第4話:【ツリノブシ・アット・ワン・テンプル】
読者=サン、更新遅延ドーモ。原作者です。
19時投稿予約タスクの欠落!
網膜HUDの時計ログを見れば無情にも20時超過! なんたる不覚!
「予約を忘れた? 問答無用、セップクせよ」
チェストハウンドの眼球カメラが赤く点滅し、ノダチが抜かれかける寸前で緊急手動アップロードを完了いたしました。生体炉の爆発四散は辛うじて免れましたが、己の怠惰を深くケジメいたします。セップク!
遅参の詫びとして、第四話の『釣り野伏(物理)』を余すところなくお届け!
迷うな! 遅延への怒りを初太刀に乗せ、ブックマークと評価の星を叩き込め!
チェストーーーーーッ!!!
◆◆◆
大隅と薩摩の境界、一乗院・岩剣城フロントライン。 酸性雨でぬかるむ隘路の両脇には、鬱蒼としたサイバー竹林が広がり、高濃度の電磁灰が索敵レーダーを砂嵐で埋め尽くしていた。
根占港の密輸ハブをへし折られた【キモツキ・シンジケート】は、残存戦力を総動員。 最新鋭の重脚戦車型サイバネ武士二百を投入し、シマヅの補給線を叩き潰すべく怒涛の進軍を開始していた。
「……ねえ、イエヒサ様。本当にこの作戦で合っているのかしら?」
街道を見下ろす竹林の奥。 ツルヒメ=タネガシマは防弾ドレスを泥で汚しながら、望遠スコープで敵の進軍を見つめていた。 彼女の隣では、四男イエヒサ=シマヅが、軽量高機動フレーム『隼』の関節をコキコキと鳴らしながら、携帯パウチのバイオ芋焼酎をちゅうちゅうと吸っている。
「合ってる合ってる! これぞ我がシマヅ伝統の究極アルゴリズム、『釣り野伏・プロトコル』だ!」 イエヒサは歯を剥き出しにして笑った。 「敵が百来たら、まず十の兵で突っ込んで、泣き叫びながら逃げる! 敵が『勝った!』と追ってきたところを、両脇の藪からチェストハウンドと次男兄者が挟撃して全員ミンチ! 簡単だろ?」
「言葉の選び方が全部不穏なのよ……!」 ツルヒメがこめかみを押さえた。 「でも、偽装退却ってことは、囮になる部隊は敵の全火力を背中に浴びるのよ? 誰がそんな狂気の囮役をやるっていうの……」
「俺だ」 「えっ」
イエヒサは焼酎のパウチを握りつぶすと、二連装アサルト火縄銃を両手に構えた。 「現場のトップが一番体を張る! これがサツマの風通しの良さよ! おい小娘、後ろから見てろ!」
「ちょ、待ちなさ――」
「ヒャッハーーーッ!! 突撃ィーーッ!!」
イエヒサの背部スラスターが青白いプラズマを噴射した。 彼は単身で竹林を飛び出し、キモツキの大軍のど真ん中へ突っ込んでいった!
「なっ……本当に一人で突っ込んだ!?」 ツルヒメが絶句する。
街道上、キモツキ軍の重脚戦車部隊が突如現れたイエヒサを捉えた。 「敵ニンジャ一名! シマヅの四男イエヒサだ! 撃て撃てェーーッ!」 ガガガガガッ! 電磁バルカンの弾幕が街道を切り裂く!
イエヒサは超絶技巧のガンカタ・ステップで弾幕を紙一重ですり抜け、アサルト火縄銃を乱射! ドバババン! 先頭の戦車兵のセンサーを撃ち抜いた……が、敵は二百。圧倒的な物量差だ。
そこで、イエヒサの挙動が一変した。
「アイエエエエエ!? 弾が当たらない! 怖い! 死にたくないでござるーーッ!」
イエヒサは両手を振り回し、全方位スピーカーから大音量で情けない絶叫を響かせた。 網膜HUDから偽装の生体グリセリン涙をボロボロと撒き散らし、二連装火縄を放り投げ、まるで生まれたての小鹿のように足をもつれさせながら、全速力で来た道を引き返し始めたのだ。
「隊長、待ってください!」 キモツキの前衛索敵兵が警告ログを上げた。 「シマヅの武将がこれほど無様に逃げるはずがありません! 伏兵の罠では!?」 「だが敵スキャナーのログを見ろ! 心拍数上昇、アドレナリン逆流、バイタルが完全にパニックを起こしているぞ! 計算外の単独突出でビビったのだ! 追え! イエヒサの首を獲った者に特別ボーナスだァーッ!」
高度な敵軍AIは、イエヒサの完璧すぎる「へたれバイタル偽装」を論理的に分析した結果、まんまと陣形を崩して狭い隘路へと雪崩れ込んだ。
「……あいつ、演技力高すぎでしょ」 竹林の陰でツルヒメは冷や汗を流した。 「でも、追いつかれたら本当に蜂の巣よ! チェストハウンドはどこに……」
その時。 逃げるイエヒサの行く手、隘路の出口を完全に塞ぐように、二基の巨影が立ちはだかった。
一騎は、漆黒のチタン複合装甲を纏った処刑執行者――チェストハウンド。 そしてもう一騎。 歩くだけで地面がメリメリと沈み込む超重量チタン骨格。胸部インジェクションから高純度エタノールの白煙をゴウゴウと吐き出す男。 シマヅ軍事執行部・最高責任者(COO)――ヨシヒロ=シマヅ。
「兄者ァー! 釣ってきたぜーーッ!」 イエヒサが二人の足元をスライディングで器用にすり抜け、後方へと離脱した。
ヨシヒロは逃げてきた弟の頭を巨大な篭手でポンと一度だけ叩き、前方のキモツキ軍二百を見据えた。 「……うむ。ご苦労」 それだけだった。軍事最高責任者の言葉には、作戦の成否を問う気配すらない。ただ目の前にある二百の標的を、物理的に排除すべき障害物として処理する眼光。
「ひ、ひるむな! たった二騎だ! 踏み潰せェーーッ!」 先頭の重脚戦車がキャタピラを軋ませて迫る。
チェストハウンドがノダチ『ジゲン・スラッシャー』を頭上へ引き抜く。 対するヨシヒロが構えたのは、刀ではない。超高密度タングステンの巨大金砕棒――『ジゲン・メガトン・ブレイカー』。
(待って、二人とも全然武器の軌道が違うじゃない!?) 竹林のツルヒメが目を見張る。
チェストハウンドの狙いは【切断】。 ヨシヒロの狙いは【完全粉砕】。 理屈の違う二つの暴力が、同時に振り上げられた。
「「ウオオオオーーーッ! キエーッ!!」」
超音波猿叫の咆哮が隘路に炸裂した瞬間、キモツキ軍の前衛部隊はセンサーが物理的にショートし、車列が玉突き事故を起こして完全に停止した。
そこへ――。
「チェストーーーーーッ!!!」 「チェストォッ」
チェストハウンドのノダチが、音速を置き去りにして鋭利な真空の刃を振り下ろす。 ズバッ!! 先頭から三列目までの重脚戦車が、装甲もフレームもまとめて紙のように水平両断された。
その直後、ヨシヒロの巨大金砕棒が天から叩き落とされた。 ドゴォォォォォォン!!!!!
切断ではない。圧倒的な質量による局地加圧。 両断されてバランスを崩した戦車群ごと、ヨシヒロの一撃は隘路の岩盤そのものを粉砕した。衝撃波が谷間を逆流し、後続の百五十騎をまとめて宙へと跳ね上げ、落下してきた瓦礫とともにプレス機めいてミンチにすり潰す!
敵全機のHUDに表示されたのは、断末魔の叫びすら許されない、無機質なアラートのみ。 【SYSTEM ALL DOWN:SIGNAL LOST 200/200】
静寂。 もうもうと立ち込める砂煙とエタノールの紫煙の中、チェストハウンドがノダチを納刀し、ヨシヒロが肩に担いだ金砕棒からプシューッと蒸気を排出した。
「……二の太刀要らず」 チェストハウンドが呟く。 「うむ。片付いたな」 ヨシヒロは短く吐き捨て、懐から取り出したドラム缶サイズの芋焼酎をグビリと煽った。
「ガハハハハ! 爆釣! 釣れすぎて生簀ごと吹き飛んだぜ!」 瓦礫の上でイエヒサがメガホンを叩いて大笑いしている。
遅れて竹林から這い出てきたツルヒメは、もはや地形が変わり果てて巨大なすり鉢状のクレーターとなった街道を見下ろし、持っていた日傘をポロリと落とした。
「……ねえ」 「何だ、小娘?」 イエヒサがケラケラと笑いながら振り返る。
「釣り野伏って……敵を誘い込んで、包囲して、退路を断つ『戦術』じゃなかったかしら……?」 ツルヒメの瞳が完全に光を失っていた。 「ただ正面からスライサーとハンマーでミンチにしただけじゃないのよ! 知恵はどこへ行ったのよ知恵はァーーッ!!」
ヨシヒロはドラム缶から口を離し、ツルヒメを一瞥して淡々と言った。 「知恵を使って誘き寄せた。あとは叩き割るだけだ。何か問題があるか?」 「ぜんぶ問題だわこのゴリラ軍団ーーーーッ!!」
ツルヒメの悲痛な絶叫が、変わり果てた一乗院の谷間に木霊した。 だが、この野戦主力の完全消滅により、キモツキ・シンジケートは手足をすべて失った。 残るは、首脳陣が立て籠もる最後の要塞――岩剣城の処刑のみである!
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