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調和の守護者 リリィ&コピ第五部  作者: マスター


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第174話 自由にしていいと言われても

第173話では、市民提案制度が止まった理由が分かりました。


原因は、誰かの妨害ではありません。


都市を急激な変化から守るための「制度安定性監視機構」でした。


リリィたちは評議会と交渉し、


旧市場の一区画。

最大三十人。

一か月。


という小さな試験運用の許可を得ます。


ところが直後、都市計算系は新たな対応を提示しました。


試験区画参加予定者に対する適性再評価を推奨。


旧市場を禁止するのではなく、参加しそうな人を、より安定した場所へ再配置する。


第174話では、この問題を越え、いよいよ旧市場の試験を始めます。

翌朝。


エナの端末が鳴った。


適性再評価を推奨します。


「来た」


エナが画面を見せる。


その横で、パン職人の老人の端末も鳴る。


模型を作りたい少年の母親にも。


歌いたい女性にも。


次々と。


オルガが呆れた。


「本当に全員?」


ミレアが確認する。


「試験参加予定者二十八人。そのうち二十三人に再評価推奨」


「露骨だね」


「ただし、強制ではありません」


リリィが顔を上げる。


「断れる?」


「再評価そのものは保留できます」


エナが固まった。


「できるの?」


ミレアも端末を見つめる。


「できます」


ユアンが眉を寄せた。


「なら、なぜ誰も使わない?」


ミレアが表示を開く。


小さな文字。


画面の一番下。


本人希望による再評価保留――最大三十日。


オルガが言った。


「小さっ」


「通常は推奨に従う人が多いので……」


「誰も教えてくれないの?」


ミレアは黙った。


エナが笑う。


「あるじゃん」


「何が?」


「失敗する時間」


三十日。


旧市場の試験期間も一か月。


ちょうど同じだった。


***


エナは迷わず押した。


再評価を保留しますか?


「はい」


確認。


保留期間中の結果は本人責任となります。


エナの指が止まる。


リリィは何も言わない。


エナが振り返った。


「止めないの?」


「エナが決めることだから」


エナは少し笑った。


そして押した。


保留。


パン職人の老人も押す。


歌いたい女性も。


家具を直したい男も。


全員ではなかった。


五人は再評価を受けることを選んだ。


二人は試験参加そのものをやめた。


それも、止めなかった。


最終的に残ったのは二十一人。


エナが名簿を見る。


「減ったね」


カイが壁にもたれて言った。


「自分で減ったなら、いいんじゃない」


エナが見る。


「たまにいいこと言うね」


「帰っていい?」


「まだ始まってない!」


「だから帰りたい」


ユアンが笑った。


「責任者の一人だぞ」


カイの顔が曇った。


「引き受けた覚えない」


「昨日、断らなかった」


「それを引き受けたとは言わない」


リリィは思わず笑った。


この三人で本当に大丈夫なのだろうか。


でも。


たぶん、だからいい。


***


旧市場。


使うのは一区画だけ。


空き店舗が六つ。


中央に小さな広場。


予算はほぼない。


特別な設備もない。


エナが入口に看板を掛けた。


試行区画


その下に、小さく書く。


うまくいかなくてもいい。


オルガが読む。


「シンプルになった」


「長いとカイが嫌がるから」


「もう帰っていい?」


「まだ!」


二十一人が集まった。


評議会からは監督役が一人。


ミレアもいる。


ユアンもいる。


リリィたちは、少し離れて見ていた。


エナが前へ出る。


緊張している。


「えっと……」


全員が見る。


「今日から一か月、ここでは――」


止まった。


何を言えばいい?


好きなことをしてください?


挑戦してください?


失敗してください?


エナは少し考えた。


そして言った。


「好きにしてください」


沈黙。


誰も動かない。


「……以上」


さらに沈黙。


オルガが小声で言う。


「終わった」


十分。


誰も動かない。


二十分。


まだ動かない。


パン職人の老人は椅子に座っている。


模型の少年は材料を見ているだけ。


歌いたい女性も立ったまま。


エナが焦り始める。


「好きにしていいんだよ?」


全員が困った顔をする。


一人が手を上げた。


「何をすればいい?」


「だから、好きなこと」


「今日の目標は?」


「ない」


「評価基準は?」


「ない」


「作業時間は?」


「自由」


「提出物は?」


「ない」


全員が、さらに困った。


カイが壁際から言った。


「そりゃ動けないよ」


エナが振り返る。


「なんで?」


「ずっと決めてもらってたから」


空気が変わった。


カイは続ける。


「仕事も時間も目標も、都市が決めてくれる」


何時に始める。


何をする。


どこまでやる。


何点なら合格。


次は何を目指す。


アルケイアでは、それが普通だった。


突然、


好きにしていい。


と言われても。


何をしていいか分からない。


リリィは風待ち村を思い出した。


あの村では、失われていたのは知識だった。


この街で失われているのは、もっと違うものかもしれない。


「じゃあ、どうするの?」


エナがカイに聞く。


「知らない」


「責任者でしょ」


「だから、それをやめろって言ってる」


エナがむっとする。


ユアンが笑った。


「カイの方が正しい」


「え?」


「自由な場所を作って、そこで何をするかまで決めたら、元と同じだ」


エナは黙った。


「でも、このままじゃ誰も動かない」


「なら、待てばいい」


カイが言った。


「何もしなくてもいい場所なんでしょ」


エナは看板を見る。


うまくいかなくてもいい。


「……そうだった」


***


一時間。


誰も大したことをしなかった。


カイは寝た。


本当に寝た。


オルガが笑いをこらえる。


「責任者が寝てる」


「本人は責任者じゃないって言ってるから」


昼。


パン職人の老人が立ち上がった。


「腹が減った」


それだけ言って、持ってきた粉を出した。


エナが見る。


「パン作るの?」


「食うためだ」


「新しいパンは?」


「知らん。まず昼飯だ」


老人が生地をこね始める。


それを見ていた少年が近づいた。


「その余った木箱、使っていい?」


「壊すなよ」


「飛ぶ模型の台にする」


「好きにしろ」


一人動いた。


二人目。


歌いたい女性は、まだ歌わない。


代わりにパン作りを手伝い始めた。


家具を直したい男は、ぐらつく椅子を見つけた。


「これ、気になる」


修理を始める。


エナが小さく言った。


「始まった……」


リリィは頷いた。


誰も、


挑戦を始めます


とは言わなかった。


腹が減った。


木箱があった。


椅子が壊れていた。


そんな小さなところから、人は自分で動き始めた。


午後。


パンが焼けた。


形は少し悪い。


老人が一口食べる。


「硬い」


少年も食べる。


「硬い」


エナも食べる。


「硬い」


老人が笑った。


「失敗だ」


誰も評価表を出さない。


点数もつかない。


再配置通知も来ない。


ただ、硬いパンが残った。


老人はそれを見て言った。


「明日は水を少し増やすか」


それだけ。


失敗の次に、もう一回があった。


リリィは、その言葉が妙に嬉しかった。


***


夕方。


初日は終わった。


完成したものは、ほとんどない。


飛ぶ模型は飛ばない。


椅子は直った。


パンは硬い。


歌は一曲も歌われなかった。


エナの絵も途中。


評議会の監督役が記録する。


「成果物、一件?」


エナが不安そうに見る。


「評価、低い?」


監督役は少し考えた。


「この試験に成果基準は設定されていません」


「じゃあ?」


「評価不能です」


エナの顔が曇る。


だが、ユアンが笑った。


「最高じゃないか」


「評価不能が?」


「今までの数字で測れないものを試してるんだろう?」


エナも少し笑った。


その時。


コピが市場入口を見る。


「人が増えています」


「参加者?」


「いいえ」


区画の外。


十人。


二十人。


三十人。


見物人が集まっていた。


何をしているのか。


なぜ評価されないのか。


なぜ失敗しても再配置されないのか。


興味を持った市民たち。


そして、その中に。


都市職員がいた。


一人ではない。


配置局。


教育局。


生産局。


制服姿のまま、旧市場を見ている。


ミレアが驚く。


「勤務中の職員まで……」


一人の若い職員が、エナへ近づいた。


「質問していいですか」


「はい」


「ここでは、仕事を辞めなくても参加できますか?」


「たぶん」


エナがユアンを見る。


ユアンが答える。


「試験条件には禁止と書いていない」


職員は少し迷った。


「では、明日来ても?」


「何をしたいの?」


エナが聞く。


職員は黙った。


そして小さく答えた。


「それを考えたいんです」


エナが笑った。


「どうぞ」


その瞬間。


市場の外で、いくつもの端末が同時に鳴った。


ミレアも。


若い職員も。


見物人も。


制度安定性監視機構――警戒度上昇。


その下に、新しい表示。


試行区画の社会的波及を検出。


オルガが画面を見る。


「社会的波及?」


ユアンの表情が険しくなる。


「三十人の試験では済まなくなったということだ」


リリィは市場の外を見る。


人が増えている。


禁止されていない。


呼び集めてもいない。


ただ、


自分も少し考えてみたい。


そう思った人たちが集まり始めている。


そして都市は、それを変化として検知した。


旧市場の小さな実験が、アルケイア全体へ広がり始めていた。

第174話では、試行区画の参加予定者に出された「適性再評価」へ対応しました。


再評価には、本人の意思で最大三十日間保留できる制度が存在していました。


参加者全員が保留したわけではありません。


再評価を選んだ人も、試験参加をやめた人もいます。


最終的に残ったのは二十一人。


そして旧市場の試行区画が、ついに始まりました。


しかし、


「好きにしていい」


と言われても、最初は誰も動けませんでした。


アルケイアでは、仕事、目標、時間、評価基準を与えられることが当たり前だったからです。


やがて、腹が減ったからパンを作る。


木箱があったから模型を作る。


椅子が壊れていたから直す。


そんな小さな理由から、人々は自分で動き始めました。


硬いパンという失敗も生まれました。


しかし、その失敗には点数も罰もなく、


「明日は少し変えてみる」


という次がありました。


ところが終盤、試行区画を見に来る市民や都市職員が急増。


制度安定性監視機構は、


「試行区画の社会的波及を検出」


と警告します。


次回は、わずか二十一人の小さな実験が都市全体へ広がり始めたことで、アルケイアがどう反応するのかを追います。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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