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O-028 王妃オクタヴィアナの特性 2

※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。

※更新頻度は緩やかです。


※ 本文中に子供を揶揄、否定する言葉が出て参りますが物語の都合上の記述です。ご了承下さい。

※暴力的表現があります。ご了承下さい。


▼ episode 028 - BGM

https://open.spotify.com/track/3kVxXymBadl7b93EQ3UkZ1?si=p-x9iJ39S5eGhylMIax4zg

 



 或る昼下り。シュタインガルド侯爵夫妻は日を追うごとに精彩を欠いていく娘の様子を伺う為、オクタヴィアナの部屋へ向かった。丁度授業を受けている時間だ。然り気なく覗いてみるのもいい、と部屋の手前に差し掛かったその時。


 突然、室内から叫び声が響いた。


「誰か——! 誰か来てっ!!」


 扉を勢いよく開け放ち中から飛び出してきたのはオクタヴィアナ付きの侍女だ。「何事か」と走り寄る夫妻に侍女が震えながら縋り付く。


「お、お嬢様が——!」


 顔面蒼白で室内を指差す侍女の言葉に被さるように中から叫び声が響く。夫妻は慌てて部屋に飛び込んで、驚きの光景に息を呑んだ。




 ***




 部屋の中央、床に転がり悲鳴を上げているのは女史だった。


 そして——あろうことかオクタヴィアナが師に向かって鞭を振り上げているではないか。


「人殺しっ! やめっ……たっ、助けて!」


 髪を振り乱し、床を這って逃げようとする女史をオクタヴィアナが追う。


 びゅおっ、と鞭が唸り、ばちんと打ち据えると同時に、ぎゃっ、と呻き声が響く。


 ひい、ひい、と喘ぎながら這々(ほうほう)(てい)で逃げ惑う女史へ、娘は更に鞭を振り上げた。


 想像を超えたオクタヴィアナの姿を前に、夫人が気を飛ばしてよろめいた。侍女が慌ててそれを支える。茫然と立ち尽くしていた侯爵は、はたと我に返ると素早く娘の背後へ回り込んで羽交い締めた。だが、オクタヴィアナを抑えきれない。


(なんて力だ!)


 抗うのは、若い騎士でも大の大人でもない。若干六歳の少女だというのに。


「アナ! なにをやっているのだ!」


 父の怒鳴り声にオクタヴィアナは(ようや)く動きを止めると、振り返り様に問いかけた。


「——? お父様、なぜ止めるのです」


 オクタヴィアナの声は常軌を逸した行動に反して淡々としたものだ。


「何をしているのかと聞いておるのだ!」


「何を、と言われましても。私は、女史(せんせい)に御手本を見せて貰っていただけです」


「手本……だと?」


「はい、女史(せんせい)は、御指導の際、()()()私の脚に鞭を下さいます。私が不出来だからだそうです。痛みに声を上げたら“見苦しい”と仰いました。“淑女はどんなに辛くとも、それを表情や声に出してはならぬ”と」


「鞭——鞭と言ったか!?」


 侯爵は娘が手に持つそれを見る。女史が授業で鞭を使用しているなど初耳だった。部屋付きの侍女へ鋭い視線を向ければ、青い顔で「も、申し訳ありません!」と平伏した。口止めされていたのか——。


「御立派な淑女である女史(せんせい)ならば、不出来な私に御手本をお見せ下さるだろうと。鞭打たれても見事に耐え抜かれるだろうと思ったのですが——」


 オクタヴィアナは残念そうに指導者を見下ろす。


「でも、彼女は嘘付きでした」


 澄んだ空色の瞳は、迷いなく父を見上げた。


「お父様、私——この方から学ぶべき事はありません」



 ***


 オクタヴィアナは自身の感情に素直に従っただけだった。驚くべき事に彼女の行動に悪意など欠片も含まれてはいなかった。彼女の行動原理は至極単純。純粋に、ただ感じたままに動いただけ。


 侍女の手を振り払い、怪我をさせた記憶は流石にない。何せ赤ん坊の頃だったのだから。


 令嬢達の人形を壊した頃辺りからの記憶は残っている。あの時は「皆で仲良く遊べないのなら初めから人形なんか(そんなもの)持って来なければいいのに」と単純に思った。だからオクタヴィアナは諸悪の根源を取り上げた、ただそれだけだ。軽く引っ張っただけで修復不能なぐらいに壊れて驚いた。令嬢達が余計に騒がしく泣いたけど「これくらいで壊れる人形のどこがいいんだろう?」と逆に疑問にぐらいだ。


 父親に来客があった時、同じ年頃の令息が着いてきた。挨拶をしただけで一方的に「女のくせに生意気だ」と文句を言われた。実はオクタヴィアナの可憐さに舞い上がった令息が照れ隠しで言葉をぶつけたに過ぎない。「挨拶しただけで生意気なんて言われるのは変だ」と返すと「ほら、やっぱり生意気じゃないか」と顔を真っ赤にして突っ込んでくる。面倒になってその場を離れようとしたら「逃げるのか、卑怯者め」と詰め寄られた。ならばお前がどけ、と「あっちへいって!」と軽く胸を押したらごろごろと後ろ回りに転がって動かなくなった。オクタヴィアナは驚いた。この男の子はお兄様達みたいに鍛錬してないのかしら、と。


 自分は普通の子より力が強い、という事実に気付いたのは五歳になった頃くらいか。その辺りからオクタヴィアナは何をするにも必死に力を加減して生活するようになった。兄達が闊達に日々を過ごしているのが羨ましくて気が付けば目で追ってしまう。ある日、彼等の鍛錬を眺めていたら「やってみるか?」と模擬剣を差し出された。本気を出していいのか? と兄達を見れば、期待を込めた瞳を向けているではないか。手に取った模擬剣はとても——とても軽かった。嬉しくなって兄達を真似て素振りをしてみれば、二人は——目の玉が飛び出す程に見開き、自分を凝視している。咄嗟に「失敗した」と思った。


 女の子は「淑女」になる努力をせねばならないのだ。


 そして——両親が「彼女の教え子達は素晴らしい淑女ばかりだ」と言って女史を紹介してくれた。そんな方が授業の度に「貴方は本当に駄目ね」と鞭を振る。オクタヴィアナは落ち込んだ。尊大で居丈高な女史が教える言葉に揺らぎはない。ならば女史(せんせい)は御自分の教えを常に御自身で実践されているのだろう。嘸かし素晴らしい姿を見せて下さるに違いない、とオクタヴィアナは本気で“手本”を見せて貰おうと行動しただけだ。


 仮に普通の少女が見様見真似で鞭を振るったのならば然程も痛みは感じないだろう。逆に即座に取り上げられ更なる指導を受けていたかも知れない。オクタヴィアナの怪力は女史にとっても想定外だった。


息も絶え絶えな女史の両脇を使用人達が抱えて部屋から運び出して行く。その姿を見送る娘は小さく「ごめんなさい、お父様」と呟いた。


 この事件を機にシュタインガルド侯爵夫妻はオクタヴィアナとしっかり向き合い直した。自分達の心配と不安を解消する為に娘の道を決めるのではなく、本人の欲する道を共に悩み模索したのだ。オクタヴィアナは幼いながらも自身の特性を見つめ、しっかりと認識した。


「この力を役立てる方法はありますか?」


 オクタヴィアナは、“女の子だから”と令嬢達の中で生き残る術を学ぶのではなく、自身が持つ()を活かせる騎士の道に進みたいと望んだ。兄達に混ざり鍛錬を重ね続けて、気が付けば歴代最年少で、しかも近衛騎士団初の女性団員としてその名を轟かせた。彼女が近衛騎士団の団長職を拝命した出来事は、また別の機会に語るとして——。



 彼女の気質は今も変わらない。



 通過した環境が男世帯だった所為もあり、多少口が悪くなったのは御愛嬌だ。







※オクタヴィアナ近衛騎士団時代の交流秘話


「おい、オクタヴィアナ! お前、鞭も扱えるのか? 妙に上手いじゃないか。何処で学んだんだ?」


「——幼少期に少し、な(笑)」



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