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光速の恋人たち ーー 宇宙大回転マッハシステム  作者: 二月三月
水金地火帯点

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12/15

青猫と金豹


 思いの(ほか)上手に(うまく)できた。


 シノノメは目の前のネコをうっとりと見つめる。


 サイアミーズ(シャム猫)をベースにしたのだが、青い。実はシノノメはネコのことをよく知らない。ビジョンで見たことがあるだけだ。吉祥の敷地内にはネコはいなかったし、シノノメが敷地の外に出ることはなかったから。


 だから本当のネコがどんなものなのか、シノノメは知らない。そんなわけで色はシノノメの好きな青にした。


 こんな複雑なものを作るのはシノノメは初めてだった。ユータのすることを見ていたから、なんとかなるだろうと思って始めたが、ひとりではちょっと無理だった。工場長に頼もうかと思ったのだが、それだとユータに知れてしまう。別に知られたってかまいはしないのだが、なんとなく嫌だ。父に頼むのは母に知られるから嫌だ。こっちは本当に嫌だ。というわけで、ハツミ伯母様のご主人に手伝ってもらった。秘密にしていただきたいのです、と言ったら、はい秘密にします、と言っていたので、たぶん大丈夫だ。


 トッペンも悪くはなかった。足は早いし、軽いからどこにでも行ける。蝶々を追いかけるのは楽しかった。でも…


 樫の大木を見つけて登ろうとしたのだ。でも、トッペンの足だとつるつる滑る。幹が登れない。枝にでも取りつけばと思ったが、直接枝に飛び移れるほどの跳躍力はトッペンにはなかった。


 だから、ネコが必要だ。爪がある。


 シノノメは周囲に意識を飛ばし、再びネコの中に結実させる。もとの身体のほうは吉祥ズ(ヽヽヽ)がなんとかするだろう。


 青い猫は、右の前足を上げ、ひっくり返した。肉球の間から鋭い爪が、ニュッと出る。


ーーこれで良し


 青猫は軽々と部屋を跳躍して窓を越え、草原へと駆け出していった。




 恐ろしいことになった。


 いま、青猫(ブルーキャット)は楡の小枝の先で震えている。


 外に出てすぐ楡の大木に向かった。満を持して幹に飛ぶと、ガシッと前足の爪が樹皮にくいこむ。さすがネコの爪。そこから伸びて一番低い枝まで行くと後はあっという間だった。すぐ上の枝に飛び移るのは容易で、息を吐く暇も惜しいほどに、ぴょんぴょんと枝を移って登っていった。最初、楡は枝も太く、青猫程度が乗り移ってもびく(ヽヽ)ともしなかったのだが、枝が細るにつれ少しずつたわむようになった。それでも青猫は登るのに夢中で、ずっと、上の枝しか見ていなかった。


 見ていなかったのである。


 下を


 てっぺんまではまだあるが、飛び移った枝がネコの荷重に耐えかねてゆわん(ヽヽヽ)としなったときである。


 シノノメはハッとして移ったばかりの枝にしがみついた。


 そして、見てしまった。


 楡の大木の根元は遥か下に霞む。


 もちろん地面もだ。


 シノノメは身を固くし、なおさら強く枝にしがみついた。


 普段のシノノメなら別にどうということは無い。亜空間(スュードスペース)を使えば良いのだ。それで帰れる。


 でも、


 ネコのシノノメはそういうわけにもいかない。そもそも亜空間(スュードスペース)走破用の補助装置コンピューターアシストを身につけていない。おまけにユータもいない。だいたい木に登る程度で普通は宇宙服なんか着ないのだ。


 シノノメは、そーっと前足を下の枝にかかりそうなところに伸ばした。ぜんぜん届かない。前のめりになったので、細い枝がたわむ。あわてて手を引っ込めると反動で枝が戻り、大きく枝が揺れ、幹のほうまで揺れた。


 シノノメは必死で枝にしがみついた。


 落ちたらどうなる?


 シノノメは(もと)カラダ(ヽヽヽ)に戻るだけ。でも、青い猫(サイアミーズ)はそのまま落ちて地面に激突してぺしゃんこ(ヽヽヽヽヽ)だ。


ーーこんなにかわいいのに、がんばって作ったのに


ーーもったいない


 シノノメの身体が宙を飛んだ。


 シノノメが飛んだのではない。


 首の後ろをつかまれて、枝から引き剥がされたのだ。


 首からぶら下げられた格好のシノノメは、ゆっくりと飛翔している。事情がわからないシノノメは手足をバタつかせた。首の後ろをつかんでいるものの締め付けが、ぎゅっと強くなった。


 ペシン、と暴れるシノノメの前足が叩かれる。


 金色の、しなやかで大きなネコの手。


 シノノメは上を見ようともがいたが、首ねっこを押さえられているので頭を上げられない。暴れるたびに前足を叩かれるので、シノノメもあきらめておとなしくなった。


 安心したのか、両の手、2本の金色の前脚が大きく前に伸びる。


 着地の瞬間、金色に輝く足は地面をしっかりとつかみ、そのままシノノメを抱えるようにして前転した。


 金色のお腹をクッションに地面に降りたので、シノノメはびっくりした以外にはこれといったケガはなかった。


 地面におりたシノノメは、あわてて飛び退く。


 金色の獣は何ごともなかったかのように立ち上がった。


 ネコ?


 いや、とても大きい。


 金色の豹だ。


 金の豹は近づくと、舌を出して青猫の鼻を舐めた。くすぐったい、と青猫は思った。


 青猫も金豹の頬に鼻先を埋めて匂いを嗅いだ。不思議な匂いがした。


 金の豹が頭を下げ、伸びをするように胸を地面につけた。前脚で、トントンと青猫の背中を優しく叩く。


 おっかなびっくり、足を伸ばした青猫は、金豹の背に乗ってみた。豹の首の後ろに自分の鼻先を埋め、しっかりと前足を豹の首に巻きつけた。


 青猫をおんぶ(ヽヽヽ)した金豹はゆっくりと歩き出す。


 金豹の背中から見る世界は、猫になる前にみたシノノメの世界とほとんど同じ高さで動く。それぐらい豹は大きかった。金豹の背中はしなやかで、乗り心地も良かったから、そのままでも特に悪いことはなかったのだが、豹はとても速く走る、と聞いたことがある。青猫は金豹の耳元で、えるるるぅ、と囁いてみた。


 金の豹の四肢が、歩法を変えてゆったりと伸びる。徐々に脚の運びが速くなり、それにつれて肩が上下に動き出した。


 スピードが上がり、上下の動きが激しくなる。青猫は振り落とされないよう、豹の首に絡みついた。


 豹の走る先に灌木が見える。驚いた青猫は金切り声をあげたが、豹は意に介さず、ますます速度を上げていく。


 ぶつかる、っと猫が豹の首の毛に自分の頭を突っ込んだ瞬間、ひらりと豹が灌木を跳び越えた。


 跳ぶんなら先に言って、猫は豹の耳に、あうる、あうる、と苦情を並べたが、豹はお構いなしに草原を疾走していく。


 素晴らしい速さで草原を滑るように走る豹、じっとしがみついていた猫は、もう手の力が尽きてきて、どうかすると豹の背中から落ちそうになる。


ーーでも、楽しい


 豹はまだ走り足りないようだったが、猫のほうがもう無理みたいだった。木陰に寄って猫を下ろすと、自分も寝そべる。猫は疲れ果て、よたよたと豹に近寄ると、そのまま豹の傍にくっついた。


 良い匂いがした。


 そのまま青猫はすうっと、引き込まれるように眠りに落ちた。




「どうかした? あまり食べたくない?」


 ぼーっとしているシノノメに、ユータが訊ねた。今日はお母さん(パレアナ)が忙しかったから、夕飯はユータが作った。ハンバーグは好評で、他のみんながおかわりしているから味は大丈夫だと思うのだが、シノノメは半分も食べていない。


「いえ、そういうわけでは…、食べます、食べます」


 あわてたシノノメはフォークを取り落としてしまった。しゃがんで取ろうとしたシノノメより先に、ユータがフォークをつかんだ。


「はい、こっち。新しいの使って」ユータが拾ったのとは別のフォークを差し出した「こっちは洗っておくから」


「あ、ありがとう」


 ユータが落ちた方のフォークを持って行ってしまったので、シノノメは気を取り直してハンバーグにナイフとフォークを向けたが、やはりあのこと(ヽヽヽヽ)が気になってしまう。


 あのあと、目を覚ましたら楡の木の根元にいた。金色の豹はいなかった。


 夢だった? いや、そんなことはない。


 目が覚めた青猫(シノノメ)は、自分の前足を裏返して見たのだ。


 青猫の爪に数本の金色の毛が絡まっていた。


 だから、あれは、ぜったいに夢なんかではない。



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