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光速の恋人たち ーー 宇宙大回転マッハシステム  作者: 二月三月
木土天海クアオアー

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31/33

ドクトラルカウンセラー


「調子はどう?」


「絶好調です」チャオは満面の笑みで答えた。


 保健室、というのがなんだかよくわからなかったのだが、こうして来てみると、病院みたいだ。地球にいたとき時々行っていた。保健室というのは毎日来る病院みたいなものだろう、とチャオは考えた。


 それは結構、コマチ先生が言った。


「あとね。そのサークレット外してね」


「どうしてです?」


「あなたの治療用に低濃度放射線が出てるの。そういう施術はもうこっち(ヽヽヽ)でするから、必要ない」


「でも…」


 しりごみするチャオを無視して、コマチ先生は、さっとチャオの頭からサークレットを取り外した。


「あ」


「ちょっと借りるよ」


 コマチ先生は奥の部屋に入ってしまった。チャオが途方にくれていると、しばらくしてまた保健室に戻ってきた。


「はい、普通のコランダム結晶と取り替えてきた。若干色目が違うけど我慢して」


 コマチ先生は手早くチャオの頭にサークレットを付け直す。


「あと、通信装置と生体監視装置(バイタルモニター)も外した」


「はあ…」


「もうユータくんとは直接話せるから必要ないでしょ。それとチャオくんも毎日保健室に来てね」


 はいっ、とチャオは元気よく返事した。




「はい、マルちゃん、あーん、して」


 マルは口を開けずに、んー、と顔突き出す。


 ほっ、と目を細めたコマチ先生は、いきなりマルのワキ腹を両手でくすぐり出した。ゲゲゲッと身をよじって笑い出すマル。抱えているベッコウはマルが落ちないように全力で押さえ込んだ。


「はい、下の前歯確認」コマチ先生はくすぐる手を止め、そのままマルをベッコウから取り上げる「上はまだだな。歯固めあげるから、マルちゃんに握らせといてね」


「歯固め、ですか?」


「そう、これ」コマチ先生は小さなビー玉ぐらいのゴム製ボールが円形に連なった玩具をベッコウに渡す「歯が生えてくるとむずがゆい(ヽヽヽヽヽ)からね。これ渡すと赤ん坊が自分で噛むから」


「へええ」


 ベッコウは人差し指をマルの口に入れようとした。


「やめときな」コマチ先生はベッコウの手をやんわりとはらう「衛生上良くないし、赤んぼうの噛む力を甘くみちゃいけない」


 ハッとして、ベッコウは手を引っ込めた。マルは嬉しそうにギャギャッと笑う。


「あ、それとね、ベッコウちゃん」コマチ先生が思い出したみたいに言う「最近、眼鏡外してること多いみたいだけど、全スペクトラム視認は、まだ脳に負担がかかりすぎるから、ほどほどにね」


「え…、でも…」


ほどほどにね(ヽヽヽヽヽヽ)


 はーい、とベッコウは小さく返事した。





 「はい、診察終わり」コマチ先生は言った「何か訊きたいこととかある?」


「おっぱい、っていつ頃からデカくなんの?」


「個人差あるからなあ」コマチ先生はコーラルの胸元をのぞいた「まだあせるような年齢(とし)でもないでしょ」


「オレがいちばん小さいんだが?」


「ベッコウちゃんとシノノメちゃんでしょ? ああいう()たちとくらべてもいいことないよ」


ウエイト(トレーニング)やめたのに、ぜんぜんデカくならない」


ーーそれで、やめたのか


「そういうもんじゃないからね」


「どういうもんなのさ?」


「赤ちゃんできたら、自然に大きくなる」


「その前に恋人(おとこ)捕まえなきゃなんないだろ? オッパイないのは明らかに不利だ。順序がおかしい」


「アイボリーくんも、ユータくんも、そんなにオッパイオッパイ言わないでしょうが」


アイム(ヽヽヽ)なんてコロッケ喰わせとけばいいだけだし、ユータはシノノメしか目に入んないし…」


「じゃあ、別にいいじゃん、ちっちゃくても」


「新規が突然現れるかもしれないだろ?」


「アイボリーくん、いるじゃん」


「アレはいいよ、べつに」


 べつに(ヽヽヽ)とソッポを向いたコーラルに、素直じゃないなあ、とコマチ先生も辟易した。




「ネコになってる時もちゃんと来てね」


「誰かが来てるハズです」


「そうじゃなくてさあ。シノノメちゃんに用があるんだから、シノノメちゃんの中の人(ヽヽヽ)とか管轄外だから、ちゃんと(ヽヽヽヽ)シノノメちゃんが来て。カヨさんとは別のところで話すから」


「善処します」


「ボディケアもするにはするけどさ。保健医は、どっちかっていうと、メンタルケアのほうが大事なんだから」


「…と、いうことは、サイアミーズ(青シャム猫)のボディメンテナンスもしていただけるのですか?」


「しないよ、そんなめんどくさいこと」


「…けち」


「なんか言った?」


「いえ…、何にも…」


「そもそもシノノメちゃんはね。あ、これユータくんもだけど、もうボディ勝手に作れるんだから、生物学的にはとくに先生がケアするところはないの。調子悪かったら自分で修理すればいいんだからね。大事なのは精神的な発達阻害があるかどうかで…」


「それはあります。精神阻害、はっきり、人としてダメです。吉祥が代々つちかってきたものです。もう千年以上だから、諦めてるから、いいです」


「あのぉ、いきなり話、重くなってるんだけど…」


「重くても軽くても、ダメなものはダメです」


「シノノメちゃん、そんなこと言うもんじゃないよ。悪いとわかってたら治していけばいいんだよ」


(シルベ)は、どう思います? あれ、治ると思いますか?」


「いきなり極端な例を出すな」


「でも、シノノメはその極端(シルベ)の娘ですよ。何もかも手遅れです」


「でもさ、シノノメちゃん、まだ若いんだし、ああなる前に手を尽くしてみるのって、アリなんでは?」


「いいんですよ。性格なんか破綻してたって、精神が(いびつ)でもしあわせ(ヽヽヽヽ)になる方法なんていくらでもあります」


「あの、それは、ちょっと…」


「シノノメにはユータがいるから大丈夫です」


「いや、それは、その通りなんだけどさ。なんか違うくない? 何が違うかわかんないけどもさ」


「ユータさえ確保しておけば、シノノメは安泰です」


「あんまりこういうことは言いたくないんだけど…、シノノメちゃんはそれでいいとして、ユータくんはどう(ヽヽ)なわけ?」


「それは…、我慢してもらうしかないです」


「我慢なの…」


「シノノメは、シノノメなので、ユータには我慢してもらうよりないです」


「どうしてそういう方向になるかなあ。なんかこう、ユータくんが好きになるような素敵な()になってみよう、とか?」


「シノノメは素敵ではないです。顔もヒラメだし」


ーーまたヒラメ、ヒラメって、そもそも何?


「先生はシノノメちゃんの顔好きだけどな」


「ヒラメ好きなんですか?」


「そうじゃなくて、ユータくんの好みの顔かもしれないじゃない」


「ユータは顔貌で人を区別したりしませんよ。シノノメがネコでもいつもとかわりなく相手してくれますし」


「いや、そりゃ、ネコが相手なら普通に可愛がるでしょうよ」


「ユータ、ネコ好きなのかな?」


「嫌いではないと思うけど…」


「じゃあ、これから、ずっとネコでいよう。そのほうが良さそう」


「だから違う、ってば、そういうことじゃないでしょ」


「何が違うんです?」


「だからぁ、そりゃ、いまはいいかもだけど、みんな大きくなるじゃない、シノノメちゃんもユータくんも、それで子どもとか…、そう、赤ちゃん、そういうこと考えたらネコじゃマズいでしょう?」


「子ネコかわいいですよ?」


「ネコじゃなくて、マルちゃん、シノノメちゃんだってマルちゃんかわいいと思うでしょ? 赤ちゃんかわいいでしょ?」


「まあ、それなりに…」


「だったら、ネコじゃダメでしょう? ね、かわいい女の子になろうよ」


「ふうん、まあ、考えてみます。…今日はありがとうございました」




 博士(ドゥーマ)と一緒にスイカ畑の見回りをしている。今日はお休みなので学校はない。コマチ先生は最近すこし疲れてるかもなどと考えている。


「スイカって、もっと大きなもんだと思ってた」


「小玉スイカだもん。おっきいのは重いから収穫とか大変だし」


「へええ、いろんなスイカがあるんだな」


 コマチ先生が、ふと顔をあげると、畑のあぜ道を金色の豹がてくてく歩いていく。もう慣れてしまったので、驚くほどのことではないが、今日は何かが違う。


 青く毛並みの豊かな豹が、シナでもつくるように、金の豹に擦り寄っている。金豹は迷惑とまではいかないが明らかに浮かぬ顔で、それでも青豹のなすがままにさせていた。


ーーああ、もう、だめじゃん、そういうんじゃないんよ


 コマチ先生の頭の中に、何もかも手遅れです、というシノノメの声がこだま(ヽヽヽ)した。



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