第7話:【アイ・オブ・ザ・トシヒサ】
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カゴシマ・シティー、シマヅ本社タワー。
日向戦線で飫肥の油田データセンターが焼き芋の煙に包まれる中、本拠地カゴシマでは、イトウ・メガプレックスによる冷徹な報復作戦が進行していた。
タワー地下三十階、主幹電源管理フロア。
無機質なサーバーラックが林立する薄暗い通路を、影が滑る。
光を屈折させる光学迷彩スーツに身を包んだ、イトウ直属のハイテク電脳暗殺部隊【オビ・シャドウ】の三人組だ。
「……シマヅの首脳陣は前線へ出払っている。留守を預かるは、書類仕事しかできぬ三男トシヒサのみ」
先頭の暗殺ニンジャが、指先から極細の侵入プラグを展開し、主電源コンソールへと伸ばす。
「メインサーバーの冷却配管を液体窒素で凍結・爆破すれば、シマヅタワーは一夜にして電子の墓場よ……」
「あら、そんな物騒な配管工事、乙女の肌には寒すぎますわ」
艶やかな声が、冷たい通路に響いた。
「誰だ!?」
暗殺部隊が一斉に振り向く。
サーバーラックの陰から現れたのは、南蛮サイバーゴシック・ドレスをまとったツルヒメ=タネガシマであった。
タネガシマ重工の追加補給物資を手続きするため、一時的にカゴシマ本社へ戻っていた彼女は、日傘を優雅に畳んだまま、しっとりとした歩みで近づいてくる。
「イトウの誇るエリート暗殺部隊の方々でしょう? わたくし、タネガシマ重工のツルヒメと申します」
ツルヒメはドレスの裾を少し持ち上げ、可憐に微笑みながら上目遣いで男たちを見つめた。
瞳には微弱な生体フェロモンと、親愛のプロトコルが宿る。
(サツマのゴリラ共には通じなくても、日向の洗練された企業人なら……!)
ツルヒメの計算は正確だった。
暗殺ニンジャたちのバイザー越しに、心拍数の上昇と動揺が走る。
「タネガシマの令嬢……!? なぜ貴女がここに……」
「シマヅの粗野な連中には、もう愛想が尽きましたの」
ツルヒメは溜息をつき、先頭の男の胸板にそっと華奢な手を添えた。
「わたくし、イトウ様のような知性あふれる先進企業とお取引がしたいのです。……貴方方の任務を成功させるための、タワーのマスター・セキュリティーキー。手に入れたいとは思いませんこと?」
「マ、マスターキーだと……?」
隊長の息が荒くなる。
ツルヒメの唇が、甘やかな弧を描いた。
(かかった……! このまま偽の暗号パケットを掴ませ、社内サーバーへ逆侵入してイトウ本社の機密データを抜く! これぞファムファタールの真骨頂――)
「論理的矛盾を検知した」
背後の暗がりから、冷徹なバリトンボイスが響いた。
「ヒッ!?」
ツルヒメが飛び退く。
現れたのは、仕立てのよい軍装スーツに身を包み、優雅にカーボン扇子を手にした男。
最高技術・法務責任者、トシヒサ=シマヅである。
トシヒサの右目に嵌められた単眼スマート・モノクル『サイエント・アイ』が、暗闇の中で青白い照準サークルを高速回転させていた。
「ト、トシヒサ様……!」
ツルヒメが青ざめる。
「いま、わたくしが敵を罠に嵌めて機密を抜き出すところで――」
「ツルヒメ=サン。貴殿の欺瞞工作は、純粋な経済合理性の観点から著しく非効率だ」
トシヒサは扇子をパチンと鳴らし、淡々と虚空に数式を投影した。
「貴殿が色仕掛けでマスターキーを偽造し、敵の信用を勝ち得て逆侵入を果たすまでに要する時間は、推定で4分20秒。その間におけるサーバーフロアの室温低下によるハードウェア劣化コストは、約800万サツマ・クレジットに達する」
「ま、また始まったわよこの人の計算……!」
ツルヒメが頭を抱える。
暗殺ニンジャの隊長が我に返り、高周波ブレードを抜き放った。
「シマヅの知性派トシヒサだな! たった一人で現れるとは愚かな! 貴様を人質に――」
「一方」
トシヒサは敵の言葉を一切聞かず、淡々とモノクルの倍率を跳ね上げた。
「当社の回線には、すでに前線からの定期補給を終えたばかりの処分ユニットが、貴殿らの背後0.5メートルの死角にスタンバイしている」
「……えっ?」
暗殺隊長が凍りつき、ゆっくりと首を背後へ巡らせた。
そこには、暗闇に溶け込む漆黒のチタン複合装甲。
緑色の蛍光フォントで『捨て奸』の文字を浮かび上がらせた、歩く処刑台。
チェストハウンドが、すでに巨大ノダチ『ジゲン・スラッシャー』をオーバーヘッドに掲げた状態で立っていた。
「アイエエエエ!? いつからそこに!?」
「問答無用」
チェストハウンドの眼球カメラが真紅に点灯する。
「トシヒサ=サマの指令ログ:『4分20秒のコストを、0.1秒に短縮せよ』」
「待て! 我らはイトウの特使――」
「チェストとは何か」
「ハァッ!?」
「問答無用! チェストとは知恵を捨てよの意! 考えるな! 斬れェーーッ!」
「ウオオオオーーーッ! キエーッ!!」
閉鎖された地下通路に炸裂する、鼓膜融解の超音波猿叫!
暗殺部隊の光学迷彩スーツが、音圧の直撃を受けて回路ごとショートし、火花を散らして機能停止した!
「サツバツ!?」
「チェストーーーーーッ!!!」
ズババババババッ!!!
初太刀の一撃。
暗殺部隊三名の高周波ブレードごと、チタン鎖骨、サイバネ胴体が、通路の真ん中で綺麗に縦一文字に割られた!
床の強化コンクリートには、深さ30センチの亀裂が真っ直ぐに刻まれる。
「サヨナラ!」
三つの義体が同時に火花を噴いてショートし、灰燼に帰した。インガオホー!
ザシュッ。
チェストハウンドはノダチを背中へ収め、冷徹に呟いた。
「……二の太刀要らず」
静寂が戻った地下フロア。
トシヒサはスーツの襟を正し、スマート・モノクルを押し上げながら満足そうに頷いた。
「所要時間、0.08秒。800万クレジットの損失を回避し、かつ侵入者の物理的無力化を達成した。我が知性に基づく極めて完全なソリューションだ。Q.E.D.(証明終了)」
「……」
ツルヒメは床に散らばる鉄屑と、真っ二つになった通路を見つめ、膝から崩れ落ちた。
日傘の先端を床に突き立て、わなわなと震える声で呻く。
「……私の……私の完璧なハニートラップが……」
ツルヒメは血走った目をトシヒサに向けた。
「日向の男には通じたのよ! もう少しで機密データを丸ごとぶっこ抜けたのよ! どうしてこの会社は、利益が出るはずの頭脳戦を全部一瞬でミンチにするのよォーーーーッ!!」
「ツルヒメ=サン」
トシヒサは冷淡にカーボン扇子で彼女の額をトンと突いた。
「情報の価値とは変動するものだ。しかし、敵が死んでいるという事実は、永続的かつ不可逆の絶対的利益である。知性的に考えたまえ」
「死ねええええええええええっ!!!」
ツルヒメの悲痛な絶叫が、地下サーバー室に木霊した。
だが、この暗殺計画の破綻により、イトウ・メガプレックスは知ることとなる。
シマヅは前線のみならず、本拠地の防衛システムまでもが「極端な知性と極端な暴力」で不可逆的にパッケージングされているという、マッポーの現実を!
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【あとがき】
読者=サン、第7話【アイ・オブ・ザ・トシヒサ】の読了ドーモ。原作者です。
「情報の価値とは変動するものだ。しかし、敵が死んでいるという事実は、永続的かつ不可逆の絶対的利益である。知性的に考えたまえ」
これが先進メガコーポ・シマヅの誇る最高技術・法務責任者、トシヒサの合理的ソリューション!
完璧なハニートラップで機密を抜こうとしたツルヒメの頭脳戦(4分20秒・推定損失800万クレジット)を、背後からの「所要時間0.08秒チェスト」で一瞬にして粗大ゴミへと変換! Q.E.D.(証明終了)!
知性派を名乗る男が一番エグい屁理屈で暴力を最短ルート化し、日向の洗練された暗殺エリート部隊ごと地下通路を真っ二つ!
ツルヒメの胃壁とプライドはまたしても木っ端微塵! 「死ねええええええええええっ!!!」という令嬢の魂の叫びが地下三十階に木霊する!
だがシマヅの狂気は留まることを知らず、次回、戦火は飯野城の防衛プラントへ!
立ちはだかるは次男ヨシヒロ――「敵が二千? 一人十回チェストすれば片付く計算だ」。物理法則と算数を力任せにねじ伏せる男の登場!
迷うな! 0.08秒で評価の星とブックマークを初太刀で叩き込め!
チェストーーーーーッ!!!
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