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神門の鬼番  作者: 煙々茸
第二章 ~人間を狂わす妖の薬・後編~
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17/23

<二>


 高麗狛邸を訪れるべくやってきた閻煌は、途中で蒼に迎えられ共に集落に足を踏み入れた。

 集落で農作業に勤しむ者たちの視線が一斉に注がれる。

 来客が珍しいという意味もあるのだろうが、初めて閻煌を見る者にとっては彼の外見や雰囲気につい目が引き寄せられてしまう。

 陽に照らされる肌は透き通るように白く、赤い目は焦がれるように熱く輝いていて綺麗だ。

 しかし一度ひとたび睨まれたら恐怖に変わるだろう。

 そんな表裏を併せ持つ不思議で危険な何かを感じさせる双眼に、怖いもの見たさの視線は止まない。

 偶然目が合った低級のあやかしはびくっと肩を震わせるも、顔半分を占める大きな一つ目を見開いたまま閻煌を捉えて離さない。

 通り過ぎるのを視線で追いかけ、背中しか見えなくなっても見つめ続けていた。

「鬱陶しいようでしたら黙らせますが」

 熱い(?)視線をあちこちから注がれることを気にして蒼が進言するも、それには及ばないと首を振る。

「敵意があれば別だがこの程度は些事だ、放っておけ」

 視線の中には閻煌を知る者もいて、これには少し別の感情が込められていたりする。畏怖の念だ。

 こういった視線に晒されることには慣れているし、元々他者からどう思われているかなど気にも留めていない。

 過ごしてきた境遇から慣れるしかなかったとも言えるし、生まれながらにしてそうだったかもしれない。その辺りは閻煌自身も良く分かっていなかった。

 側近の二人には『自分には無頓着だな』などと良く言われるが、そういうつもりもない……と思う。

「着きました。閻煌様のことは知らせてあるのでじきに……」

 高麗狛邸に辿り着いて早々、蒼の台詞をかき消すほどの足音が幾つも迫ってきた。

 表の門が開き、中から飛び出してきたのは白と茶色の毛を持つ大きな犬。

 閻煌の前まで駆けて来ると全ての足で急ブレーキをかけて行儀よく“お座り”する。

 見上げる瞳が嬉しそうに閻煌を捉える。まるで何かを期待しているかのようだ。

 この大きな犬を筆頭に数匹の犬が閻煌の周りに集まってくる。

 大きさも犬種もばらばらだが、目の前に座る犬が彼らのボスなのだろう。出方を窺うように一歩下がったところから様子を見ている。

「出迎えご苦労様。元気そうだな」

 袖に入れていた手を伸ばしてふわふわの頭を撫でてやると、ボス犬は待ってましたとばかりに太い尻尾をぶんぶん振った。

 彼らにも時々仕事を要請するため閻煌とは顔馴染みなのだ。

 そこに今度は人間の足音が近付いてくるのに気付き、顔を上げると想像していた人物が慌てた面持ちで駆けてくるのが見えた。

「閻煌様! お待たせしてしまい申し訳御座いませんっ」

 体当たりでもするかのような勢いで迫ってきた彼は、高麗狛の纏め役を務める憑人。名を麟太郎という。

 閻煌の前でぴたりと止まるなり勢いよく頭を下げた。癖のある青紫色の髪が揺れて旋毛が覗く。非常に綺麗な直角だ。

 先程のボス犬と並ぶと物凄く似ているように思う。まるで兄弟のよう……。

 それもそのはず、麟太郎に憑いている犬こそこのボス犬なのだ。

「先程知らせを受け丁重にお出迎えするつもりが間に合わず、その上犬たちに役目を奪われるなど……っ、自分の不徳の致すところっ。面目御座いません!」

 今度は地面に平伏す勢いで頭を下げた。

 隣では尻尾を振り、こっちでは頭を上下に振っている。

 相変わらず真面目一辺倒な男に閻煌は小さく肩を竦めて言った。

「突然訪ねてきたのはこっちだ。麟太郎が謝る必要はない。それよりお前たちに頼みたいことがあるんだが」

「あ、はい! では中で伺います。他の者も召集かけますか?」

 ガバッと顔を上げた麟太郎に首を振る。

「いや、今いる者だけで構わない。あとでお前から皆に共有してもらえればいい」

 いつもは落ち着いた雰囲気を纏う彼だが今はどこか切迫しているように感じ、麟太郎は先に立って歩きながら怪訝そうに問う。

「何やらお急ぎのご様子ですね。八咫烏様も降りてきませんし……。一体何があったのですか?」

 尋ねて来たのは閻煌一人だけではない。

 八咫烏も始めから同行していたのだが、ずっと上空から警戒していたためその存在を知る者も少なかったはずだ。

 気付いたのは高麗狛の上位数名くらいか。

 今もこの建物の屋根から地上に目を光らせていることだろう。


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