表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

戦えない寝床係ですが、神獣は私の膝でしか眠りません ~三百年ぶりに眠らせたら、王都の魔法が全部止まりました~

作者:Dee
最新エピソード掲載日:2026/08/06
「寝床係は廃止だ。神獣は眠らせない。ならば寝床も要るまい」

 十七歳のフィアは、その日、職を失いました。

 王宮の|獣廏《じゅうきゅう》で藁を替えるだけの、いちばん下の係です。神獣を動かすのは|御獣官《ぎょじゅうかん》さまのお仕事で、フィアは誰の役にも立ちません。剣も魔法も使えません。

 ついでに言えば、フィアは生まれてから一度も眠ったことがありません。

 だから夜番はいつも彼女で、三百年鳴り続けている〈|覚鈴《かくれい》〉の音を、十七年ぶん聞いてきました。神獣を眠らせないための鈴です。

 その日――新しい女王の戴冠式で、三百年眠っていない最古の神獣が錯乱しました。

 騎士が飛び、|魔導師《まどうし》が吹き飛び、石畳が割れて。

 フィアは考えるより先に、その大きな頭の下へ、自分の膝を差し入れていました。

 銀灰の巨獣は、まばたきを二回して。

 ――眠りました。

 同時に、王都中の魔法が止まりました。灯りが落ち、|魔導井戸《まどういど》の水が止まり、宙に浮いていた橋の石が落ちました。

 そして、まどろみの底で、声がしました。

「世界の枕を、やっと見つけた」

 夢の中には、黒髪に金の目をした青年が立っていました。彼が人の姿でいられるのは、フィアの膝で眠っている間だけ。つまり――二人が話せる時間は、世界が止まっている時間なのです。

「三百年、目を閉じていない」

「では、お眠りください。わたし、寝床係ですから」

「私が眠ると、この国の魔法が止まる。人が死ぬぞ」

「……なら、死なない止め方を考えます」

 眠らせれば世界の機能も止まる。止めなければ神獣が壊れる。

 だからフィアは、誰も死なせずに世界を休ませる日――三百年前に廃された〈|臥し日《ふしび》〉を、もう一度つくることにしました。

 手なずけません。倒しません。

 ただ、寝床を整えます。

 ――ひとつだけ、困ったことがあります。

 この世でただ一人、フィアだけが、まだ眠り方を知らないのです。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ