<十一>
閻煌の屋敷に場所を移し、報告会が開かれた。
参加者は閻煌と瀧庵、そして高麗狛の麟太郎。
麟太郎は樹海の帰りに村から引っ張ってきたのだ。その方が情報の共有も一度で済む。
まずは樹妖討伐の話から入った。
さゑの現世でのこと――樹妖の欠片を運んだ小妖怪と、そこから成長した悪しき樹妖を討伐した件。
続いて閻煌も樹海で本体を討伐したことを報告。
結果、樹妖の本体を倒したことでもう例の薬に悩まされることはないと判断された。
「こちらで追っていた黒幕ですが、双子が遭遇したあやかしたちに瘴気の影響は見られず、少し関わりのある者に会いに行ったら黒幕の手下と思われるあやかしが奇襲を仕掛けて来たようです」
と麟太郎が報告を上げた。
「手下は自害したようですけど、例の薬は持っておらず、ニオイは一緒にいた樹妖から移ったものではないかということです」
と続けた。
これに瀧庵は、
「まああやかしなら毛嫌いする香りですし、率先して配りたがる者などいないでしょうね」
などと身も蓋もない意見で締め括った。
神域に侵入するよう仕向けたのはその溝鼠のようなあやかしだったのだろうと蒼から聞いている。
他をいくら探っても情報が出てこなかったため、状況的に麟太郎もその考察に賛同した上で閻煌に話した。
「あとは禍津日神のことですね」
瀧庵の意見に閻煌が口を開く。
「黒幕がそうであったなら、本来の力を取り戻すのが狙い――だとして、俺を深淵に縛り付けて神域に侵入したのは何故か」
「神域には焔舞羅様もいらっしゃいますからねぇ……それを知らずに入ってくるなんてこと、あります?」
相手は力を失っているとはいえ元神様だ。こんな強引で愚策な手を打つとは思えない。何か訳があるのだろう。
麟太郎の意見に瀧庵は考えを巡らせながら言う。
「弱い彼らを侵入に使ったのは神域を崩すことが目的ではなかったから、とすれば……」
「内部を探るため」
閻煌の呟きにふたりは目を瞠った。
麟太郎がすかさず否を唱えた。
「それこそ焔舞羅様に返り討ちされて終わりでしょう。案の定、侵入者はこっちの手中ですし」
瀧庵の狐たちに運ばれてきた樹妖たちは、先程目を覚ましてからずっと同じ場所に鎮座している。
強者三人の目に晒されて、“我、植物成り”とでも自己暗示をかけているのか兎に角動けない様子だ。些か可哀想に思えて来る。
とはいえ、今膝を突き合わせて導き出せる黒幕の動向予測など限界がある。
「あの人も対象だったのかもしれないな」
閻煌の推測に瀧庵もなるほどと頷く。
「それでしたら焔舞羅がいると知っていても入ってくる理由にはなりますね。何を知りたがっているのかまでは分かりませんが」
「仮に、力を取り戻すための手立てを探っているとするなら、まだ身動きが取れない状態なのかもしれませんね」
麟太郎の発言で一旦場が静まり返る。
樹妖たちも空気を読んで……というより早く会議が終わりますようにと願って沈黙を貫いていた。
その願いが届いたかのように、伏せていた赤い瞳をふたりに向けた閻煌が静寂を破る。
「そうだったとしても、警戒だけは怠るな。無理に探らず、向こうが尻尾を出したら確実に捕まえられるよう各々網を張っておけ。奴が現れたら俺がまず相手をする」
「「承知しました」」
閻煌の下した決定にふたりの属長は居住まいを正して深く頭を下げ、これにて報告会はお開きとなった。
【第二章・後編/完】




