ポイントの新しいボディについて、ヒスパニオラbの始動
10歳ぐらいの男の子の像を前に、ユータは腕組みをして難しい顔している。像というのはあまり相応しくないかもしれない。それは人間の体そのものに見えたが、いわゆる魂がこもっていない。
ユータは難しい顔のまま、かたわらのトッペンに訊ねた。
「どう思う? キミの意見は?」
「素敵だよ。とっても良い感じだ」トッペンの中にいる何者かが答えた。
「ダメです」シノノメが口をはさむ。このままだとこれで決まってしまうと思ったのだ。それは良くない「ユータに似すぎてます。もっと他の顔にして。これじゃ、シノノメが間違えてしまいます」
ユータとトッペンの中のものは顔を見合わせる。
ーーそんな似てるか?
「だってさ。どうする?」トッペンがトッペンではない声で言った。
「そうだなあ。アイボリーにもう少し似せてみるか」
「アイボリー?」
「キミがこの間、入ってた子だよ」
「そうそう、アイムだよ」アイボリーが楽しそうに言う「なんならアイムそっくりにしてみる? 双子の兄弟ってなんか憧れるんだよね」
「こんな感じかな」目の前の人型の髪が伸びて、肩にすれすれ付くぐらいになった。眉も細くなる。鼻がほんの少し盛り上がった。
「えー、あんまりアイムに似てないんですけどー」
「あ、いい、いい、それぐらいがいい。それならユータと間違えない」
どうも外野の意見が多すぎる。当の本人はわりとどうでも良いみたいだ。がくん、とトッペンから力が抜けて突っ伏すと、目の前の子がうっすら微笑む。
「じゃ、当面はこれでいこう」ユータがさっさと決めてしまった「不都合があったら言って、ポイントの好みにすぐ直せるから」
「ポイント?」男の子はくすくす笑う「それってボクのこと?」
「そうだよ」ユータは言った「マッハって他の人の名前だし。ポイントはどんな形でもポイントなんだし。それで良くない?」
「もちろん、仰せのままに」そう言うポイントはなんだかとっても嬉しそうだ。
「そんでさあ、ポイちゃん」
「ポイちゃん?」アイボリーに呼ばれたポイントは驚いて瞬きした「名前が二つできた」
「だってポイントって長いじゃん。呼びやすいほうがいいよ」
「ポイちゃん、のほうが長いよ」
「細かいこと気にしてると禿げるよ。やめときな。あっち行こうよ。中を案内するよ」
あらかじめ示し合わせていたかのように、アイボリーはポイントの手を掴むと、連れ立って行ってしまった。
「あきれたヤツだなあ」コーラルがため息まじりにぼやく。
「そうかな?」ベッコウはぺしゃんこになって脱力しているトッペンを抱き上げながら言った「ポイントってそんな変かな?」
「そっちは、まともだよ。おかしいのはアイボリーのほうだ」
「ああ」
「それとシノノメ?」
「シノノメも?」
「だいたい、ユータとアイボリーは似てるんだよ。ユータはだめでアイボリーならいいとか、わけわからん」
「しょうがないじゃん、アイボリー作ったのユータのお父さんなんだし。あれ、髪型と眉違うだけでほとんど同じだし」
「それ言うなら、オレが髪伸ばして眼鏡かけたらベッコウとほとんど変わらん」
「なのよねぇ。ほんとそうなのよ」
「困るんだよな。こう似たような顔ばかりだと」
「ほんと、困る」
「ん、まあ、そんなわけでヒスパニオラの生態系はまだ不安定だ。というよりヒスパニオラ自体がまだ構成の途中なんで、これから、どんどん変わる。オイラがこれから取りかかるのはヒスパニオラbの構築で、これは…」
延々と話し続けるゾウのぬいぐるみに、ポイントはいちいち頷きながらニコニコ聞いている。意外と相性は良いのかも知れない。
「いまさらだけどさあ」アイボリーがユータの耳元で囁く「ポイントを実体化して、ホントに良かったの?」
「良くはないさ。シノノメにも言ったけどね」
「やっぱり、良くはないんだ…」
「でも、ポイントは存在してしまった。それなら意思疎通のしやすい表現型にしたほうがいいし、本人もそれを望んでいる」
「アイムたちとポイちゃんの関係はそれでいいけど。おかしな輩が難癖つけてくるだろう?」
「それは、もう少し先の話だよ。太陽系を出てからかなあ。太陽系外からポイントの座標を正確に読み取るのは難しい。問題になるのはポイントと一緒に動いてるのがいる、って分かってからだろうし、ボクとかお父さんとかのことがバレるのはもっと後だ。情報をある程度持ってるのは地球だけだけど、少なくとも地球から何か言ってくるってことはないんじゃないか? 第一世代も結局こっちに来てしまったし、地球にはもうたいしたものは残ってない」
「地球にはチャオがいるよ。あと、インチさんの友だち」
「チャオもそのうちこっちに来るよ。インチさんの友だちもね」
「そうだね。そうなんだけど…」ここでアイボリーはクスリと笑う「ユータのお父ちゃんさあ、アレはなんとかならんもんなの?」
「お母さんが手をつくしてるけどね…」ユータはため息をついた「難しいことはよくわからないよ。お父さんは何でもできるけど、唯一、自分のことだけはどうしようもないんだ」
「おーい、もう終わったぞ」オールインワンがユータに声をかけた「ポイント、もう、わかったってさ」
「あ、ありがとう」ユータはオールインワンに礼を言うとポイントに向き直った「手伝ってもらえそうかな」
「できるんじゃない?」ポイントは言ったが、表情は少しかたい「手伝えるけど、ボクが必要とは思えないけどなあ。キミたちだけでできるよね?」
「そう、その通り」ユータはポイントの言い分に同意した「でも、これは遊びだから、人数が多いほうが楽しいよ」
「なるほど」ポイントの顔に笑みがさした「それが気になってたんだ。そうか、ボクらは子どもなんだ。だから遊んで良いんだね?」
「おとなも遊んでるしぃ」アイボリーがまぜっ返す「仕事も遊びも同じだよ」
「小型の太陽を作るっていうのは、それが必要だから、っていうのはわかるんだよ」ポイントは本来良く考えてから話したほうが良いことを気分のままにあっさり口にした「でも、それなら何故、宇宙の他の場所にミニ太陽は無いのか? って話だよね?」
「そうだよ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫ではない」ユータは坦々と話す「ミニ太陽がないのは物理的に安定な条件がないからだよ。だから無理やり作る」
「それって物理法則に反してるってことだよ」
「そう、だから法則のほうを変える」
3人は笑い出した。誰がいちばん最初に笑い出したか。オールインワンにはわからなかった。
「わかってるんなら、いい」ひとしきり笑って満足したポイントがユータに言った「たしかに遊びでもなきゃできないや。よろしい、一緒に楽しもう」
「本気でやってね」笑うのをやめたアイボリーが真顔で言った「本気で遊んでもらわないと困るんだ」
「それは、わかってる」ポイントが答えた「アレだろう? ようするに、うまくやらないとこの宇宙が滅んでしまうとかいうアレだよね。わざわざめんどくさい方法でやるんだ。たぶんそうだと思ったよ」




