<六>
悠青は途端に飛び起きた。
ぐるりと辺りを見回すと、ここが見慣れた部屋の冷蔵庫の前であることに気付く。
目を擦り、ぼんやりする頭をどうにか働かせながらベッドに移動して腰を下ろした。
「確か……夢を見ていたはず……」
それはどんな夢だっただろうか。
夢のようで夢じゃない。そんな曖昧な何かを見ていた気がする。
はっきり思い出せずガシガシと無造作に頭を掻くと、何かがはらりと膝の上に落ちた。
摘まんでまじまじとそれを見つめる。
「……羽根?」
真っ黒な羽根だ。少し大きめで、この艶やかな感触は何処かで触った覚えがあるような――。
――カラスの羽根? ……――そうだっ、八咫烏!
「八咫烏さんの羽根だ!」
スイッチが入ったようにさっきまでの出来事を全て思い出した悠青は、玉磨瑪の最後の言葉を反復する。
「閻煌さんが……“鬼の憑人”?」
確かにそう言っていた。
彼は鬼に憑かれた人間ということになるが、“元々人間”という玉磨瑪の言葉が引っかかる。
「隠世にいるわけだし、人間じゃないってことなんだよな……。ちょっとまって、何で俺全部覚えてるんだ?」
玉磨瑪も、確か八咫烏も隠世のことは忘れてしまうようなことを言っていたはずだ。
覚えていては拙いのか、その辺りも良く分からない。
しかし忘れられなかったものは仕方ない。考えたってどうすることもできないし、今は開き直るしかないだろう。
「秘密にしてれば問題ないよな」
それにこんなこと人に話してもきっと信じて貰えない。
それどころか、頭でも打ったのかと笑い飛ばされそうだ。
何はともあれ、生きて帰ってこれて良かったと身体を伸ばすと、ポケットに何かが入っていることに気付く。
手を突っ込むと、そこにあの飴玉の包み紙が入れっ放しになっていることを思い出した悠青は、嫌な記憶を捨て去るようにごみ箱に投げ入れた。
そして残された黒い羽根は、そっと机のペン立てに置く――いつまでも覚えていられるように……。
【第零章/完】




