<五>
街を抜けると行き交うあやかしもまばらになってきた。
薄っすら霧も立ち込めて少し不気味な雰囲気が漂う。
歩道の脇に置かれた灯篭に自然と火が灯され、薄暗い道の先を次々に照らしていく。
悠青は沈黙が気まずくてちょっと疑問に思っていたことを尋ねてみることにした。
「今更なんだけど、穢れを祓うのって閻煌さんや八咫烏さんじゃ駄目だったの?」
「………」
「ほら、二人……特に八咫烏さんとはずっと一緒だったから……」
祓うタイミングならいくらでもあったはずだ。
何かできない理由、例えば祓うための条件のようなものでもあるのだろうか。
どう答えるべきか迷っている様子の玉磨瑪。
暫しの沈黙の後、ゆっくり口を開いた。
「主様……閻煌様が話さなかったことをボクが言うべきじゃない。けど、言っちゃいけないとも言われていないから、話す」
「え? いやいや、無理に話さなくていいって! 閻煌さんの許可が必要なら玉磨瑪くんはそれに従うべきだよ」
主様ということは彼の上司的存在なのだろう。
であるならこっちの好奇心程度の願いを押し通すことは好ましくない。
またあの探るような視線が悠青を見つめ、歩調をやや緩めながら玉磨瑪は呟くように言った。
「……なら、ボクの独り言。悠青はただ聞いちゃっただけ」
「ん? うん……」
――え? 話すつもりなのか?
こっちの頭に疑問符が飛び交う中、玉磨瑪はお構いなしに淡々と話し出す。
「八咫烏は憑人じゃないから祓うことはできない。閻煌様は憑人だけど、祓えない」
「祓えない?」
「閻煌様の力は魂を消滅させてしまうから。だから蘇生できる魂には手を出さない」
それはつまり、閻煌に対処してもらっていたら悠青の魂は消滅し、死んでいたということだ。
「そ、それはやばいな……。あ、だから深淵にいたのか」
悪霊しか集まらないという深淵で、彼は彼の役目を担っていたのかもしれない。
それを肯定するように玉磨瑪が一言零す。
「そう、あそこには閻煌様しか行けないから」
「……え? 八咫烏さんも一緒にいたけど?」
「それは閻煌様も一緒だったから。閻煌様が許可した者だけ同行を許される」
「どうして閻煌さんだけ……って色々聞き過ぎかな」
どのくらい歩いてきたのか、気が付けば両脇の灯篭もぼやけて見えるほど霧が濃くなっていた。
あやかしの気配も全くない。
「こっち」
と、玉磨瑪に手を引かれてほぼ白い世界を進むと、風が頬を撫でて空気が一変するのを感じた。
「現世に出たから、もう身体に戻れるはず。……最後の質問の答えだけど、閻煌様は“――”だから、地獄にも行けるんだよ」
「え? 今何て……」
「けど、これ聞いても悠青は忘れちゃうと思うけどね。かくりよであったこと、全部。さようなら……ゆうせぃ――」
すぐ側にいるはずの玉磨瑪の声が小さく遠退いていくと同時に、白い世界から意識を失うように視界が暗く閉ざされた。




