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神門の鬼番  作者: 煙々茸
第一章 ~人間を狂わす妖の薬・前編~
7/13

<一>


 地獄門前――深淵。

 ひたひたと水気を帯びた洞窟のようなこの場所は、命を落とした人間やあやかしの悪霊が多く集まってくる。

 いくつもの悪霊が重なり合ってできた集合体を禍魂まがたまといい、これは普通の悪霊とは異なり、祓うことができないため消滅させる他ない。

 増え続ける禍魂を短刀一本で斬り伏せていく端正な顔立ちの男――閻煌えんこう

 彼は顔色一つ変えず淡々と刀を振るい続けていた。

「今日で何日目だ? エンよ、そろそろ一度休め」

 黒い翼を羽ばたかせながら暗い深淵を舞うように飛ぶ八咫烏やたがらすが、主の無茶な働きにいよいよ口を挟む。

「斬っても斬ってもきりが無かろう。どう考えてもおかしい。一度戻って調査すべきだ」

 言いながら蠢く数体の禍魂が閻煌に襲い掛かるのを、翼と三本の足で蹴散らし間合いを作る。

 そこに短刀を構えた閻煌が連続で斬りかかった。

 汗一つ掻いていない顔に、僅かに疑念の色が浮かぶ。

 閻煌は広げた左手に鬼火を灯し、水を撒くように振って炎を足元へ飛ばした。これで暫くはこっちに近付けまい。

「お前は先に出て瀧庵りゅうあんに報告を」

「先にって……おぬしはどうするのだ?」

「もう少し数を減らしてから戻る」

 そう言うと、手にした短刀の刃を自身の手の甲に滑らせた。

 これを目にした八咫烏は慌てて高く舞い上がる。

「また無茶をするっ。必ず直ぐ戻ると約束せえ! 分かったなエンよ!」

 八咫烏はそう言い置いてその場から急ぎ離脱する。

 すると、閻煌の血のついた短刀が燃えるように赤く染まった。

 刀というより、付着した血が刀を覆ったためそう見えるのだ。

 それを振るうと周囲に居た禍魂が一瞬にして燃え果てる――。八咫烏が近くに居たら確実に巻き込まれていただろう。

 閻煌は短刀を振って刃についた残り血を払い、そっと鞘に収める。

 目の届かない暗闇で蠢く気配はまだあるが、直ぐには動き出さないだろうと判断して背を向けた。



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