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G-033 近衛騎士ジークフォルドの狼狽

※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。

※更新頻度は緩やかです。


▼episode 033 - BGM

https://open.spotify.com/track/3RVXmBjgacn6WetTyimCb2?si=WMm-W3ICS3WiWprFroYTiA


 



「——夜会用の御衣裳は格式毎にこちらから順番に並べてあります。宝飾品関連はこの奥の棚からこちらまで。履物は……」


 クラリオラの部屋では先程から慌しく侍女達が行き来している。奥の衣装部屋から聞こえるのはいつもより高揚したセルヴィの声。ユージアとイスレが交互に質問しているのだろうか。


「ああ、それはこっちで——」


「その場合は先にこれを——」


 と、セルヴィの説明には余念がない。熱を帯びた三人の遣り取りが気になるのか、他の者達もそわそわと落ち着かない様子だ。


 クラリオラは長椅子に浅く腰掛け、浮き足立った侍女達を興味深く観察していた。


(セルヴィったら。なんだか嬉しそうね。あら? あの娘はセルヴィの説明を書き留めているのかしら。偉いわね)


 別の場所に目を向ければ、露台(ベランダ)に続く硝子扉の手前でジークフォルドとギルダークが厳しい表情で話し込んでいる。こんなに間近で近衛騎士の仕事振りを目にする機会などそうそう無いのだろう。此方の侍女達はちらちらと二人を盗み見たり、互いに目配せをしたりと忙しい。


(あんなに頬を染めて……可愛らしいこと)


 彼等は有事を想定し避難経路や動線の確認、不審者が侵入し得る箇所の有無等を調べている。彼方此方(あちらこちら)に鋭い視線を向けてはいるが、自分達に色めき立つ侍女に対して一顧だにしない。


(職務に忠実なのね。それとも、こういう視線には慣れているのかしら。興味深いわ)


 これまでクラリオラの生活圏は殆どが公爵領邸の中だった。淑女教育の講師に学び、自領の政策を学ぶ。次期公爵となる兄マテリウスの補佐をしつつ、空いた時間はありとあらゆる知識を得る為に膨大な量の文献や資料を読み漁る日々。


 だから王都では毎日が、全てが、とても刺激的だ。目にする物や耳にした内容と、知識として蓄えてきた物とを擦り合わせ、その差異に驚いたり納得したりと忙しい。


 クラリオラがあれこれと思いを巡らせているとジークフォルド達が歩み寄り、踵を揃えて辞儀を取った。


「公女様、一通り確認は出来ましたので我々はこれにて」


 部屋を退出しようとする二人を部屋の主が呼び止める。


「お待ちになって。お二人共——このまま少し、お時間を頂けるかしら」


「——は?」


 このまま? この公爵令嬢の自室で? と戸惑う男性達に頷くとクラリオラは近くに控えていた侍女を呼んだ。


「貴女達、お茶を用意して下さる?」


「畏まりました」


「い、いえ我々はもう退室を……」


 顔を赤らめるジークフォルドと眉間に皺を寄せるギルダークに「別室をこれから用意するのは二度手間ですから」と着席を促す。


 そこへ引き継ぎを終えたセルヴィとユージア達が揃って戻ってきた。視線を泳がせるジークフォルドと難しい表情のギルダーク、対してにこやかに対面の席へ誘う主人を認めて、セルヴィは軽く天を仰ぐ。


(お嬢様ったら! ちょっと目を離すと途端に()()だもの!)


 此処(ここ)はうら若き公爵令嬢の自室。扉を隔てれば寝室も浴室もある。本来ならば男性が足を踏み入れるなど言語道断。彼等は警護上、必要不可欠な確認を行う為()()に入室を許可されているのだ。


 特にジークフォルドは今、混乱の極みにあった。職務の一貫だと割り切っていたものの、あまりの場違い感に身の置き所がない。彼は直ぐにでも逃げ出したい気持ちに必死に蓋をしているだけだ。()にも角にも職務に集中するだけで精一杯。心を乱されて何が悪い! 今も隣で飄々(ひょうひょう)としているギルダークが恨めしい。


 いつも寝起きする汗臭い騎士団宿舎と違ってこの空間は何処もかしこも甘やかな香りに包まれている。それだけでも妙に全身がこそばゆく、心臓はざわつくし落ち着かない。一刻も早くこの場を辞して鍛錬場にでも赴き、この仏頂面を相手に思い切り剣を振り回す位の事をしなければ雑念が払えない。


(……だというのに(とど)まれと!?)


 世間一般の常識とはまるで勝手が違う申し出にジークフォルドは戸惑いを隠せない。しかし柔らかく微笑むクラリオラは何処(どこ)か有無を言わせぬ空気を放っている。その雰囲気と絶世の美少女の佇まいに気圧され、遂には折れた。二人は仕方なく対面に着座した。


「改めまして——メルベッセン侯爵令息様、ガイアム伯爵令息様、これから宜しくお願い致します。私の事は名で読んで下さって構いません。仰々しいのは苦手なの」


「——うっ」


 小首を傾げて“お願い”する天使の破壊力が凄まじい。艶めく唇が軽やかに奏でる言の葉には怪しげな魔力でも含まれているのか。心臓が鼓動を速める。美姫への耐性が皆無なジークフォルドは胸を押さえて顔を顰めた。クラリオラは驚いて腰を浮かせる。


「大丈夫ですか? 具合でも——」


「全く問題ありません。お気になさらず」


 同僚の奇行を黙殺し公女に答えたのはギルダークだ。ジークフォルドは慌てて数度、深く心呼吸をすると引き攣った赤い顔で「 吃逆(しゃっくり)です。失礼致しました」と頭を下げた。


「では——クラリオラ様。どうか我等の事も名でお呼び下さい。元より王太子妃殿下候補であらせられる御方に敬称付けで御呼び頂くなど恐れ多い事でございますので」


 ギルダークの請願にジークフォルドも最大限の同調を込めて何度も何度も大きく頷いている。


(茶髪の騎士様、加減しないとそのまま首が千切(ちぎ)れて飛んで行きそうなんですけど! それにしてもお嬢様ったら……無駄を省いたつもりでしょうけど、若い騎士様達にいきなり名呼びを許可するなんて刺激が強すぎるわ!)


 主人の美しさに殿方達が挙動不審になるのは最早(もはや)御約束なのだ。セルヴィはいつものように胸の中で十字を切った。


「わかりました。ではジークフォルド、ギルダーク、貴方方に警護頂く期間はそのようにお呼びしましょう」


 話の継ぎ目、絶妙の間でイスレが「失礼致します」と三人に声を掛けた。反対側からユージアが無駄のない動作で茶器を卓上に置いていく。王宮専属侍女達の見事な連携と完璧な身のこなしに周囲の侍女達から溜息が漏れた。


「イスレとユージアも同じように、ね?」


 少し砕けた口調で問いかければイスレが「畏まりました、クラリオラ様」と名呼びで返した。彼女達は「同じように、とは何を?」と問い直したりしない。二人は指示を受けていた侍女達からいつの間にか茶器を受け取っていた。と同時にクラリオラとジークフォルド達の会話を聞き取って居たのだ。しかも最高の状態に入れた飲み物を話の腰を折る事なく提供し、主人の問いには適宜に返答した。


(相手の意図を正確に読み解き、最善の言動で答える——なんて素晴らしい人材だろう)


 感動を抑えて差し出された紅茶を一口飲めば、芳醇な香りが鼻に抜けて思わず笑みが溢れる。クラリオラは満足そうにうなづいて静かに茶器を置く。


「ユージア、イスレ。貴女達も座って頂戴」


 これには二人も戸惑う表情を見せる。


「二人にも一緒に聞いて欲しいの」


 その言葉にユージア達は束の間、目を見合わせると素直に首肯し空いている席に腰掛けた。


 四人の視線が自分に集まったのを確認したクラリオラはゆっくりと一人一人に目線を合わせる。


「——貴方達に、初めに伝えておかねばならない事があります」


 それまで可憐な面持ちで相手の緊張を解くように話していたクラリオラが笑みを消した。


 抑揚を抑えた声と共に公女の醸し出す雰囲気が一変する。場の空気が一瞬で張り詰めた。




「——私は」





 秘色の瞳に決然たる意志が宿り、強く煌めいた。





「他の候補者達に——王太子妃の座を渡すつもりはありません」






本日、メルベッセン侯爵家御令息のジークフォルド様が悩殺された部屋に漂う甘い香りの正体は、レクレディ公爵家御令嬢のクラリオラ様が御愛用のオードパルファムで御座います。


この香水は、王都ガレイニュスに本店を構える老舗の香水専門店「アーデ・モ・ナイ」が取り扱う一級品。


「デ・モ・コレ オータカイン・デショ」


トップノートはフリージアとピーチ

ミドルノートはホワイトローズとココナッツ

ラストノートはバニラ


今回は本エピソード公開の特別価格にて御奉仕させて頂きます。なんと驚きの大特価 パルク金貨2,800枚!

限定数は30個、人気の商品です。

皆様是非、この機会にお買い求め下さい。


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