<三>
空き家と思われる荒れ果てた民家から、二人の女の声が聞こえて来る。
それは密やかに、切羽詰まったような声色をしていた。
割れた窓から侵入した白い狐は、軽快な足取りで声のする方へ近づいていく。
「もうこんな生活嫌だ……抜け出したい……」
「しっ。聞かれたらどうするの」
「だって……、コレで犠牲者が増えてるって話じゃん。あたしたちが殺してるようなもんじゃん……」
「そ、そうと決まったわけじゃないでしょ。わたしたちは知らなかったわけだし……」
「もう勘付いた時点で共犯だよ! もー……どうしよう……」
古びた木の机には銀色の真四角の入れ物の中に多種類の飴が入れられている。
その側にはそれらが入っていたと思われるポップなイラストが印刷された袋が捨てられていた。
彼女たちは市販で売られている飴を買い込み、中身を取り出して他に移し替えているようだ。
狐は琥珀色の眼を光らせて一部始終を見つめていた。
直ぐ傍にいるというのに彼女たちはこの存在に少しも気付かない。まるで彼女たちには見えていないかのように――。
剥き身の飴玉に何かを吹きかけて、乾いた端から別の包み紙に飴をくるんでいく。
「……あたし、今日で抜ける」
「そんなことできると思ってるのっ? 逃げて、もし見つかったら絶対タダじゃすまない」
「死人が出てるんだよ? このまま続けてたらどの道終わりだって!」
「………」
会話が途切れると、抜けることを拒んでいた女が震える声で呟いた。
「なら、わたしも一緒に逃げる」
そう決断した彼女たちは既に仕上がった飴を集めて袋に詰め、まだ作業が終わっていない飴は別の袋に入れてその口を固く縛った。
「こっちはわたしが届けるから、そっちはあなたが適当に処分して」
「う、うん。待ち合わせはいつもの場所で!」
慌ただしく出ていく彼女たちに取り憑くように、白い狐はぴたりと張り付いて追走した。




