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O-027 王妃オクタヴィアナの特性 1

※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。

※更新頻度は緩やかです。


※本文中に子供を揶揄、否定する言葉が出て参りますが物語の都合上の記述です。ご了承下さい

※子供の性別や産み分けに関連する表現がありますが、物語の構成上の記述につきご了承下さい。



 



 王妃の“真意(本音)”が、大音量で廻廊中に木霊(こだま)した。うわんうわんと反響する己の声にオクタヴィアナは我に返る。


(しくじった! 頭に血が昇ってつい……怖がらせてしまったか?)


 公爵令嬢は驚き固まっている。短気を起こし王妃の仮面を自ら叩き壊したオクタヴィアナは、己の稚拙な欠点に悶えて(ほぞ)を噛む。


 実は、オクタヴィアナはクラリオラの秘された幼少期を知る数少ない関係者だ。とはいえ、関わったのは束の間でクラリオラ自身はオクタヴィアナの事など覚えてもいないだろう。


 あの頃の——。


 絶望に染まった秘色の瞳を、


 虚空を見つめる哀れな少女を、


 オクタヴィアナが忘れた事はない。ずっと、長い間、陰ながら少女の成長を気に掛けてきたのだ。


 それなのに——。


 何故、この子がエクセルシウォルの妃候補となっているのだ!


 しかも何故!? 人の感情に興味の()()の字も抱かない息子が“恋に落ちた”なんて阿呆らしい虚報が広がっているのだ!


 これが作為的でなければなんだというのだ。真実の愛? そんな馬鹿な話があってたまるか!


(可哀想に……無理矢理、候補者に定められたのだろう。他人を慮るどころか自分の感情さえ欠落している此奴(こいつ)の本質を知ったら……またもや不幸の坂道を転がり落ちるだけだ。そんな事は断じて許せない! 大体、立候補者なら他にも五万と居ただろうに! 一体、何処のどいつが、よりにもよって()()()を推挙したのだ!)


 敬愛する国王が、王命を持って候補者枠に捩じ込んだなど知る由もないオクタヴィアナは、行き場のない怒りを込め息子を睨みつけた。エクセルシウォルは、と言えばその意図に気付いている癖に、平素と変わらぬ面立ちで飄々としている。


畜生(くそ)、いつもながら太々(ふてぶて)しい! その澄ました(つら)を今すぐ切り刻んでやろうか!)


 血を分けた息子に対し母親が、胸中とはいえここまで物騒な悪態を吐くなど褒められたものではないが—— 彼女の思考は至極(しごく)単純で、理解が及ばない相手を特に苦手としているに過ぎない。オクタヴィアナは腹を痛めて産んだ我が子と、どう対峙すれば良いのか持て余しているだけだ。


 貴族社会の規律や規範を度外視した馬鹿馬鹿しい(たと)え話だが、彼女が王妃という立場でなければ、口で敵わぬ相手は力でねじ伏せているだろう。


 豪胆で猪突猛進。剛毅果断、即断実行。


 オクタヴィアナを形成する行動原理を知るには、その生い立ちまで遡らねばならない。




 ***




 オクタヴィアナの生家は武門に秀でたシュタインガルド侯爵家である。当主シュタインガルド卿は王国騎士団の団長を勤め上げた後、その監督官の任についていた。長兄、次兄も父の背中を追って王国騎士団を目指し、頭脳明晰な三男は早くに後継者と定められ英才教育の真っ最中。年若い四男は華麗なる近衛騎士団に憧れ、日々鍛錬を欠かさない。


 つまり、シュタインガルド侯爵家は有体に言えば“男だらけ”の家だった。屋敷内は常に少年達の喧騒に溢れ、色んな意味で賑やかだった。勿論、健康で明るい彼等は夫妻の宝物であり生き甲斐でもあったが、他家の令嬢達が魅せる可憐さやいじらしさを目にする度に羨ましく思っていたのは否定出来ない。夫妻は娘を欲したが、末の息子の誕生から六年、夫人に懐妊の兆候は訪れなかった。


 半ば諦め掛けていた七年目の春、とうとうシュタインガルド侯爵家に歓喜が訪れる。待望の女児が誕生したのだ。


 シュタインガルド卿は産まれたばかりの娘を抱き号泣した。兄達は庇護すべき小さな妹の誕生に狂喜乱舞した。オクタヴィアナと名付けられた赤子は大きな病などに見舞われることなくすくすくと成長した。シュタインガルド侯爵家の男達はこの愛らしい長女を殊の外溺愛した。銀髪に空色の瞳を持つ乳児期のオクタヴィアナは天使のように可憐だった。


 銀髪の天使は、神より「女児には過分過ぎる贈り物」を受け取っていたのだ。


 ある日、オクタヴィアナが眠気でむずがって侍女の手を()()振り払った。翌日、侍女の手の甲には痛々しい程の青痣ができた。僅か二歳での出来事だ。


 三歳の春、とある茶会の片隅で令嬢同士が人形を取り合って揉め始めた。甲高い騒ぎ声が耳についてオクタヴィアナが諸悪の根源(人形)を取り上げれば首と腕と足がもげた。見るも無惨な姿となった人形を手に、令嬢達は更に大泣きし、茶会の場は収拾がつかなくなった。


 四歳になったばかりのある日、同じ年頃の令息に意地悪をされた。理不尽な言い分に腹が立ち、「あっちいって」と胸を()()()()()()()で令息はごろごろと後方に五回転しそのまま失神した。


 自邸の庭で素振りをしていた兄達は、きらきらした目で自分達を見つめる天使に気付いた。「試しに持ってみるか?」と声を掛ければ「いいの?」と笑顔で近づいてくる。模擬剣は五歳になったばかりの妹の身長とほぼ変わらぬ長さだ。「こんなに重たかったの!? お兄様達すごいわ!」と称賛されるのを期待していた兄達は、妹が模擬剣を()()で受け取ったばかりか軽々と振り回す姿を見て(あご)を外した。


 オクタヴィアナには、尋常ではない握力、腕力、脚力が備わっていたのだ。その事実は周囲を混乱させるに充分だった。どの事案もオクタヴィアナに含むところなど有りはしない。しかし声高にそれを説明した所で何になるだろう。


 貴族社会に於いては毛色が違えば排斥されるのが常なのだ。突出した才能であっても、それに見合う立場で無ければ異質物だと見做(みな)される。性別が女であるならば尚更だ。本人に悪意がなくとも事が起これば槍玉に挙げられるのは目に見えていた。


 このままでは愛しい娘が誤解されてしまう。シュタインガルド侯爵夫妻は一計を案じた。


 普通の令嬢の、更に上を行く社交の術を身に付けさせれば良いのではないか?


 夫妻は我が子の為に動き出す。


 オクタヴィアナが六歳となった春、淑女教育では名高い女史に学ぶ事となった。数多の高位貴族に請われる女史の授業は厳しい事で有名だったが、社交界で非の打ち所がない立ち振る舞いを魅せる淑女達の殆どが女史の教え子だったのが後押しとなった。シュタインガルド侯爵夫妻は高額な指導料を提示されても二つ返事で了承した。


 斯くしてオクタヴィアナへの淑女教育が始まった。例に漏れず女史の指導は厳しいものだったが、所作は見違えるように洗練されていった。それに反比例して天真爛漫な天使の顔から笑顔が消えていく。オクタヴィアナの口数は極端に減り、空色の瞳から光が消えた。




 そして、事件が起こる。






「事件は会議室で起きてるんじゃない! 子供部屋で起きてるんだ!」←踊ってません(笑)


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