コンビニでお買い物をしようその3
店は板葺きの一軒家で、昔でいう八間間口、正面が柱だけの作りで自由に出入りできる。
商品が少なめ、ということもあるのだが、棚は小ぶりで隣との距離もあるので、通路にあたる部分が広くてゆったり品物を見て回れる。
店主は右隅入り口にある二畳の畳敷きに床几を出して腰掛けている。浴衣の裾が悩ましいが、子供相手の商売ということであまり意味はなさげである。
店主のハツミさんの前には、両替表とあって、交換レートの書かれた布面がかかっている。
一分金 500円玉 10枚
500円玉 100円玉 5枚
100円玉 10円玉 10枚
釣り銭なし
一分金だけだと買い物がしにくいとのことだ。一分金5000円相当が貨幣価値として妥当かどうかはよくわからない。
店の隣にはテーブルが置いてあって、ベッコウが仕切っている。500円玉、100円玉、10円玉が堆く積み上げてあり、ご自由にどうぞ、との張り紙がある。
ビデオアニメの代金に一分金では少し足りなかった。もっと細かい貨幣もあったほうがいいということで、ベッコウが端金を作ったのだが、造りすぎた。やはり細かいお金もあったほうが楽しかろう、ということで皆に配ることにした。店に来る人は、ハツミさんに両替してもらったり、ベッコウから直接もらったりと思い思いにお金を工面した。ハツミさんは、しばらく店番をすると、お金がたまって邪魔なので、ベッコウのところにお金を持っていく。
ーーベッコウちゃん、居てくれて良かったわ。とても便利
そんなわけで、ベッコウのお金はなかなか減らなかった。
「お姉ちゃん、お疲れ様」
差し入れです、とチャオが皿いっぱいのお菓子を差し出す。ベッコウは赤い目のついた緑色のお菓子を食べた。
「美味しい」
「ルークチュップって言うんです。タイのお菓子です」
「こっちは?」
「トードマンプラーです。魚のすり身をあげたヤツです」
「ちょっと辛いな。でも美味しいよ」
「たくさん、食べて。なくなったら買ってくるから」
「うーん、もういいや」ベッコウは名残りおしそうに、お皿の上の食べ物を見る「ワタシ、お小遣い全部使っちゃったからさ。少年にかわりにあげるものないんだよ」
「お金たくさん、ありますよ?」
チャオは不思議そうに目の前に積まれた硬貨を見ている。
「ま、そうなんだけどね」ベッコウは悲しそうに言う「無駄遣いはあまり良くないと思うんだ。もうビデオアニメ、今週分買っちゃったから。来週入荷まで我慢する」
「そのアニメ見たいです」
「いいよ。子供部屋に帰ったら見よう」
「じゃあ、かわりにお姉ちゃんも、食べて」チャオは半分以上残っている皿をベッコウの前に差し出す「後でアニメ見るから、それと交換」
「いいの?」ベッコウの顔が、ぱぁぁ、っと明るくなった「じゃあ、これ貰うね」
ベッコウは黄色と青で色付けされたルークチュップを取った。チャオも、その隣りのルークチュップをつまみ上げて、頬張る。
チャオもとても嬉しかった。
「キャラメル買おうよ。キャラメル」
「勝手に買えよ。オレはプロテインバーのほうが良い」
「だってさ、この包み紙、猫が描いてあるんだよ。かわいいなあ。さっき買ったセロハンテープも猫ついてるんだよ。ほら、ほら」
「だから、買えばいいだろ? オレはプロテインバーとホエイドリンクにするから」
「帰ったら、猫のセロハンテープ、コーラルの机に貼ってあげるからさ」
「いらんし」
「遠慮しなくていいよ」
「遠慮なんかしてない」
コーラルがなかなか折れないので、アイボリーはふれふれと別の棚のほうに動いていった。アイボリーがいなくなった隙に、コーラルは手早く、コーン油とキャノーラ油を買い物袋に入れて、ハツミさんのところに持っていく。
「あら、両方買うの?」
「揚げ比べてみようかと…」
「ふーん」
アイボリーが近づいてくるのを見つけたコーラルは、慌てて500円玉を2枚、勘定机の上に投げ出して店を出る。
「ちょっとコーラルちゃん、多いよ、コレ」
「多かったら、あげるよ。それか、つけといて」
もう、とハツミさんは困り顔だ。ツケってお客の手持ちが少ないときのやり方で、多かったらツケにならないじゃない。
多い分はリョージさんに配達してもらおう、ハツミさんは思った。面白そうだから、オリーブ油と胡麻油もついでに持ってって貰おう。
あの娘、コロッケ以外にもいろいろ作ってあげればいいのに、などと、ハツミさんは自分のことは棚に上げて、要らぬお節介を思いつくのだった。
「どっちが良いと思いますか?」
シノノメは、首飾りを2つ指して、ユータに訊ねた。
「うーん、こっちかな」
ユータが一方を指差すと、シノノメは伏せ目がちに言う「やっぱり、そっちですかね」
「不満なの?」
「不満、と言うほどではないんですけどね」シノノメはまるで他人事みたいだ「出来は確かにこちらのほうがよろしいんですけど…。作者さんもその気はなかったと思うんですけどね。これ、呪いに使うのにすごく向いてる形になっちゃってるんです」
「え?」
「あ、別にね。呪わなければどうということはないんですよ。こっちのほうが綺麗ですしね。モノも良いわけです」
どうしようかなあ、などとシノノメは思案しているのだが、隣りにいるユータは気が気ではない。
気にしなければいいんですよね、言いながら、シノノメは呪い向きのほうの首飾りを手に取った。
一分金を渡したシノノメに、店主は、包みます? と訊いてきた。
「いえ、そのままで」
そう言うと、シノノメは首飾りを、すぽん、とユータの頭の上からくぐらせて首に掛けた。
「え? え? え?」
ユータは突然のことに狼狽えたが、シノノメは涼やかな目でユータに見惚れている。
「コレって、ボクが着けるの?」
「そうですよ。とっても似合ってます」
「でも、いま、呪いって…」
「気にしなければ大丈夫ですよ」シノノメは微笑う「それとも、何かシノノメに呪われるようなこと、するつもりですか?」
「そんなこと、しないけどさあ」
じゃあ、よろしいじゃありませんか、そう言ってシノノメはユータの腕に自分の腕を絡めて、ユータを引きずるようにしてコンビニを出た。
あーあ、とハツミさんはため息を漏らす。さすが最後の吉祥、手練れだわ。それにしても、自分でやるときは気づかないけど、はたから見たら、あんなに恐ろしいものなのね。
マルがやってきたのは夕暮れ時だった。コンビニに入ると、くまなく棚の品物をチェックしていく。
「ガムボールマシンならここにあるわよ」心配してハツミが声をかけると、マルは振り向いた。
「丸くて色とりどりのがたくさん、っていうからガムボールマシンだと思ったんだ。でも、大きさが不揃いで、光ってるっていうから…、違うみたい」
「それって、誰の注文なの?」
ハツミの問いにマルは首を振る。
「わからない。目標にできるものが欲しいんだって、今はもう無いけど今あるものを目標にしないと来れないんだって」
ーーそれって物の怪が顕現するときの常套手段じゃない
それで、いちばん小さいマルに声かけてるんだ、とハツミは看破したものの、最近、怪異の類もあまり呼んでないし、たまには良いかな、などと吉祥らしい発想で、マルを手伝うことにした。
「このお店でいちばんそれに近いもの、なあに?」
マルは走って店の真ん中に行くと、棚の模型を指差した。ビルが作った土星の衛星タイタンの模型。
もう太陽系には無いから模型から外した、とビルが言っていた。欲しい人がいたら譲ってあげて、とも言っていた。
「でも、それじゃないのね」
マルはタイタンの模型を指したまま、黙って頷く。
ハツミはマルの手をとった。
「それ創ったのビルなの」ハツミは言った「ビルのところに行きましょう。何が必要なのか、きっとビルなら答えられる」




