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光速の恋人たち ーー 宇宙大回転マッハシステム  作者: 二月三月
水金地火帯点

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8/15

C240フラーレン型金星監視網、ビーナス、ヒスパニオラに立つ


「240個の観測ポッドを金星に打ち込むんだな」


 工場長はユータに最終確認した。


「そうだよ」ユータは雑作無く答える「C240フラーレンの各頂点に当たる位置に摂動をかける。頂点そのものだと相関が強すぎてノイズが乗らないから、頂点間距離をズラして平均偏差を0・2パーセント出す格好になるね」


「・・・」


「これ一個ずつ投入するの?」横からシノノメのお父さん(ガントー)が口をはさむ「240個はさすがに大変じゃない?」


「前にダイオウくんを10000個トンガ海溝に投下したことがある」


「・・・」


「ダイオウくん?」


「深深海底探査ロボット、ダイオウくん」


「ユータが設計して俺が作ったんだ」工場長が胸を張る。


「・・・」


「あ、まあ…。でも、地球の海底と金星表面だと色々と違うのでは?」ガントーは言うが、戸惑いがちだ。


「観測ポッドは金星衛星軌道上に展開してあるから、あとは下ろすだけだし、亜空間(スュードスペース)転送が使えるからこっちのほうが簡単なぐらいだよ。これから投下を始めても数時間で…」


 え? 黙々とコンソールをいじっていたリョージが小さく叫んだ「これ、まだ設置しちゃダメだったんですか?」


 ユータは、失礼、とリョージを押し除けてコンソールを操作する「残りは3個…と、すでに転送空間に入ってる。応答(レスポンス)の干渉率は0・13? もしかして、これ、手動(マニュアル)でやったの?」


「まあ…、月見台(ムーンゲイザー)でビルさんに大体の話は聞いていたので」リョージは心底すまなそうに言い訳した「…まずかったですかね?」


「あ、いえ」ユータはとくに責めなかった「目標より応答が良好ですし、その…、ありがとうございます」


 それなら良かった、と笑顔になったリョージは、後退りで部屋のドアを開けると、変な鼻唄混じりにどこかに行ってしまった。


「何者なんです? あの人?」


 ユータに問われたガントーは気まずそうだ「仕事だと思ったんじゃないかな…」


「仕事?」


「なんか、目の前に仕事があると片付けてしまうんですよ。自分の仕事なら何も問題はないんですけどね。他人のまでやってしまう。で、言われて気づく、と。何か特殊な障碍なんじゃないかと…」


「はあ…」


「へぇぇ…」


「あ、私は違いますよ。私はああじゃない」ユータと工場長にじっと見つめられて、慌ててガントーは否定しだした「私はめんどくさくなると早めに手仕舞いするだけです。絶対にああ(ヽヽ)じゃない」




 ハツミは2度寝から目を覚ました。


 宇宙に来て間もないと言うのに、(リョージ)はどこかで仕事を見つけてきて、朝出かけてしまう。


 もちろん、夜には帰ってくるし、地球にいたときと何も変わらないのだが、こんなものなのだろうか?


 浮気の心配がないだけ快適とも言えるが、ハツミだって一大決心して宇宙まで来たわけである。こうも何も変わらないのでは拍子抜けである。


ーーお散歩でもしてみようかしら


 地球では人目を憚ってあまり外出はしなかったのだ。調度も食材も皆、届け物で済ませていた。


 ここならそういう面倒はない。


 ハツミはクローゼットからシルクのワンピースを取り出して羽織った。腰紐をゆるく結う。


 一見、長尺の布に穴を開けてすっぽりと被っただけのようにも見える。


 露出が多くて何かと面倒なので、室内でしか着ることがなかったが、ハツミの好きなデザインだった。


 ハツミは小ぶりのサンダルをつっかけて、ふわふわと外に出ていった。




 お嬢ちゃんたち、と、ベッコウとコーラルを呼び止める者がいる。声にひかれて振り返った2人は驚いた。


 宗教画によく描かれている天使みたいな女の人がいた。こんなのに道で出くわしたら、そりゃあ驚く。ちなみに頭の上に輪っか(ヽヽヽ)はない。


「貴方たち、シノノメちゃんのお友だち?」


「まあ…」


「知り合いではある」


「そう、良かった」天使は笑った「シノノメちゃんのボーイフレンドのユータちゃん、って知ってる?」


「知ってるけど…」


「ボーイフレンドかどうかは微妙」


「どこにいるかしら?」


 あっち、2人はくるりと振り向くと遠くに見える建屋を指差した。


 どうもありがとう、天使は礼を言うと、また、ふわふわと進んでいった。


 ベッコウとコーラルは天使(ヽヽ)の後ろ姿を呆気にとられて眺めていたが、やっとコーラルが口を開いた。


「なんだありゃ?」


「終末が近づいたのかもしれない」ベッコウが真顔で言った「世界の終わりを告げる時の魔女か何かよ」


 コーラルは時の魔女にあまり興味はなかったが、まあ、似たようなものかもとは思った。


 ベッコウ、コーラル、と、また2人を呼ぶ声がする。


 声のほうを振り向くとシノノメが息せき切って駆け込んできた。


「ここ、女の人が来ませんでしたか? 男性なら誰でも振り返って2度見するような人です」


「子どもでもガン見するのなら来た」


「歩く災厄みたいなの、白き魔女みたいなの」


「それ、どっち行った?」


 あっち、と指差したほうに再び駆け出そうとしたシノノメをコーラルが止めた「あれ、何?」


「ああ、ベッコウとコーラルにも説明しておいたほうがいいですね」シノノメは2人に向き直った「初美伯母さま、シノノメの母の従姉妹です」


「ああ、なる程」


「吉祥の最終(リーサル)兵器(ウェポン)か」


「まあ、そんなようなモノです」シノノメはコーラルの言葉に対してとくに否定はしなかった「それじゃ、シノノメはこれで」


 形式ばかりに頭を下げてハツミを追おうとするシノノメだが、またコーラルに止められる。


「素性はわかった。でも、そのハツミオバサマ(ヽヽヽヽヽヽヽ)とかいうのを何で追っかけてるんだ?」


「ユータのお母(パレアナ)さんとリリオンさんに顔合わせしておこうと思ってたんです。それが、いきなりいなくなるし、ただでさえ面倒な人なのに…」


「ユータの母ちゃん(パレアナ)もオレのママ上(リリオン)も、もう知ってると思うよ。2人ともめちゃくちゃ勘は鋭いからな。あんな危険物(ヽヽヽ)が現れたら真っ先に気づくさ。オレ(コーラル)だの眼鏡(ベッコウ)だのは鈍いから、会うまで気づかなかったけど」


「眼鏡のニブチンで悪うございましたわね」ベッコウが口をとがらせた「そういえば、あの(ひと)、ユータ探してたよ」


「何ですって?!」シノノメの顔貌が変わる「早く見つけなきゃ」


「おい、いくら何でも心配しすぎだろ。ユータはまだ子どもだぞ、少なくとも姿形は」


 コーラルの手を振り払ったシノノメは、鬼の形相で駆け出した「吉祥の女は、良い男なら、年齢なんか関係ありません。むしろ初美伯母さまなら大好物です」


「あーあ、行っちゃった」


「大丈夫かな? シノノメ」


「大丈夫って、何が?」


「ユータのこと」


「ああ、ユータか」コーラルは鼻をフンと鳴らした「ハツミオバサマの好みなんかしらないけど、少なくともユータはあの(ひと)になびいたりはしないよ」


「そうなの?」


「そうだ」コーラルは断言した「ハツミオバサマには母性がまったくない。吉祥でもめずらしいんじゃないのか? ああいう純粋に女々してるのは。そう言うのが良いっていう男もいるけど、少なくともユータはそうじゃない」


「パレアナさんか」


「そうだ。ユータの母ちゃん(パレアナ)が凄いから、母親に似たところがないとユータは惹かれないんだよな」


「ユータ、マザコンなの?」


「マザコンはいいぞぉ」コーラルは笑った「実の母親より良くなったら、もうどこにも行かないんだ。でもなあ、それだと圧倒的にシノノメが有利なんだよなあ」



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