戦えない寝床係ですが、神獣は私の膝でしか眠りません ~三百年ぶりに眠らせたら、王都の魔法が全部止まりました~
最新エピソード掲載日:2026/08/06
「寝床係は廃止だ。神獣は眠らせない。ならば寝床も要るまい」
十七歳のフィアは、その日、職を失いました。
王宮の|獣廏《じゅうきゅう》で藁を替えるだけの、いちばん下の係です。神獣を動かすのは|御獣官《ぎょじゅうかん》さまのお仕事で、フィアは誰の役にも立ちません。剣も魔法も使えません。
ついでに言えば、フィアは生まれてから一度も眠ったことがありません。
だから夜番はいつも彼女で、三百年鳴り続けている〈|覚鈴《かくれい》〉の音を、十七年ぶん聞いてきました。神獣を眠らせないための鈴です。
その日――新しい女王の戴冠式で、三百年眠っていない最古の神獣が錯乱しました。
騎士が飛び、|魔導師《まどうし》が吹き飛び、石畳が割れて。
フィアは考えるより先に、その大きな頭の下へ、自分の膝を差し入れていました。
銀灰の巨獣は、まばたきを二回して。
――眠りました。
同時に、王都中の魔法が止まりました。灯りが落ち、|魔導井戸《まどういど》の水が止まり、宙に浮いていた橋の石が落ちました。
そして、まどろみの底で、声がしました。
「世界の枕を、やっと見つけた」
夢の中には、黒髪に金の目をした青年が立っていました。彼が人の姿でいられるのは、フィアの膝で眠っている間だけ。つまり――二人が話せる時間は、世界が止まっている時間なのです。
「三百年、目を閉じていない」
「では、お眠りください。わたし、寝床係ですから」
「私が眠ると、この国の魔法が止まる。人が死ぬぞ」
「……なら、死なない止め方を考えます」
眠らせれば世界の機能も止まる。止めなければ神獣が壊れる。
だからフィアは、誰も死なせずに世界を休ませる日――三百年前に廃された〈|臥し日《ふしび》〉を、もう一度つくることにしました。
手なずけません。倒しません。
ただ、寝床を整えます。
――ひとつだけ、困ったことがあります。
この世でただ一人、フィアだけが、まだ眠り方を知らないのです。
十七歳のフィアは、その日、職を失いました。
王宮の|獣廏《じゅうきゅう》で藁を替えるだけの、いちばん下の係です。神獣を動かすのは|御獣官《ぎょじゅうかん》さまのお仕事で、フィアは誰の役にも立ちません。剣も魔法も使えません。
ついでに言えば、フィアは生まれてから一度も眠ったことがありません。
だから夜番はいつも彼女で、三百年鳴り続けている〈|覚鈴《かくれい》〉の音を、十七年ぶん聞いてきました。神獣を眠らせないための鈴です。
その日――新しい女王の戴冠式で、三百年眠っていない最古の神獣が錯乱しました。
騎士が飛び、|魔導師《まどうし》が吹き飛び、石畳が割れて。
フィアは考えるより先に、その大きな頭の下へ、自分の膝を差し入れていました。
銀灰の巨獣は、まばたきを二回して。
――眠りました。
同時に、王都中の魔法が止まりました。灯りが落ち、|魔導井戸《まどういど》の水が止まり、宙に浮いていた橋の石が落ちました。
そして、まどろみの底で、声がしました。
「世界の枕を、やっと見つけた」
夢の中には、黒髪に金の目をした青年が立っていました。彼が人の姿でいられるのは、フィアの膝で眠っている間だけ。つまり――二人が話せる時間は、世界が止まっている時間なのです。
「三百年、目を閉じていない」
「では、お眠りください。わたし、寝床係ですから」
「私が眠ると、この国の魔法が止まる。人が死ぬぞ」
「……なら、死なない止め方を考えます」
眠らせれば世界の機能も止まる。止めなければ神獣が壊れる。
だからフィアは、誰も死なせずに世界を休ませる日――三百年前に廃された〈|臥し日《ふしび》〉を、もう一度つくることにしました。
手なずけません。倒しません。
ただ、寝床を整えます。
――ひとつだけ、困ったことがあります。
この世でただ一人、フィアだけが、まだ眠り方を知らないのです。