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調和の守護者 リリィ&コピ第五部  作者: マスター


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第166話 数字から消える人たち

第165話では、統整都市アルケイアへ入りました。


アルケイアでは、仕事、住居、医療、教育などを、市民の適性に応じて都市が割り振っています。


街は清潔で、水も食料も豊富。


都市が公表する充足率は、98.7%。


しかし、適性が変われば、本人の希望とは関係なく「再配置」されることがあります。


都市案内役のレオンも、突然「適性再評価」の対象になりました。


連れていかれる直前、彼はリリィに言います。


「98.7じゃない。本当は、もっと低い」


第166話では、その言葉の意味を追います。

「追う?」


オルガが聞いた。


リリィは、レオンが消えた扉を見る。


「追う」


「だよね」


二人が歩き出す。


だが、コピが言った。


「待ってください」


「どうしたの?」


「追跡する理由がありません」


リリィが止まる。


確かにそうだ。


レオンは逮捕されたわけではない。


助けを求めたわけでもない。


ただ、再評価面談へ行った。


「……じゃあ、待つ」


オルガが少し笑った。


「風待ち村で鍛えられたね」


「何でも追いかければいいわけじゃないから」


三人は案内所を出た。


***


レオンが戻ってきたのは、一時間後だった。


一人だった。


リリィが立ち上がる。


「レオン」


彼は驚いた。


「まだいたんですか」


「聞きたいことがあるから」


「98.7のこと?」


リリィは頷く。


レオンは周囲を確認した。


「ここでは話せません」


「じゃあ、どこなら?」


少し迷ってから答える。


「第三区の旧市場」


***


旧市場は、大通りから外れた場所にあった。


店の半分は閉まっている。


人も少ない。


それでも荒れてはいない。


きれいに掃除されている。


「ここも管理されてるんだ」


オルガが言う。


「使われなくなった場所も、景観評価に入ります」


レオンが答えた。


リリィは聞いた。


「再評価、どうだった?」


レオンは胸元の札を見せた。


昨日までの、


都市案内・第一班


ではない。


資料整理・第五班


「仕事が変わっただけ?」


「今のところは」


「嫌なの?」


レオンは少し考えた。


「資料整理が嫌なわけではありません」


リリィは黙って待った。


レオンは続ける。


「そこが、この街の難しいところなんです」


「難しい?」


「都市の提案は、だいたい正しい」


意外な言葉だった。


「僕は人と話すのが得意だと思っていました。でも最近、疲れていた。案内の評価も少し落ちていた」


「じゃあ、資料整理の方が合ってる?」


「たぶん」


オルガが首を傾げる。


「なら、問題ないんじゃない?」


「僕だけなら」


レオンは言った。


「問題ないのかもしれません」


リリィはエナを思い出した。


「外縁へ移された人は?」


レオンの顔が曇る。


「そこです」


彼は小さな端末を取り出した。


画面に数字が並ぶ。


「都市充足率98.7%。この数字は嘘ではありません」


「え?」


「計算方法が違うんです」


レオンは画面を指した。


「充足率の対象は、現在の配置に適応している市民」


オルガが眉を寄せる。


「適応していない人は?」


「再配置対象になります」


「その人は数字に入る?」


レオンは首を横に振った。


「再配置手続き中は、集計から外れます」


リリィは意味を理解した。


「じゃあ……」


レオンが頷く。


「困っている人が増えるほど、再配置される。そして集計から一時的に消える」


沈黙。


「だから98.7%を維持できる?」


「はい」


オルガが低く言う。


「数字は嘘じゃない。でも、全部でもない」


「そうです」


レオンは端末を操作した。


別の数字が出る。


再配置待機 4,821人


リリィは目を見開いた。


「こんなに?」


「この都市の人口から見れば、多くはありません」


レオンは言う。


「そして、再配置された人の多くは新しい場所に適応します」


ここでも、単純ではない。


全員が不幸になる制度ではない。


むしろ助かる人も多い。


だから続いている。


「じゃあ、エナは?」


リリィが聞く。


レオンは少し驚いた。


「知っているんですか」


「門で会った」


レオンは端末を見る。


そして、顔を上げた。


「エナは普通の再配置ではありません」


「どういうこと?」


「三回目です」


「三回?」


「教育区。生産区。中央補助区。全部で適応判定を下回った」


リリィは言葉を失った。


「三回だめだったら?」


レオンは答えなかった。


オルガが聞く。


「外縁区の次は?」


長い沈黙。


やがてレオンは言った。


「ありません」


「ない?」


「都市が、その人に合う場所を見つけられなかったということです」


リリィの中で、エナの言葉がつながった。


この街には、困っている人はいないことになってるから。


「そういう人は、どうなるの?」


レオンは旧市場の奥を指した。


「都市の外へ出ます」


「追放?」


「違います」


レオンはすぐ否定した。


「本人には移動支援金も出る。食料も渡される。希望すれば他都市への紹介状も出ます」


「じゃあ、何が問題なの?」


レオンは苦しそうに笑った。


「僕にも、それが分からないんです」


リリィは彼を見る。


「分からない?」


「制度としては、かなり優しい」


仕事を探す。


住居を与える。


何度も配置を試す。


それでも合わなければ、旅立つための支援まで出す。


「でも……」


レオンは続けた。


「ここで生まれた人にとって、アルケイアは故郷なんです」


リリィは黙った。


その一言で十分だった。


制度は合理的。


支援もある。


それでも。


「あなたに合う場所はここにはありません」


そう言われる。


故郷から。


***


その時、旧市場の入口で声がした。


「レオン」


女性が一人立っていた。


都市職員の制服。


レオンの顔が強張る。


「姉さん」


女性はリリィたちを見る。


「旅人ですね」


「はい」


「私はミレア。都市配置局の職員です」


オルガが小声で言う。


「配置する側か」


ミレアは聞こえていた。


「そうです」


怒ってはいない。


むしろ落ち着いている。


「弟から何を聞きましたか」


レオンが口を開こうとする。


ミレアが止めた。


「責めていません」


そしてリリィを見る。


「この制度を、ひどいと思いましたか?」


リリィは少し考えた。


「まだ分かりません」


ミレアの表情が、ほんの少し緩んだ。


「それなら、見てください」


「何を?」


「配置局を」


レオンが驚く。


「姉さん?」


「外から制度を見て批判するのは簡単です」


ミレアは淡々と言う。


「でも私たちは、毎日選ばなければならない」


仕事が一つ。


希望者が十人。


住居が一つ。


必要な人が五人。


医療設備にも限りがある。


教育の席にも限りがある。


「全員の希望を叶えられない時、どうしますか?」


リリィは答えられなかった。


ミレアは続ける。


「アルケイアは、完璧ではありません」


レオンが姉を見る。


「それ、言っていいの?」


「完璧だと言ったことはない」


ミレアは都市の中心を見た。


「私たちは、できるだけ多くの人が暮らせる方法を選んでいるだけです」


そして、リリィへ向き直った。


「明日、配置局へ来てください」


「いいんですか?」


「旅人向けの公開見学があります」


オルガが苦笑する。


「ちゃんと公開してるんだ」


「隠しているつもりはありません」


ミレアは立ち去ろうとした。


だが、リリィが呼び止める。


「エナは?」


ミレアの足が止まった。


「知っています」


「本当に、彼女に合う場所はなかったんですか?」


ミレアは振り返った。


初めて、表情が揺れた。


「それを知りたいなら、明日来てください」


そして去っていった。


***


その夜。


宿の窓からアルケイアを見る。


街灯が等間隔に並ぶ。


水路が光を反射する。


美しい街だった。


リリィは言った。


「悪い人がいない」


オルガがベッドに座る。


「その方が面倒だね」


「うん」


誰かが人を苦しめようとしているなら、分かりやすい。


でも違う。


配置局も、人を助けようとしている。


レオンも制度そのものを否定していない。


再配置で救われる人もいる。


それでも、エナは街の外へ出された。


コピが静かに言う。


「明日の見学では、制度の目的、判断基準、再配置結果を分けて観察することを推奨します」


リリィは頷いた。


「直すものを探すんじゃなくて、まず見る」


風待ち村で覚えたことだった。


その時。


扉の下から、紙が一枚差し込まれた。


オルガが拾う。


文字は一行だけ。


配置局で、地下三階を見て。


署名はない。


リリィが紙を見る。


「地下三階?」


コピが答える。


「公開都市図では、配置局は地下二階までです」


三人が顔を見合わせた。


明日は、公開見学。


そして、存在しないはずの地下三階。


完璧な都市の数字から消えた人たちの先に、まだ何かがあった。

第166話では、都市充足率98.7%の仕組みが少し見えてきました。


この数字自体が完全な嘘というわけではありません。


ただし、現在の配置に適応できず「再配置手続き中」となった市民は、集計から一時的に外れます。


つまり、数字は正しくても、都市全体の状態をすべて表しているわけではありません。


一方で、アルケイアの再配置制度は単純な排除でもありません。


仕事や住居を何度も提案し、外へ移る場合にも支援があります。


だからこそ、「悪い制度」と簡単に決めることもできません。


次回、リリィたちは都市配置局を見学します。


しかし宿には、


「配置局で、地下三階を見て」


という匿名の紙が届きました。


公開都市図では、配置局は地下二階まで。


次回は、制度を運営する側と、存在しない地下三階の謎を追います。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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