表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
器に灯る七つの声 〜七人の英雄を継ぐ旅は、彼らの声と歩む旅だった〜  作者: ひげくま
灯らぬ朝、業火の夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第9話 逃げ道

ラドウィックの目の色が、一瞬で、変わった。

歳を感じさせない、鋭い光が、そこに、戻ってくる。

詠唱が、止まった。

長老たちが、互いに、顔を見合わせた。


「何だ」と、ラドウィックの声が、低く、響いた。


『ふむ。結界が、破られたな』


マリウスの内面の声が、低く、フィンに、告げた。


「結界が、破られた——?」


フィンが、思わず、繰り返す。


直後、複数の悲鳴が、外で、上がった。

何かが、燃え始める音もした。


フィンは、ミアを、見た。

ミアは、フィンを、見返した。

二人の目が、合った瞬間。


堂の扉が、勢いよく、外側から、開いた。

里長カイル——フィンの父——が、駆け込んできた。

血を、流していた。


「フィン!」と、彼は、叫んだ。「逃げろ!!」


外で、悲鳴と、炎の音が、重なって、響いていた。


——


「カイル」


ラドウィックの低い声が、響いた。

血を流したカイルが、扉の脇に、よろめく。

息は、荒い。


「最長老、結界が——」


「分かっている」と、ラドウィックは、低く、答えた。

彼の眼差しは、すでに、状況を、把握していた。


——


長老の動きは、素早かった。


「ガレンを呼べ」


側の見習いが、堂の外へ駆け出す。

ラドウィックは、フィンと、ミアに、向き直った。


「フィン。継承は、成功した。今、お前は、正式に、継承の器だ」


「は……はい」


「であれば、ここを脱出する道がある。継承の証を持つ者と、その者が認めた同行者しか、通れぬ道が」


『ふむ……継承者通路、か』


フィンの内面で、マリウスの声が、響いた。

低く、しかし、しっかりと。


『なるほど、まだ残っておったか。小僧、案ずるな。私が知っている』


——


ガレンが、堂に、駆け込んできた。

鎧の袖に、すでに、血が、滴っている。

だが、彼自身の傷ではない、と、フィンには、わかった。


「最長老!」


「ガレン。フィンとミアを、護衛しろ」


「は——」


「自警団の指揮は、副団長に、預けろ。お前は、ここからは、二人の傍を、離れるな」


ガレンは、一瞬、躊躇った。

誰にも聞こえない、小さな声で——「すまない、シルマ」と、呟いた。

それから、すぐに、肯いた。


「分かりました」


副団長への伝言を、若い見習いに託す。

ガレンの目が、フィンとミアに、向いた。

いつもの、兄貴分の眼差し——だが、今は、その奥に、決意が、宿っていた。


——


外の音が、次第に、大きくなる。

複数の足音、剣を交える音、そして、悲鳴。

武装した者たちが、里に、なだれ込んでいる。


「最長老、時間が——」


別の長老が、警告した。

ラドウィックは、深く、肯いた。


「私と、長老衆と、カイルが、ここで、時間を稼ぐ」


「父さん——」


フィンが、声を上げた。

カイルは、フィンの方へ、ふらつきながら、歩み寄った。

血の匂いが、近くなる。


「フィン」


低く、けれど、はっきりとした声。


「行け。生きろ。お前の役目は、ここで死ぬことではない」


「父さん、でも——」


「行け」


カイルは、それだけを、繰り返した。

そして、有無を言わせず、ラドウィックの方を、向いた。


——


堂の中央——継承の円の、中心。

ラドウィックが、円盤の、ある一点を、踏んだ。

鈍い音が、足下から、響いた。

円盤の一部が、ゆっくりと、沈み始めた。

その下に、暗い、石造りの階段が、現れる。


「これが、継承者の道だ」と、ラドウィックは、言った。

「下は、地下の遺跡に通じている。そこから、外へ出られる」


『そうか、本体まで通っておったのか』


マリウスの声が、フィンの内面で、呟いた。


「ガレン、フィン、ミア——行け」


ラドウィックが、鋭く、命じた。

カイルが、フィンの肩に、血まみれの手を、置いた。

ほんの、一瞬。


「行ってこい」


それだけだった。


——


フィンの、足が、まだ、止まっていた。

父を、置いていけない。

そんな思いが、彼を、縛っていた。


『——小僧』


マリウスの声が、低く、フィンの内面に、響く。


『あの結界を破るほどの力の主を相手に、今、戦うのは、得策ではない。継いだばかりで、力を、使いこなせぬ。わしの魔書も、ない。今のわしでは、止められぬ』


「でも——」


『父御の思いを、無駄にするでない。退くのだ』


フィンは、唇を、噛んだ。

それから、深く、肯いた。


「——父さん、無事で!」


そう叫び、フィンは、継承者の道へ、飛び込んだ。


ミアが、無言で、続いた。

ガレンが、最後に、剣を抜いて、続いた。


長老たちと、カイルが、堂の表へと、出ていく。

背を向けて、剣を、抜きながら。


——


階段を、下りていく。

背後で、円盤が、再び、塞がる音がした。

それきり、外の音は、遠くなった。


地下は、暗かった。

ガレンが、松明に、火を、入れた。

炎が、揺らめき、石壁を、照らす。

壁には、無数の、古い紋様が、刻まれていた。


「先に進もう」


ガレンの、低い声。


「先頭は、フィン。ミアは、フィンから、離れないように」


そう告げて、ガレンは、剣を抜いたまま、二人の後ろに、回った。

後方を、警戒する。


『マリウス、これは——』


フィンが、内面で、問いかけた。


『継承の本体碑石、かもしれぬな。私が知っているものより、ずっと深く、刻まれている』


——


しばらく進むと、通路の先が、開けた。

広い、円形の空間。

天井は高く、苔が、岩肌に、張り付いている。

中央に——


「あれは……」


ミアが、息を、呑んだ。


部屋の中央に、巨大な、青白い光を放つ碑石が、立っていた。

表面には、無数の、古代文字。

床から、天井近くまで、届く高さ。


「これは、何だ」と、ガレンが、呟いた。


『……ふむ』


マリウスの声が、フィンの内面で、低く、響いた。


『これが、継承の本体碑石だ。七人全ての魂を呼び出せる、唯一の——』


その時。


ガレンが、剣を、構え直した。

眼差しが、通路の入口の方を、鋭く、向いた。


「来た」と、ガレンは、低く、言った。


通路の闇の奥から、靴の音が、近づいてくる。

ゆっくりと、確実に。


仮面の男が、現れた。

深いフードと、顔を半分覆う、白い仮面。

腰に、燻んだ金色の、長剣。

青白い光を、わずかに、纏っている。


『……これは』


マリウスの声が、フィンの内面で、警戒の色を、帯びた。


『——なぜ、ここに入れた? 継承者の道は、継承の証を持つ者しか、通れぬはずだ』


少し、間。


『……こやつ、継承者か。それも、ただの暗殺者ではない。小僧——この男の魔力量、普通ではないぞ。警戒しろ』


仮面の男は、何も言わずに、ゆっくりと、剣を、抜いた。

青白い光が、刃に、宿った。


ガレンが、剣を、構えた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると、とても励みになります。


感想もいただけましたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。

※本作は「カクヨム」にも掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ