<二>
現世を駆ける数匹の白い獣が路地裏を抜けて散っていく。
行き交う人々の足元を縫うように走り、時には立ち止まって鼻先をひくつかせて何かを探るように頭を動かす。
上の方へ視線を留めた獣は、通り過ぎていく人の肩に飛び乗り、更に足を蹴って建物の上に着地した。
蹴られた人間は風が触れた程度にしか思わず、肩に手を置いて首を傾げ、また歩き出す。
屋上の僅かに開いた扉から小さな身体を滑り込ませた獣は、物音一つ立てずに階段を下りていく。
「……――の調達は?」
「その前に、此処もそろそろ捨てた方が良い。サツも嗅ぎつけて来る頃だろうからな」
殺風景な一室から聞こえてくる声に耳を欹てて、タイミング良く男が開けた扉から白い身体を潜り込ませる。
室内にいる男は二人。今出て行った男を含めて三人だ。この階に他の人間の気配はない。
男たちはケースに何かを仕舞い、デスクの上を片付けていた。
下から白い顔を覗かせると、男が手を滑らせて持っていた丸い物を弾く。それはコツンとデスクの上を跳ねて床に落ち、コロコロと転がった。
男がそれを拾おうと屈んだ隙を狙い、獣はデスクの上にある包装された状態の丸い物を銜える。
そこからは嗅ぎつけた異臭の他に甘いニオイが鼻をついた――これは飴玉だ。
すると、向かい側に居たもう一人の男が声を上げた。
「な……なんだ!?」
男には飴玉がひとりでに宙に浮いているように見え、びびりながらもそれに手を伸ばす。
しかし飴玉は意思を持っているかのように空中を移動し、弾むようにデスクの下に潜った。
「おい待て! どうなってやがる!?」
必死に追いかける男。
「はっ? どうしたんだおい!」
床に落ちた飴玉を拾い上げた男も異変に気付いて後を追う。
飴玉は開け放たれた扉から廊下に出ると階段を上がっていく。そこにさっき出て行った男が煙草の箱をポケットに押し込みながら下りて来た。
「おい! そいつを捕まえてくれ!」
「あ? ……!?」
目の前に飛び込んできた飴玉を掴もうと手を広げた男だったが、突然飴玉が白い獣に変わり驚いて顔を伏せる。
「ネコかっ? いや……キツネ?」
真っ白で触り心地良さそうな毛が全身を覆い、キリッとした琥珀色の眼が男を見下ろしていた。
飴玉の包みを銜えた白い狐は、そのまま階段を駆け上がって扉の隙間から出ていく。
男たちは狐に摘ままれたような顔をして暫し呆気に取られていた。




