第8話:【イザケル・ブラック・メタル】
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日向と大隅の境、山間盆地に位置する飯野城・前線防衛プラント。
周囲を険しいカルデラの山々に囲まれたこの拠点は、現在、イトウ・メガプレックスが誇る第三強襲機甲師団――計二千騎の超重戦車とサイバネ兵によって完全に包囲されていた。
防壁の外からは、夜通し鳴り響くキャタピラの重低音と、スピーカーからの投降勧告がこだましている。
『シマヅの守備隊に告ぐ! 貴様らは完全に孤立した! 兵力差は十倍! 燃料も補給も途絶した! 直ちに城門を開け、武装解除せよ!』
天守閣の司令フロア。
ツルヒメ=タネガシマは、壁面のホログラムマップに表示された絶望的な包囲陣を見つめ、青ざめていた。
「十倍……! 正真正銘の完全包囲じゃないの! カゴシマからの増援も、日向の険しい山道に阻まれて最低三日は届かない。……ねえ、ヨシヒロ様。ここはタネガシマ重工の外交ルートを使って、一時休戦の停戦監視協定を……」
ツルヒメが恐る恐る振り返った先。
そこにいたのは、交渉や外交といった単語から最も遠い存在であった。
シマヅ軍事執行部・最高責任者(COO)――ヨシヒロ=シマヅ。
ヨシヒロは腕組みをしたまま、床に胡座をかいて微動だにしていなかった。
全身を覆うチタン装甲『鬼十字』が、重みで床板をミシミシと軋ませている。
その胸部インジェクションには、点滴めいて巨大なドラム缶がチューブで直結されていた。中に入っているのは、度数60度を超える高純度生体冷却芋焼酎。
ゴボ……ゴボボ……と、エタノールが彼のサイバネ心臓へ直接送り込まれ、排気ダクトからゴウゴウと白いアルコール蒸気が噴き出している。
「……ヨシヒロ様?」
ツルヒメが声をかける。
ヨシヒロはゆっくりと、オイルの焦げた匂いを漂わせながら首をもたげた。
その双眸は血走り、網膜HUDには【CPU稼働率:3%(完全思考停止)】【筋力リミッター:完全開放】という、生命維持をかなぐり捨てた異常なログだけが点滅していた。
「……腹が減ったな」
「えっ」
ツルヒメが固まる。
「敵が二千。我が軍は二百」
ヨシヒロは太く低い、地割れのような声で言った。
「つまり、一人十回チェストすれば片付く計算だ。……朝飯前にちょうどよい」
「計算の仕方がおかしいでしょーーーーッ!?」
ツルヒメが絶叫した。
「十倍よ!? 弾薬も燃料も尽きかけてるのよ!? どうやって十回もチェストする気なのよ!」
ヨシヒロは立ち上がった。
床板がバリバリと音を立てて砕ける。
彼は巨大なタングステン金砕棒『ジゲン・メガトン・ブレイカー』を片手で軽々と担ぎ上げると、部屋の隅で直立不動の姿勢を取っていたチェストハウンドを見据えた。
「チェストハウンド=サン」
「ハ」
チェストハウンドのメンポから『捨て奸』の緑色フォントが明滅する。
「お前の右腕の油圧ダンパー、先日の戦闘で焼き付きを起こしているな」
ヨシヒロが指摘した。
ツルヒメが目を見張る。「えっ!? 嘘、右腕が故障してるの!? じゃあノダチが振れないじゃない! なおさら戦えないわよ!」
ヨシヒロは無言でチェストハウンドに近づくと、その故障した右腕を掴んだ。
そして――。
ドゴォッ!!
至近距離から、自身の巨大な鉄拳をチェストハウンドの右肩シリンダーへとフルスイングで叩き込んだ。
「ぎゃあああああ何してんのぉぉぉぉぉ!?」
ツルヒメが悲鳴を上げる。
火花が散り、装甲板がへこみ、ひしゃげたシリンダーから黒いオイルが吹き出す!
だが、チェストハウンドは微動だにしなかった。
次の瞬間、ガキィン! と金属音が鳴り響き、歪んでいたギアが力任せに噛み合った。
【WARNING解除:関節可動域・強制復旧】
「……直った」
チェストハウンドが呟いた。
「うむ。機械は叩けば直る」
ヨシヒロは満足げに頷いた。
「思考も同じだ。迷いが生じた頭蓋は、叩き割れば迷いが消える」
「直ってない! 壊れたまま無理やり噛み合わせただけよ! 二人とも狂ってるわ!!」
ツルヒメは頭を抱えて床に崩れ落ちた。
トシヒサのように屁理屈すらこねない。ヨシヒサのように慈悲を語りもしない。
ただ「叩けば直る」「十倍なら十回斬ればいい」という、物理法則と算数を暴力でねじ伏せるタイプの純度100%の狂気。
「ツルヒメ=サン」
ヨシヒロが振り返り、虚空を見つめながら淡々と言った。
「飯を炊いておけ。門を開けて、すぐ戻る」
「ま、待ちなさいよ! 門を開けるって、打って出る気!? この包囲網の中に!?」
「問答無用」
チェストハウンドがノダチの柄に手をかけた。
「ヨシヒロ=サマの指令ログ:『十回チェストせよ』。現在、一回目の対象を捜索中」
「あーっもう! バカ! 全員バカ!!」
ツルヒメは涙目で日傘のガトリングを構えた。
「置いていかれたら城ごと潰されるわ! わたくしも行くわよ! どうせ死ぬなら、弾薬を全部撃ち尽くしてやるわァーーッ!!」
◆◆◆
ギギギギ……ドォォン!
飯野城の大手門が、内側から全開にされた。
包囲していたイトウ機甲師団の兵たちが、目を疑った。
「な……門が開いたぞ!?」
「降伏か!? いや、出てきたのは……たった三騎!?」
朝霧が立ち込める盆地。
城門から歩み出てきたのは、金砕棒を担いだヨシヒロ、ノダチを帯びたチェストハウンド、そしてドレスの裾をたくし上げてガトリングを乱射するツルヒメの三人だけであった。
「死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇッ!!」
ガガガガガガガガガッ!!
ツルヒメのドラゴンスレイヤーが火を吹き、先頭の装甲ジープのフロントガラスを蜂の巣にして爆発させる!
「ヒ、ヒィッ!? 奇襲だ! 撃て撃てェーーッ!」
二千のイトウ軍が一斉に砲門を向けた、その瞬間。
ヨシヒロとチェストハウンドが、同時に大地を蹴った。
ドガアアアアン!!
足元の地面が陥没し、二つの質量兵器が音速の壁を突破して敵のど真ん中へ突撃する!
「ひるむな! 轢き殺せ――」
最前列の超重戦車が主砲を放とうとした刹那、二人の喉から同時に解き放たれる。
「「ウオオオオーーーッ! キエーッ!!」」
至近距離での二重超音波猿叫!
戦車兵たちの網膜と平衡感覚が物理的に破壊され、照準が明後日の方向へと跳ね上がる!
そこへ――。
「チェストォッ!!」
ズバッ!!
チェストハウンドの初太刀が、先頭の超重戦車を砲塔ごと綺麗に水平両断!
さらにその直後、ヨシヒロのタングステン金砕棒が天から叩き落とされた!
「チェストーーーーーッ!!!」
ドゴォォォォォォォン!!!!!
両断された戦車の残骸ごと、後続の装甲車小隊が地面ごとまとめて粉砕された。
衝撃波が局地地震となって前線部隊を吹き飛ばし、敵の陣列に幅五十メートルの空白地帯(更地)が一瞬で出現する!
「サヨナラ!」の叫びすら上げられないまま、前衛五十騎が一撃で鉄屑と化した。
「バ、バケモノ……! シマヅの鬼だ! 鬼石曼子だァーーッ!」
二千の軍勢が、たった二撃で恐怖のパニックに陥り、我先にと後退を始めた。
ザシュッ。
チェストハウンドがノダチを背中へ収め、ヨシヒロが肩の金砕棒からプシューッと蒸気を吐き出す。
「……一の太刀終了。残り九回」
チェストハウンドが呟く。
「うむ。逃げるな、追って叩き割るぞ」
ヨシヒロはドラム缶から芋焼酎をグビリと煽り、逃げ惑う二千の軍勢の背中へ向けて無造作に歩き出した。
「……」
後方で日傘を構えたまま立ち尽くしていたツルヒメは、硝煙の中で呆然と呟いた。
「……十倍の敵を、本当にただ十回殴って解決する気なの……?」
ツルヒメの常識は、またしてもサツマの規格外の質量によって、跡形もなく叩き潰されたのであった。
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読者=サン、第8話【イザケル・ブラック・メタル】の読了ドーモ。原作者です。
「敵が二千、我が軍は二百。つまり一人十回チェストすれば片付く計算だ。……早く済ませて飯にするぞ」
これぞ軍事執行部COO・次男ヨシヒロの狂気の算数暴力!
壊れた油圧シリンダーは鉄拳で叩けば直り、迷いが生じた敵頭蓋は金砕棒で叩き割れば迷いが消える!
知性も慈悲も完全にパージし、度数60度の生体冷却芋焼酎を直接心臓に流し込んで敵前衛ごと大地を粉砕!
包囲された絶望のなか、外交ルートや停戦協定を模索していたツルヒメの常識は、またしてもサツマの規格外の質量によって跡形もなく叩き潰されました!
「一の太刀終了。残り九回」!
逃げる敵を追って平然と飯前にノルマをこなすゴリラどもの前では、戦力差などただの数字に過ぎない!
次回、イトウ・メガプレックスから提示される莫大な賄賂データチップ!
ツルヒメの葛藤と、女を舐められた怒りで沸騰するサツマ・ブラッド!
迷うな! 初太刀で評価の星とブックマークを叩き込め!
チェストーーーーーッ!!!
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