表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光速の恋人たち ーー 宇宙大回転マッハシステム  作者: 二月三月
木土天海クアオアー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/33

パサンイグザミネーション


 呼び鈴が鳴ったのでコマチが出ると、比較的珍しい人たちが戸口に立っていた。


「こんにちは、アーノルド・ビザンツです。こっちは、メリル・キャンティーン」


 こっち(ヽヽヽ)と言われた女性は、ビザンツ氏の後ろにサッと隠れた。この星(ヒスパニオラ)ではめずらしい(ヽヽヽヽヽ)タイプだ。人見知りするのだろう。


 きょ…、違った。博士いますか? と男のほうが言うので。コマチは、はかせ〜、と呼ばわりながら部屋の奥に消えた。


「よう、アル、なんか用か?」


「ちょっと博士(ドゥーマ)に訊きたいことがあって」ガラにもなくアルは誤魔化し笑いを浮かべた「超空間(ハイパースペース)について2、3…」


「ユータに訊きゃいいだろ?」


「あの、その…、ちょっと彼の話しは難しすぎて、博士ぐらいがボクにはちょうどいいんで…」


「失礼なヤツだな」


 テーブルにコマチがティーカップを4つ置く、それぞれのカップには赤いゼリーの皿がひとつずつついている。


 なんだろう?


 普通なら、何のゼリーですか? と訊ね、そこから話題がひろがる。普段ならそうする。けれど、緊張しきったメリルには、そのなんですか(ヽヽヽヽヽ)が口から出てこない。


 メリルは固まったまま、目の前のティーカップとその中身の紅茶を凝視していた。


「もう超空間(ハイパースペース)跳躍(ジャンプ)は数回こなしたわけですが」アルはメリルのことは特に気にかける様子がない「初回の極短距離跳躍(ジャンプ)がいちばんエネルギーを喰っているのは、何故です?」


「短距離の上に重力ポテンシャルが平坦ではない。だから空間曲率の実部(リアルパート)がとんでもなくデカくなってるんだ。まあ、高負荷試験も兼ねてるってとこもあるけどな」


「最初から不思議に思ってたんですけどね。ティティウス・ボーデの法則がまだ有効な天王星手前で何度も跳躍(ジャンプ)してるのは何故です?」


「太陽の引力圏内は、とても平坦(フラット)と言えるような空間構造をしていない。別の言い方をするとだな。太陽系ってのは標準の宇宙空間よりはるかに物質密度が濃い。空間曲率をいじる場合には良い環境とは言えないんだ」


「それは知ってます。だから、どうして、こんな例外的な環境なのに頻繁に試験飛行(テストフライト)するんです?」


「こんな環境、太陽系から出たらめったにないんだから、今のうちにデータ取っとくしかないだろう」


 メリルは教授(はかせ)助手(アル)の話しを上の空で聴いていた。そう言えば、大学(むかし)はこんなことがよくあった気がする。


「メリル、さんは博士(ドゥーマ)の教え子さんの中で、いちばん出来が良かったそうですね」


 メリルは驚いた。そもそもコマチに話しかけられたことにビックリしたし、その内容がまた突拍子もなかったからだ。


「待ってくださいよ」メリルは、さっきまでのおよび腰(ヽヽヽヽ)はどこへやら、場もわきまえずに叫んだ「あたし、教授の単位、1個も取れてないんですよ」


「あら、だって…」コマチは困って博士(ドゥーマ)の顔を見る「そう言ってたよね、あんた。メリルって子はずば抜けて優秀だった。だから、ここ(ヒスパニオラ)に来たって」


「ああ、そうだけど…」


 博士の肯定を見たメリルはイキった。


「だったらぁ、単位くれたって良かったじゃない?」


「俺は学生に単位出したことなんか1度もねぇよ」


「あぁん?」


「あ、それは本当」横からアルが口を出した「ボクも貰ってない」


准教授(せんせい)も?」メリルは教授(アッシャー)准教授(ビザンツ)を交互ににらむ「何でそんな大事なこと黙ってたの?」


「他人が何の単位取ってたっておまえ(メリル)には関係ないだろ。大事なこと、ってのはおまえが単位取れてるかどうかだ」


 破裂寸前のメリルだったが、言葉にする前に横槍が入った。


「オマエ…、また、そうやって…」コマチがじっとりした目で博士(ドゥーマ)を睨めつける「何度も言ってるだろうが、オマエが何考えてるかなんて、普通の人間にはわからないんだ。ちゃんと口に出して説明しろ、って、何度も、何度も、なんども(ヽヽヽヽ)


 コマチのあまりの剣幕にメリルが悪態を引っ込めると、それに乗じたのかどうか、博士が苦しまぎれに(つぶや)く。


「ユータは、べつに、何も説明しなくてもわかるし…」


「そんな、例外中の例外を出して反論するな、見苦しい」


「例外でも、ひとつ(ヽヽヽ)存在してれば理論として成り立つ」


「まだ言うか。そんな理論、クソ喰らえだと言ってるんだ」


ーーなるほど、教授(アッシャー)って、こうやってやり込めれば良かったんだ


 こりゃあ、勝てないや、メリルはいまさらながら(ヽヽヽヽヽヽヽ)にコマチの凄さを思い知った。




「なかなかに有意義な時間を過ごせた」


 ドゥーマとコマチの個室(コンパートメント)を辞した帰り道、アルがメリルに言った。


「そうか? スイカのゼリーは美味しかったけど、あと紅茶も美味しかった」


「それで充分だろう」


教授(アッシャー)がアタシのこと褒めてたって、何で言ってくれなかったんだ?」


「普通わからないか? 研究室のモノみんな持っていっていい、なんて、よっぽど気に入ってる奴にしか言わないだろ?」


「ガラクタばっかりだから、片付けるの面倒なんだ、と思ったんだよ」


 そんなわけがない、アルは笑った。


「博士は、アタシが優秀だから、ここ(ヒスパニオラ)に来れたって言ってた。でも、アタシは何もしてない。連れて来てもらっただけなんだ」


 そんなことはない、アルはメリルに言った。


「持っていったがらくた(ヽヽヽヽ)の中に環境加速装置があっただろう。(キミ)はアレを大型化して中に入って実証した」


「ティナがお金をくれた。あと技術者(エンジニア)も貸してくれた」そう(つぶや)いてから、メリルはハッとして、アルに目を向けた「何で知ってるの?」


「リョージさんが一連の出来事をファイルにまとめてくれていた」アルは答えた「リョージさんの部下だった人からもらったんだ。それを読んだ」


「環境加速装置っていうのか、アレ」


「名前はどうでもいいんだ。アレは周囲に亜空間(スュードスペース)球面(スフェア)を発生させて内と外とを分離する。シンタグマメソドロジーの原初的な形態だ」


「そんなこと知らなかったし」


「知ってるかどうかはたいした問題じゃない。アレは亜空間(スュードスペース)を理解してないと動作させられない」


「それはそうだけど…」


亜空間(スュードスペース)ってのは不思議(おかし)な空間でね」アルは屈託の無い笑みを浮かべて話しを続ける「ソレ(ヽヽ)を理解できたものにしか通過できないんだ。(キミ)はアノ装置を組み上げて中に入り、それだけでは何の役にも立たないことに気づいた。だからこそ、月見台(ムーンゲイザー)に行けたってわけ(ヽヽ)


「そう言われても、何だかよくわからないよ」


「そうだな…、じゃあ、言い換えてみよう。アレは卒業試験だった」


「卒業試験?」


「単位取得の試験と言っても良い。(キミ)通過(パス)したからヒスパニオラ(ここ)にいる。教授(アッシャー)が自慢げに言ってたのはそういうことだ」


「単位出したことないって威張ってたのに?」


教授(アッシャー)は出してないだろ。(メリル)が勝手に卒業(パス)しただけ」


「なんか腹立つわぁ」


 メリルはほっぺを膨らませた。それがアルの琴線に触れたのか、アルは腹を抱えて笑い出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ