表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
器に灯る七つの声 〜七人の英雄を継ぐ旅は、彼らの声と歩む旅だった〜  作者: ひげくま
結びの灯

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/22

第19話 群れを払う

獣道の薄い筋を抜けると、岩肌が左右からせり上がってくる地形になった。


フィンは先に走った。ミアは半歩後ろを走っていた。息は乱れていたが、足は止まらなかった。

南からの風が、湿った生臭い匂いを運んでくる。鱗の軋み音は、来た時よりはっきり聞こえる。

何かを擦り合わせる乾いた音と、岩を低く滑る音が混じっていた。

それに重なって、人の声があった。号令ではなく、互いを呼び合う短い叫びだった。


『フィン、あのなだらかな丘の上に行け。群れを側面から攻撃できるはずだ』

フィンは肯いた。


なだらかな斜面を急ぎ駆け上る。

丘をかけ上がると、視界が開けた。


眼下の街道沿いに、町の北の柵が見えた。

街道沿いに群れが進んでいる、すでに柵が見える位置まで来ていた。

岩鱗の数十体がゆっくり柵の方へ向かって低く滑るように動いていた。


柵の後ろに、青い顔をした男たちが槍を構えて立っている。


「フィン」

ミアの声が、横で短く出た。

「間に合った、でも、もう街に攻め込みそう」


『フィン、ここでよい』

マリウスが言った。

『丘の縁に立て。群れの横から術を喰らわせるぞ。街に影響が出ないように、群れと我々の間で発動させろ』

「はい」

フィンは丘の縁に立った。


マリウスの声が低く続いた。

『風刃の十倍の魔力を練る。魔書に集中させろ』

「はい」

『私が組み方を伝える』


『ミアは結界をフィン中心に張れ』

「はいっ」

ミアの声が、フィンのすぐ後ろで返った。


ミアはフィンの背の後ろに立ち、目を伏せた。

ミアの両手から地面に向けて、光の楔が打たれていく。

楔が四つ。それを繋ぐ陣が、フィンの足元を中心に描かれていく。


『よし。魔力は十分集まった』

『次は形を組む。風の刃を複数作り、竜巻のように回転させるのだ』

刃が増えていく。

フィンの手前の上空で、複数の刃が回転を始めた。次第に竜巻の形に巻き上がっていく。

最初は遅く、やがて速く。

風が低く唸り始めた。


柵の前の男の一人が空を見上げた。


その男の目が、丘の上のフィンとミアに向いた。

男は短く何かを叫んだ。声は風の唸りに紛れて、フィンには届かなかった。ただ、男が剣の柄を強く握り直し、仲間に何かを伝えるのが見えた。仲間の二人も丘の方を見た。


『見られたな』

マリウスが言った。

『止めるな、フィン。今は形を保つ方が先だ。男たちには後で説明をすればよい』

「はい」


フィンは、両手の前の風の柱に意識を集中させ続けた。

『次が雷だ、フィン』

『雷を風の渦の中で発生させていけ』

「はい」


風に雷を重ねるのは難しかった。

風と雷が打ち消しあった。


『フィン、焦るな。風と雷をぶつけるんじゃない、2つを同じ流れに乗せるんだ。融合させろ』

柱の中で、低く乾いた雷音が断続的に立ち始めた。


『いいぞ、そのままだ』

マリウスが短く言った。

『撃つぞ、フィン。柱を群れの上に落とせ』

「はい」


——


柱が群れと、フィンたちを巻き込んで落ちてきた。


フィンたちには直撃していないにもかかわらず、ミアの張った結界がきしむ。


竜巻がリザードの群れを襲う。群れから凄まじい咆哮が上がった。

遠方の個体を中心に引き寄せ、浮かせる。風の刃が複数の岩鱗の鱗を同時に削いでいく。

そこに雷が流れ、岩鱗を感電させていく。


風と雷の柱はしばらく止まなかった。


——


群れがいた場所には、岩鱗が数十頭、横倒しに動かなくなっていた。

立っているのは二頭だけだった。その二頭も四肢が震えていた。頭が地面に近づき、口の縁から薄い泡が出ていた。


柵の前の男たちはしばらく動けずにいた。

それから一人が先頭で剣を抜いた。残った二頭の岩鱗の方に、ゆっくり近づいた。

岩鱗は男に向かって首を上げかけた。だが頭はすぐに地面の方へ落ちた。

男の剣が震える岩鱗の鱗の継ぎ目に入った。岩鱗はもう一度震え、それから動かなくなった。

仲間の二人が、もう一頭の岩鱗にも同じことをした。


——


フィンは両膝を地面に落とした。


手のひらの感覚はほとんど無くなっていた。魔力が尽きかけ、息が上がっていた。

ミアが結界を解いた。

楔と陣がゆっくり、空気に溶けるように消えていった。ミアは結界を解きながら、フィンの背に手を添えた。フィンの肩に、ミアの手の温度が伝わった。

ミアの手も震えていた。だがフィンを支える力はしっかりしていた。


「フィン」

ミアの声が、フィンの耳のすぐ脇で近かった。

「立てる?」

「……うん」

フィンは息を整えてから、ゆっくり立ち上がった。

立ち上がるとき、足が一度膝の方へ崩れかけた。ミアが横から肘を支えた。


『……よくやった、二人とも』

マリウスが低く言った。


フィンは丘の縁から、町の方を見下ろした。

柵の前の男たちは剣を下ろしていた。倒した岩鱗から離れて、丘の方を見ていた。先ほど丘の上を見上げた男が、仲間に何かを話していた。仲間の幾人かが丘の方を指していた。

柵の内側の門が開いた。

門の奥から、別の数人の男が走り出てきた。倒れた岩鱗の確認に向かう者、男たちに駆け寄る者、それぞれだった。


——


フィンとミアは丘を下り始めた。


斜面はまた滑った。フィンの足は、登る時よりも重かった。ミアがフィンの腕を軽く支えた。

柵の手前まで降りた頃には、男たちが丘の方へ歩いてきていた。先頭の男は剣を腰の鞘に戻していた。年はフィンよりひと回りほど上に見えた。ひげの濃い、肩の広い男だった。

男はフィンとミアの前で足を止めた。

それから、頭をゆっくり下げた。


「助けてくれて、ありがとう」

男の声は低かった。

「町の自警団の頭をしている。あんた、何者だ」

「旅の者です、フィンといいます」

フィンは答えた。

「東の山の方から降りてきました」


「あれは何だ」

男は丘の方を顎で軽く示した。

「あんなのは見たことがない」

「説明は難しいですが、魔術です」

フィンは息を整えながら答えた。

「岩鱗を止められる方法があったので、止めました」

「……そうか」


男はそれ以上は問わなかった。

「町に寄っていけ。湯と、寝る場所くらいは用意できる」

「ありがとうございます」

「水も食い物もある。あんたら、その感じだと立てるのもやっとだろう」


ミアが男に向かって軽く頭を下げた。

「ありがとうございます」


——


二人は男に連れられて、柵の内側の門をくぐった。


柵の内側は喜びの声であふれていた。

外から見たよりも人が多く、女たちが子供を抱えて家の戸口に立っていた。

何人かはフィンとミアを見つけると、目で追っていた。感謝の目もあれば、中には警戒の視線や、ただ困惑しているものもあった。


『……まずは、今日はここまでだ』

マリウスがゆっくり言った。

『湯を借りて、何か腹に入れて、寝ろ。話は明日でよい』

「はい」

フィンが答えた。


自警団の男は、通りの奥の屋根の低い家の前で足を止めた。

扉を軽く叩いた。

中から、年配の女の声が返ってきた。男は女将と何事か話し、その後フィンとミアを振り返った。

「ここの女将が湯を沸かしてくれる。今夜はここで休んでくれ」


フィンは頭を下げた。

ミアも続いて頭を下げた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると、とても励みになります。


感想もいただけましたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。

※本作は「カクヨム」にも掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ