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調和の守護者 リリィ&コピ第五部  作者: マスター


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第165話 困っている人はいない街

風待ち村を離れたリリィたちは、四日間の旅を経て、巨大都市アルケイアへ到着しました。


水は豊富。


食料供給は安定。


街は清潔。


犯罪も少ない。


入口には、


不足なき都市。

争いなき都市。

すべての市民に、最適な暮らしを。


と掲げられています。


しかし、その門から一人の少女が出てきました。


都市から「再配置」された少女です。


彼女はリリィたちに言いました。


「この街には、困っている人はいないことになってるから」


第165話。


完璧に見える都市の中へ入ります。

「再配置って、何?」


リリィが尋ねた。


少女は小さな鞄を抱え直した。


年齢は十六、七歳くらい。


淡い茶色の髪。


灰色の服。


装飾品は何もない。


「そのままの意味」


「街から出されたってこと?」


オルガが聞く。


少女は首を横に振った。


「違う」


少し間を置く。


「もっと私に合った場所へ移されたの」


言葉だけ聞けば、悪くない。


だからこそ、リリィは引っかかった。


「その場所は?」


少女は門の外へ続く道を指した。


「外縁居住区。ここから半日くらい」


「行きたいの?」


少女は黙った。


その沈黙だけで、答えは十分だった。


コピが言う。


「本人の意思と配置結果が一致していない可能性があります」


少女がコピを見る。


「変わった子」


オルガが笑う。


「まあ、そう見えるよね」


「名前は?」


リリィが尋ねた。


「エナ」


「私はリリィ。こっちはオルガ。それからコピ」


「旅人なんだよね」


「うん」


エナは三人を順番に見た。


「なら、私に関わらない方がいい」


「どうして?」


「あなたたちまで評価が下がるかもしれないから」


リリィは眉を寄せた。


「評価?」


エナは答えず、歩き始めた。


都市とは反対方向へ。


数歩進んでから、止まる。


「街に入るなら、一つだけ覚えておいて」


振り返らないまま言った。


「アルケイアでは、みんな幸せだから」


そして歩いていった。


オルガが呟く。


「全然、幸せそうじゃなかったけど」


「うん」


リリィは巨大な門を見上げた。


***


都市への入場は、驚くほど簡単だった。


名前。


出身。


滞在目的。


危険物の確認。


それだけ。


受付の女性は笑顔だった。


「ようこそ、統整都市アルケイアへ」


「旅人でも入れるんですね」


「もちろんです」


女性は自然に答えた。


「アルケイアは閉ざされた都市ではありません。希望する方には都市案内も提供しています」


リリィは少し拍子抜けした。


もっと厳しい場所だと思っていた。


門を抜ける。


そして、三人とも立ち止まった。


「……きれい」


リリィが呟く。


大通りは広い。


ゴミ一つない。


左右には街路樹。


水路には透明な水が流れている。


子どもたちが遊んでいる。


店には食料が並んでいる。


誰かが怒鳴っている声もない。


物乞いもいない。


壊れた家もない。


風待ち村とは、まるで違う。


オルガが周囲を見回す。


「普通に、いい街じゃない?」


コピが答える。


「少なくとも観測範囲では、生活環境は良好です」


噴水広場へ出た。


大きな掲示板がある。


本日の都市充足率 98.7%


リリィが足を止めた。


「充足率?」


近くにいた男性が教えてくれた。


「市民が必要な生活を得られている割合ですよ」


男性は笑顔だった。


「住居、仕事、医療、教育、食事。アルケイアでは全部、都市が最適に割り振ってくれます」


「仕事も?」


「もちろん」


男性は胸元の札を見せた。


都市緑地管理・第二班


「私は植物管理への適性が高い。だからこの仕事です」


「自分で選んだんですか?」


男性は少し考えた。


「希望も提出できます」


「じゃあ、希望と違ったら?」


「より適性のある仕事が提示されます」


「断れる?」


男性の笑顔が、ほんの少し止まった。


「断る理由がありませんよ」


そして、また笑う。


「都市の判断の方が正確ですから」


男性は仕事へ戻っていった。


オルガが小声で言う。


「今の、どう思う?」


リリィは答えなかった。


悪いとは言えない。


向いている仕事を紹介してくれる。


住居もある。


食料もある。


医療も教育も受けられる。


むしろ、多くの人にとってありがたい仕組みかもしれない。


「まだ見よう」


リリィは言った。


***


昼食は公共食堂で食べた。


安い。


栄養も考えられている。


味も悪くない。


「風待ち村より豪華」


オルガがパンをちぎる。


「比較対象が極端だよ」


リリィも笑った。


隣の席では、若い女性二人が話している。


「次の適性更新、もう受けた?」


「昨日。教育補助から記録管理に変わった」


「よかったじゃない」


「うん。適性が上がったみたい」


普通の会話。


誰も怯えていない。


その時、食堂の入口で音がした。


短い電子音。


一人の青年が立っている。


職員が彼へ近づいた。


「市民番号を確認します」


青年は札を見せる。


職員の端末が光る。


「現在の利用区分では、この食堂は対象外です」


青年が言った。


「昨日までは使えた」


「本日、配置区分が変更されています」


「まだ引っ越してない」


「外縁第四区の食堂をご利用ください」


青年の顔が強張る。


「そこまで歩いて二時間だ」


「移動支援を申請できます」


「今日の昼飯なんだよ」


職員は困った顔をした。


だが、怒らない。


「規則ですので」


青年は周囲を見る。


誰も目を合わせない。


やがて、食堂を出ていった。


静かだった。


何事もなかったように、会話が戻る。


リリィはパンを置いた。


「今の人、困ってたよね」


オルガが頷く。


「困ってた」


コピも答える。


「はい」


近くにいた女性が振り返った。


「でも、大丈夫ですよ」


「どうして?」


「外縁第四区に食堂がありますから」


「今、お腹が空いてるのに?」


女性は少し困った顔をした。


「それは……移動すれば」


リリィはそれ以上聞かなかった。


エナの言葉を思い出す。


この街には、困っている人はいないことになってるから。


困りごとがないのではない。


困った人を、別の場所へ移している?


まだ、そう決めるのは早い。


でも。


何かがおかしい。


***


午後。


三人は都市案内所へ向かった。


案内役の青年は、とても親切だった。


「アルケイアでは、市民の適性を定期的に更新します」


壁に大きな都市図が表示される。


中央区。


生産区。


教育区。


研究区。


居住区。


そして外縁区。


「適性に応じて、最も生活しやすい区画をご案内します」


リリィが聞いた。


「中央区から外縁区へ移る人も?」


「もちろんです」


青年は笑顔で答えた。


「上下ではありません。適性の違いです」


「エナという女の子を知っていますか」


青年の笑顔が止まった。


ほんの一瞬。


「個人情報には回答できません」


「今日、再配置されたみたいです」


「再配置は通常の都市運営です」


「本人は行きたくなさそうだった」


青年はリリィを見る。


「本人が、自分に最適な環境を理解していない場合もあります」


オルガの表情が変わる。


「本人より、都市の方が本人を分かってるってこと?」


「統計的には、その方が良い結果になります」


「良い結果って?」


青年は迷わず答えた。


「都市全体の充足率です」


リリィは、朝見た数字を思い出した。


98.7%。


高い。


確かに高い。


でも。


「残りの1.3%は?」


青年が黙った。


初めてだった。


この都市で、誰かが明確に答えを止めたのは。


やがて青年は言った。


「改善対象です」


「人ですよね?」


「統計上は」


その瞬間。


館内に短い音が響いた。


青年の端末が光る。


彼は画面を見る。


表情が消えた。


「どうしたの?」


リリィが聞く。


青年は答えない。


端末には、一行だけ表示されていた。


適性再評価通知


オルガが画面を見る。


「あなたも?」


青年は、ゆっくり端末を伏せた。


さっきまで完璧だった笑顔が消えている。


「……今日の案内は、ここまでです」


「再配置されるの?」


青年は答えなかった。


奥から職員が二人やってくる。


「レオンさん」


「はい」


「再評価面談へお願いします」


青年――レオンは立ち上がった。


リリィたちの横を通り過ぎる。


その時、小さな声で言った。


「98.7じゃない」


リリィが振り返る。


「え?」


レオンは前を向いたまま続けた。


「本当は、もっと低い」


職員が彼を連れていく。


扉が閉まる。


リリィは動かなかった。


コピが静かに言う。


「都市の公開情報と、内部認識に差がある可能性があります」


オルガが腕を組む。


「いきなり面白くなってきたね」


リリィは都市図を見る。


完璧に整えられた街。


不足なき都市。


争いなき都市。


すべての市民に、最適な暮らしを。


その数字は、本当に誰の幸せを数えているのか。


そして。


数えられなくなった人は、どこへ行くのか。

第165話では、統整都市アルケイアの内部へ入りました。


アルケイアは、風待ち村とはまったく異なります。


水も食料も豊富。


街は清潔。


仕事、住居、医療、教育まで、市民の適性に合わせて都市が割り振っています。


多くの市民にとって、実際に暮らしやすい仕組みでもあります。


一方で、適性が変われば利用できる施設や住む場所も変わり、本人が望まなくても「再配置」されることがあります。


都市が公表する充足率は98.7%。


しかし、都市案内役のレオンは適性再評価を受けた直後、


「98.7じゃない。本当は、もっと低い」


と言い残しました。


アルケイアは、本当に幸福な都市なのか。


それとも、幸福ではない人を数字の外へ移しているのか。


次回は、再評価されたレオンと、都市が公表しない「1.3%」の向こう側を追います。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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