デザイナーズチルドレン
「デザイナーズチルドレン、って何ですか?」
チャオが訊く。
「ベッコウとコーラルとアイボリーだよ」
ユータが答える。
「どうしてその3人をデザイナーズチルドレンって言うんですか?」
「お父さんが造ったからだよ。デザイナーズチルドレンはボクの友だちとしてお父さんが造った。お父さんは設計者だから、デザイナーの子どもだから、デザイナーズチルドレン」
「ユータさんもデザイナーズチルドレン?」
「違うよ」
「どうして?」
「ボクはお父さんとお母さんの子どもだもの。お母さんはデザイナーズチルドレンの製作には関わってない」
「ふーん、すこし難しいけど、後でよく考えてみます。それじゃ、王子さま…じゃなかった。ジャックさんはデザイナーズチルドレンですか?」
「そこのところ微妙なんだけどね」ユータはちょっと考えているみたいだった「デザイナーズチルドレンの遺伝情報の中で部分的に理解できたところを抜き出して地球人の改良を試みた、っていう感じかな。ベルンシュタイン教授が主導した」
「何で完全なデザイナーズチルドレンを作らなかったの?」
「当時、アレシボリプライの地球での解析があまり進んでなかったからだよ。今も進んでないみたいだけど」
「よくわからないけど、なんとなく凄そうだから、わかりそうなところだけやってみたんですか?」
「そうだね」
「ずいぶん適当なんですね」
「やったのはボクじゃないからね」
「ジャックさん、かわいそうです」
「そうだね。まあ、でも、かわいそうなのはジャックだけじゃないから…」
「ユータさんは何でもできるんですよね」
「何でもできるかどうかはわからない。やろうと思ってできなかったことはない」
「自分で友だちつくろうとは思わなかったんですか?」
「友だちをつくる?」
「ええ、たとえば、お父さんみたいに」
「お父さんも自分の友だちは造ってない。ボクの友だちを造っただけだよ」
「なるほど、そうですね」
「自分の友だち、自分で造ったりしたら、なんかお互いに気まずくない?」
ーー友だちをつくる、ってユータさんだと普通の話からすこしずれちゃうんだなぁ
チャオは変なところに感心している。ユータは薄々感づいてはいたが、とくに正さず、そのままにした。
「お姉ちゃん」
「おお、少年どうした?」
「質問があるんだけど」
「何でも訊いてみな、答えてやろう」
ベッコウは、チャオにだけ何故か偉そうだ。実際、偉いのだし、チャオにとってこの件はとくに不満はない…
「お姉ちゃんは、他の生きものになったりしないの?」
「ああ、それね」ベッコウは言う「なんか流行ってるみたいだし、興味はあるんだけど、ちょっと問題があって…」
ベッコウは自分の眼を指差した。
「この眼の性能が良すぎてさ。簡単には造れないんだ」
ああ、なるほど…
「その眼、どれぐらいのものが見えるの?」
「波長短いほうはγ線領域、長いほうはけっこう見える。ミリ波以上はフーリエ積分が必要だから、まばたきしないでまぶた開けっぱなしにしないといけないからたいへんだけど」
「思ってたよりずっと見えるんだね」
「そう…、この眼を移植すると大抵の生きものはバランス悪くなるからなぁ」
「よかった…、じゃ、お姉ちゃんは可愛いままなんだ」
「なんか言った?」
何でもないです、チャオは慌てて首を振った。
「コーラルさん」
「ん? …チャオか、何か用?」
「シャチになるのやめちゃったんですか?」
あ、それな、コーラルは何か考えている風だったが、急にいたずらっ子の顔で笑う。
はい、握手、と差し出されたコーラルの手をチャオが無造作に握り返すと…
どんなかんじかな
あ、やっぱり
だよな、おびえてる
かわいいな、チャオ
ふつうはそんなかおになる
てか、そんなおびえんなよ
ユータとかシノノメとか、そこまでイヤなカオしない
アイムのやろーはかえっておもしろがるんだよ
いけすかない
ベッコウは
はんのうがうすい
あまりくっつかないのもあるけど
チャオ?
そろそろ、げんかいか?
手から伝わってくる意識の奔流に、驚いてチャオは手を振りほどいた。
「うん、まあ、そんな感じなんだ。オレがシャチのときは今の逆が起こってる」
コーラルはまだ笑っている。純粋に期待通りの反応なので面白かったみたいだ。
「オレは筋肉と運動神経でも思考伝達ができるから。カッコよく言えば、触れるだけでわかり合える。まあ、普通は気味悪いよなぁ。で、海中だとさ、ここの海の水は塩辛くなくて、ようするに電解質濃度低めだけど、それでも微弱電流が通るんだ。だから海の生きもの全部の思考が流れ込んできて、ちょっと煩い。シャチになってから気がついた」
不安そうな視線を向けるチャオ。それがまたコーラルには面白いらしく、また笑う。
「そんな顔すんなって、空気は電気通りにくいから、触れてなければ、こっちの意識も流せないし、オレにはチャオの考えもわからない」
「オレには?」
「そう、オレはね」
アニキ、
呼んではみたものの、なんとも落ち着かない。
ベッコウのことをお姉ちゃん、と呼んでいるのがバレて、アイボリーが、アイムのことはアニキと呼べと言うのだ。
お兄ちゃん、じゃダメ? とチャオはきいてみたが、ダメなんだそうだ。アニキって呼ばなきゃ、泣いちゃう、とか言う。
ーーめんどくさい
「あれぇ、どうした、チャオ。この髪、気になる?」
もちろん、コーラルと話してから、チャオの頭の中はアイボリーの髪の毛のことでいっぱいだ。アイボリーの髪の毛、もとは拡張イジングモデル計算機オールインワンと10万本の超高帯域で接続されていた。ユータとシノノメに切り離された後は、脳直結10万本の高性能アンテナになっている。普段はやらないが、アイボリーがその気になれば、他人の脳内微弱電流を読み取って、何を考えているかがわかる。
「うん、ようは、そういうこと」チャオの頭の中身を確認したアイボリーが言う。頭の中でアニキと思ってなかったことは黙認してあげた。
「アニキが別の生きものにならないのは、その髪のせい?」
うん? とアイボリーはヘンな顔をする「違うよ、…っていうか、なるほど、チャオはそのへんのこと、良く知らないか」
説明しよう、アイボリーが言う。
「オールインワン、ているでしょ」
「あのゾウの?」
「そう、あのヘンなゾウの」
ヘンなは、余計じゃない? チャオはオールインワンに同情した。
「オールインワンはヒスパニオラの艦長だ。運行計画は別の人が組み立てることもあるけど、実際にヒスパニオラ星系の時空間移動を司どってんのはオールインワン」
ここでアイボリーは何故かクスリと笑う。
「本人も頑張ってるし、それはそれで良いんだけどさ。ときどきハメ外していろいろやるわけ、わかる?」
「クジラとか?」
「そうクジラ」
「宇宙クジラ」
「ようするに、艦長やってんだけど、普通のデジタルコンピューターと違って、拡張イジングモデルコンピューターだからさ、働きづめにするわけにはいかない。休養と自分の時間が必要。だから、アイムがときどき替わってあげてんだよ。もともと同じようなものだし…」
「え? アニキ、この星、動かせるの?」
「うん、そーだよ。すこし尊敬した?」
「尊敬なら、ずっと前からしてる…、それで? それって、どういうことなの?」
「うーん、だからさ、わからないかな」アイボリーはなかなかチャオに伝わらないので困ったが、よく考えてみれば、チャオはまだ5歳だ。こういうのは年齢を重ねないと難しいのかもしれない。それでもアイボリーは弟分に説明しようと頑張った。
「やっぱり、星みたいなものになっちゃうとさ。いまさら、動物とか、そういう細かいのになろうとはなかなか思わないんだ。オールインワンは嬉々としていろいろなモノになってるけどさ。あの感覚は、アイムにはよくわかんないな」




