N-057 国王ノヴァロムの追憶 3
※ 本文中には、一部自殺を仄めかす記述、およびショッキングに感じられる可能性のある表現が含まれています。精神的に体調が優れない方、あるいは該当の描写に対して苦手意識のある方は、無理をせずここでお引き返しいただけますようお願いいたします。心の準備が整った際、あるいは気が向いたときに、いつでも物語の続きでお待ちしております。
※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。
※更新頻度は緩やかです。
▼episode 057 - BGM
重なり合う音色が意味する物は……
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風雪は激しさを増して、容赦なく硝子窓を叩く。
自分を罰して欲しいと懇願し嗚咽する少女は、其の後も訥々と罪を語った。己の稚拙さを嘆き、短絡的な行動に恥じ入っては泪を流す。
まだ十にも満たない少女が——自分が、友と其の家族を死に追いやったのだと絶望し、王に処断を求めるのだ。
公女の懺悔は尽きる事がない。吐露する後悔は見えない糸となって吐き出され、幼い身体を覆い隠していく。
(——まるで呪詛の様だ)
侍従長は傷ましさに耐え切れず、無意識に胸を押さえていた。
公女は事件の日からずっと苦しんで来たのだろう。誰にも相談出来ず、ただ只管に足元を掘り返すばかりで——泥濘んだ過去に沈みながら、藻掻きながら、一体幾つの夜を耐えてきたのか。
自分を呪う言葉の中には小さく光る欠片も混ざっていた。語る本人でさえ気付かない其れ等を一つずつ集めて繋げれば——眩しいばかりの〝純粋な善意〟という動機が現れた。真相は実に単純だった。公女は大好きな友人一家に幸せを与えようとしただけだった。
「お、願いします、国王様……わ、私を罰して下さい——」
泣きじゃくる公女の懺悔と祈りを、国王は静かに受け止めていた。そして遂に口を開く。
「——クラリオラよ」
ノヴァロムは哀れな少女の名を呼んだ。
「私に罰して欲しい、と——申すのか」
問い掛ける声は何処迄も静かだ。公女は頷く。
「自分が悪い。自分の愚かな行いの所為で友が死んだ。だから等しく、己にも死を与えよ、と?」
意志を確認するように言葉を区切り、尚も問う国王にクラリオラは矢張り頷いた。
小刀に胸を刺されたアーチェは言った。
〝あんたの所為だ〟って。
〝どうして自分が死ななきゃならないの〟って。
アーチェはずっと私を睨んでいた。
ずっと、ずっと、睨んでた。
私は何も出来なかった。
——違う。
私があんな馬鹿な事をしたから皆んな死んでしまった。
それなのに、誰も私を叱ってくれない。
お父様もお母様もお兄様達も使用人達も、アーチェが悪いと言っては私を慰める。
悪いのは私なのに。
私が悪いのに!
私が一番悪いのに!!
誰に伝えたら分かってくれるの?
一番偉い人なら、悪い子の私を罰してくれるの?
国王様ならそれが出来るの?
だからここに来た。
あの時の事を話せば、心の底からお願いすれば!
私が悪い人間だときっとわかってくれる。
きっと、国王様は私を許さない。許さないでいてくれる!
祈る様な気持ちでクラリオラは裁きを待った。しかし国王は更に質問を重ねていく。
「では聞くが——其方が死ねば、友は生き返るのか?」
「——っ、それは……」
責める口調ではない。諭す口調でもない。黒曜石の瞳がクラリオラを捉えて離さない。ただ問うて居るのだ。
漆黒の闇は光をも飲み込むのか——深い深い黒色の奥は読めない。国王の視線が赤く充血した秘色の中にずるりと滑り込んだ。クラリオラの本心を捕まえようと手を伸ばす。
「友の恨みを叶えれば——然すれば友の弟は、父親は、生き返ると?」
「ち、ちが……そんなの……無理に決まってる」
「嗚呼、そうだ。死んだ者は、二度と、生き返らない。二度と、だ」
痛烈な事実がクラリオラの胸を刺した。知っている。そんなの分かってる。
「辛いだろう、苦しいだろう。だが其方は——自分が死を願う本当の理由に気付かねばならぬ」
「本当の、理由?」
「其方は楽になりたいのだ。自分の過去を思い出し続けるのは辛い、忘れる事も出来ない、苦しみは続く。だから罰という名の免罪符で他者に死を願うのだ。此の現実から逃がして欲しいと、終わらせて欲しいと——其方は救いを求めておるのだ」
「わ、私は——」
暖炉の薪が崩れて火の粉が爆ぜた。ぱちぱちと干木が燃える音が室内に響く。
混乱と悔しさが飽和してクラリオラの表情が大きく歪んだ。しかしノヴァロムは公女の動揺など意にも介さない。
そして——国王は威厳に満ちた声で公女へと語りかけた。
「——レクレディ公爵家が公女クラリオラよ。パルクトゥード王国の国王として、其方に罰を与えよう」
クラリオラは胸元で力一杯、両手を組んで答えを待った。
だが——国王の裁きは少女の望みを叶えなかった。
「死んで詫びる、など許さぬ。此れが其方への罰だ」
はっ、と飲み込まれる息の音は黙殺された。
「其方が死んでも償いにはならぬ」
「でも! 私は——」
「無知こそが罪——」
ノヴァロムの覇気がクラリオラの口を封じた。国王は語る。
「其方は知らねばならぬ。自分に欠けた物が何かを。世の仕組みを。思うままに行動する事で何が起こるのかを——今の其方の行動も含めて」
潤んだ秘色が揺らめいた。ノヴァロムは語る。
「貴族には責任が伴う。何故か分かるか? 民は必死に働き糧を得る。少ない稼ぎの中から領主に税を納める。では領主は其の集めた金で何をすれば良いか——其方は知っているか?」
クラリオラは首を振って唇を噛み締めた。
「公女である其方は何をすべきだったのだ?」
クラリオラは矢張り首を振る。秘色の瞳から大粒の泪が幾つも零れ落ちた。
「クラリオラよ、其方は——知る努力、手にした知識を使う努力、責任を追う覚悟、其のどれも果たしていない。公女の役割を知らぬ其方の何を罰しろと言うのだ? 私に罰を与えろと訴える其方の行動は、友を傷付けた時と同じだと思わないか? 其方は今も、自分が正しいと思った事を相手に押し付けているだけではないか」
「あ……」
眩暈にも似た衝撃がクラリオラを襲った。
国王ノヴァロムの指摘に公女の身体が傾ぐ。足早に駆け寄った侍従長が其れを支えた。
(私は——また間違えたの?)
沈黙にて。




