思うけどな。


前回出席した夜会だってウィルフレッド君派が大多数を占める会場だった。大人も、たぶん子供も。

あとは一部中立というか、俺に関わりたくない派がいるだけだと思う。

いくら魔王陛下直々に結界を張ってもらっていて他人との物理的な距離を縮められるからといって、どうやってンな所で友達を作れというんだ。

黒髪だぜ? 人間と間違われるんだぜ? 問答無用で背後からブッ叩かれるんだぜ?

珍獣扱いが関の山だ。うん。お披露目終わったら飯食ってから、マロと部屋に帰ろっと。


ボーっと出番を待っているが、控室から出る準備が終わって、しばらく待っても一向に俺が呼ばれる気配がない。音楽は聞こえているけど、今も入場していく貴族の名前が高らかに読み上げられている最中だ。

ルーズだ。本当にこの世界の時間はかなりルーズだ。

朝飯の時間は遅いし、着替えもパパッと済ませるんじゃなくてゆっくり一枚一枚履かされ着せられるという感じ。日が落ちたら寝るのは早いけど。



「ユリシーズ様、お教えした手順は覚えていらっしゃいますか?」


「……浅漬けだけど頑張ってくる」



「アサヅケ?」とミッキーが首を傾げたタイミングで俺の名前が読み上げられた。

とりあえず、読み上げられて終わるまでに入場。扉が開けられて、会場への道ができる。


俺の後ろには、この時のために磨き上げられたマロが眠たそうについてきてる。さっき起こしたばかりだもんな……。

入場したら手を振るなり笑顔を向けるなりの愛想は……振りまかなくていいな。

だってー、嫌な顔をする奴とか嘲笑で見下しているのが丸わかりの奴とかー、あと面白そうに見てる奴とかしかいないんだもーん。

マロの方には値踏みする視線とかが行ってるのがわかるしなー。

嫌だなー、もう帰ってもいいんじゃないかなー、俺とマロ。


だがしかし、ここで帰るのはマナー違反になるからある程度の時間は滞在してないといけないんだよね。

ミッキーが浅漬けで教えてくれた挨拶の披露もしなきゃいけないし。


てなわけで、早速実践になるわけだが。

赤いカーペットの上を進み、ちょっと高い壇上にいる魔王陛下の前に来たら右手を胸に当ててゆっくり跪き、わずかに頭を下げる。深く下げすぎると平民などの躾もされていない者と見做(みな)されるので、あまり深く頭を下げないようにと注意された。俺、日頃からそうした躾されていないから見做されても間違ってないんだけどね。

何度か練習させられてイメージというかコツを掴んだのが、背筋は伸ばしたまま力を入れて顔だけ下を向く感じだ。貴族の型にはまった礼って難しい。つーか、これ前世で女子がやってた体幹トレーニングみたいな感じがする。

マロにも一声かけてお座りをさせる。マロは俺の隣で静かに座ると、最初ほどではないが周りがざわついた。


わずかに声が治まったところで、用意していた言葉を一呼吸で言い切る。



「ユリシーズ・メル・ディレク・アデレスト、ならびに魔獣マロ。陛下の召致に応じ参上いたしました」



さて、ここからが正念場。

これが終わったら、俺マロをモフり倒すんだ!

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