7話
村上は三浦との会話で昨今の報告の異常性について確かな違和感を感じた。そうして歩いていると目の前にはよく出入りしている都内の総合病院があった。報告書や数字ではなく、現場を自分の目で確かめるしかない――その決意が村上を駆り立てた。
到着すると玄関には警備員が立ち、スタッフの表情には張りつめた緊張が漂っていた。廊下に入った瞬間、村上は息を呑んだ。ベッドの間で患者が叫びながら暴れ、体をのけぞらせ、看護師や医師が必死に押さえつけている。拘束具で縛られた患者もいるが、数が足りず、破いたシーツや毛布で急ごしらえの固定をしている。腕や脚を振り回す患者を押さえ込もうと、複数の職員が体重をかけるたび、悲鳴と物音が廊下に反響する。
アナウンスが途切れなく流れ、救援要請が次々と響く。「応援要請、3階。制御不能の患者、至急!」 「救急支援、4階。制御不能患者増加中!」 村上は息を飲む。報告で聞いていた断片とは全く違う、圧倒的な現場の迫力に立ち止まらざるを得なかった。
医師や看護師は全員走り回り、患者の制御に奔走していて、村上に構う余裕はない。患者が拘束具や破いたシーツから逃れ、再び暴れ出すたび、複数の職員が駆けつけて押さえ込む。廊下を駆け回る足音、患者の暴れる音、アナウンス、スタッフの叫び声が入り混じり、戦場のような混乱が目の前に広がる。
その中で、村上はふと顔見知りの医師を見つけ、駆け寄った。
「ちょっといいか?」
医師は息を切らしながらも頷く。「村上、君がここに来るとは思わなかった。でも……話すなら今しかない」
「現場の状況を教えてくれ」
「もう限界だ。鎮静をかけても効かない患者が増えている。職員に噛み付く、押し倒す、突き飛ばす行為が相次ぎ、拘束具も足りない。破いたシーツや毛布で固定しても、すぐに逃れられる。職員は全員走り回り、休む暇もない」
村上は頷き、目の前の混乱を改めて見渡した。押さえつけられても暴れ、別の患者が逃げ出し、スタッフが瞬時に駆けつける。全員が走り回り、誰も村上に構わない。息を切らせ、汗だくになり、限界ギリギリの状態で対応している姿が目に焼き付く。
「数字だけじゃ伝わらない。現場は完全に手に負えなくなっている」医師は短く言い、再び駆け出して行った。村上はその背を見送りながら、胸の奥に焦燥感が広がる。目の前の混乱、制御不能の患者、スタッフの限界。官邸に戻れば、この異常を正確に伝えるしかない――そう確信しながら、村上は混乱の渦の中で立ち尽くした。




