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器に灯る七つの声 〜七人の英雄を継ぐ旅は、彼らの声と歩む旅だった〜  作者: ひげくま
灯らぬ朝、業火の夜

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第10話 兄の覚悟

仮面の男が、剣を、構えた。

青白い光が、刃を、伝う。

ガレンが、わずかに、体を、低くした。


「下がれ」と、ガレンは、フィンとミアに、言った。


——


仮面の男が、踏み込んできた。

速い。

一瞬で、距離が、詰まる。


ガレンが、それを、剣で、受けた。

鋼が、ぶつかる音。

火花が、散る。

ガレンの腕が、震えた——重さが、違う。


ガレンの剣が、応戦する。

里の自警団長として、何年も、磨いてきた技。

鋭く、無駄がない。

だが、仮面の男の動きは、それを、余裕で、上回ってくる。


何度か、剣が、交わされる。

ガレンの息が、わずかに、上がる。

仮面の男は、息一つ、乱していない。


——


ガレンの剣に、淡い、橙色の炎が、宿った。

里の戦士の、最高位の技の一つ——炎の魔法剣。

通常の魔物相手なら、これで決着がつくはずだった。


「ふっ——」


ガレンが、息を、吐く。

炎の刃が、仮面の男に、放たれる。


だが、仮面の男は、剣を、わずかに、傾けた。

それだけで——

ガレンの炎が、青白い光に、押し返された。

霧散して、消える。


『……ふむ』


フィンの内面で、マリウスの声が、低く、響いた。


『普通の人では出せぬ魔力量。それも、剣と、魔術、両方の。手強い』


「マリウス——!」


『——いかんな、わしとは相性が、悪い』


マリウスの声には、苦みが、混じっていた。


『わしは、大規模魔術が、本領だ。一対一は、得手では、ない。それに、お前は、わしを、継いだばかり——技も、魔力も、まだ、使いこなせぬ。わしの魔書も、ない。あれが、なければ、本来の威力は、出せぬ』


「でも、このままじゃ——」


『——分かっておる。お前の体を、強化してやる。それが、今わしにできる、せいぜいだ』


フィンの体に、光が、宿る。

四肢が、軽くなる。

息が、深く、入る。

里の戦士なら、簡単な、肉体強化。

だが、マリウスの魔力量を借りた今のフィンには、その強化は、深く、効いた。


——


「ガレン兄、加勢する!」


フィンが、剣を抜いて、踏み出した。

ガレンが、一瞬、視線を向ける。

止める間は、なかった。


二人で、仮面の男に、立ち向かった。

ガレンが、正面から、刃を合わせる。

フィンは、半歩遅れて、右へ回り込んだ。

狙うのは、膝の外側。

倒せなくても、体重を崩せれば、それでよかった。


それでも——


仮面の男の動きは、変わらない。

歩幅を、変えない。

ガレンの剣を受けたまま、肩だけを引き、フィンの剣を、刃の腹で、払った。


フィンの切っ先が、石床を、擦る。

火花が、散った。

その一歩で、仮面の男は、二人を、一直線に、並べた。

フィンの前に、ガレンの背が入る。

次の踏み込みが、詰まった。


ガレンが、それを察して、横へ、ずれようとする。

その瞬間、仮面の男の剣が、低く、返った。

狙いは、ガレンの脇腹。


ガレンが、受ける。

重い。

受けた刃が、沈み、踏ん張った足の下で、苔が、潰れた。


フィンは、今度は、剣を持つ手を、狙った。

だが、男の柄頭が、先に、フィンの手首を、打った。

指が、痺れる。

握りが、甘くなる。

強化された体で、どうにか踏み止まっても、剣の軌道だけが、奪われていく。


『……これは、不味い』


マリウスの声が、低く、緊迫した色を、帯びた。


『——力が、足りぬ。継いだばかりで、使いこなせぬ。魔書も、ない。今のわしでは、これが、限界だ』


——


仮面の男は、しばらく、二人を捌きながら、観察していた。

それから、ふっと——息を、漏らした。


「面倒だな」


低い声で、男が、つぶやいた。

それが、最初の、声だった。


仮面の男が、剣を、頭上に、持ち上げた。

青白い光が、刃の周りで、渦を、巻き始める。

強大な力の、収束。

空気が、軋む。


仮面の男が、剣を、振り下ろした。

青白い、光の刃が、空間を、断ち切るように、放たれる。


『させるか!』


咄嗟に、マリウスが、防御結界を、張った。

青みの光が、フィンとミアの前に、厚く、立ち上がる。

直撃を、辛うじて、受け止めた。

だが、すぐに、結界は、明滅を、始めた。

弱々しく、揺らいでいく。


『いかん——持たんぞっ!』


——


その時。


ガレンが、動いた。


フィンとミアの、前に、躍り出る。

剣を、両手で、構え直した。

右手で柄、左手で刃の腹を、支える。


ガレンの剣に、最後の、炎が、宿る。

それを、青白い光に、ぶつけた。


衝撃が、地下空間を、揺らした。

炎と、青白い光が、激しく、火花を、散らす。

火花の中で——

仮面の男の刃が、ガレンの、左手を、裂いた。


手の甲から、掌へ、赤い線が走る。

血が、柄を、濡らした。

指の力が、一瞬、抜ける。

だが、彼は、剣を、離さない。

痛みが、まだ、追いついていなかった。

押し戻した。

押し戻した。

最後に、青白い光が、霧散する。


「ガレン兄!」


フィンが、叫んだ。


ガレンは、振り向かない。

切られた左手は、柄に、添えられているだけだった。

もう、握れていない。

血が、指先から、滴り続けている。


——


「フィン、ミア」


低い声で、ガレンが、言った。

息は、荒い。

それでも、彼の眼差しは、まっすぐだった。


「先に、行け」


「ガレン兄、何を——」


「行け」


ガレンの声が、強かった。

彼は、フィンを、見ない。

仮面の男だけを、見ている。


『……小僧』


マリウスの声が、フィンの内面で、低く、呼んだ。

さっきまでの軽さは、消えていた。


『あの男の覚悟、わしには、見えている。お前は、彼の言うとおり、行け』


「マリウス、でも——」


『行けと、言うているのは、わしだけではない。あの男も、そう言うておる。それを、受け取れ』


——


ガレンが、剣を、握り直した。

右手、一本で。

血で滑る柄を、指で、押さえ込む。

左手を添えられない分、剣先が、わずかに、落ちた。

彼の目が、光を、宿し始めた。

青く、揺らぐ、魔力の光——


里の自警団長にだけ、最後の一撃として、秘伝されてきた一手。


魂焔(こんえん)


魂の力を燃やし、肉体の能力を、極限まで、引き上げる、諸刃の技。


「下がれ」と、ガレンは、再び、言った。「俺が、時間を、稼ぐ」


フィンの、足が、止まった。

動けなかった。

ミアが、フィンの腕を、引いた。


「フィン、行こう」


ミアの声は、震えていた。

だが、強かった。


「兄さんの、言う、通り」


——


フィンが、ガレンの方を、見た。

ガレンは、仮面の男の方を、見ていた。

振り返らない。


「行ってこい、フィン、ミア」


それだけだった。


——


フィンとミアは、駆け出した。

碑石の、向こう側に、別の通路が、口を開けていた。

そちらへ、向かう。


背後で——


「魂焔ッ——!」


ガレンの雄叫びが、上がった。

そして、剣と剣の、激しい音。

青白い光が、地下空間を、照らす。


何度も、何度も、剣の音が、続いた。


——


それから、しばらく。

フィンとミアが、十分に逃げ切れるまで——ガレンは、立ち続けた。


「しぶといな……命を、懸けた者の力は、さすがに、簡単ではないか」


仮面の男が、低く、呟いた。

返事は、なかった。

ガレンは、すでに、朦朧とした意識の中で、戦っていた。


「終わらそう」


仮面の男が、再び、剣に、力を、ためる。

青白い光が、刃の周りで、渦を、巻き始めた。

そして——振り下ろした。


ガレンが、吹き飛ばされた。

柱に、衝突して、そのまま、倒れ込む。


意識を、失う寸前に——


「フィン、ミアを、託したぞ……ごめん、シルマ」


それだけを、呟いて、ガレンは、意識を、手放した。


——


「追跡は、もう無理か……この肉体も、休ませねば、限界だ」


仮面の男が、低く、呟いた。

それから、もう一度、剣に、力を、ため直す。


「だが、これだけは、やっておかねばな」


剣が、振り下ろされた。

青白い光が、本体碑石へ、走る。

碑石が、亀裂を、走らせ、激しく、砕ける音と共に、崩れた。


——


破壊を、見届けた仮面の男は、ふっと、息を、吐いた。


「追跡は、奴らに、やらせるか」


そう、呟いて、彼は、踵を、返した。

通路の入口へと、引き返していく。


——


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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次回もよろしくお願いいたします。

※本作は「カクヨム」にも掲載しています。

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