資格を失っても、壊れたものは待ってくれない
監査官セドリックは、営業停止命令を読み上げた。
無資格者による人体接続型義肢の修理は、事故が起きれば利用者の命を奪う。規則には理由があり、エリスが優秀だから例外にすることはできない。
「理解しています」
エリスは反論せず、命令書を受け取った。
その直後、外で馬の嘶きと金属音が響いた。
監査官の護衛が落馬し、軍用義手を地面へ打ちつけていた。破損した同調回路が神経へ逆流し、右肩から胸へ青白い痙攣が広がっている。
セドリックは認可療院へ運ぶよう命じたが、ロイドが「到着まで持たない」と告げる。
エリスは工具を手に取り、護衛の前へ膝をついた。
「接続を切れば逆流は止められます。ただし右腕の感応記録が消える可能性があります。回路を迂回すれば記録は残せますが、処置中の痛みと危険は増えます」
男は苦しい息の合間に尋ねた。
「あなたなら、どちらを選ぶ」
以前のエリスなら、成功率の高い方法を自分で決めていた。
「私ではなく、あなたが決めることです。説明は何度でもします」
男は感応記録を残す方を選んだ。
エリスは同意を確認してから外装を開く。左手で神経線を固定し、右手の指先を極細工具へ変形させた。早口の機構説明も、奇妙な技名もない。ロイドが身体を支え、セドリックが時刻と処置内容を記録する。
十二分後、逆流は止まった。
護衛は意識を保ち、指先の感覚も残った。だが、営業停止が消えるわけではない。
セドリックは命令書を撤回せず、代わりに処分記録の写しを見直した。資格剥奪の承認欄には、カインゼルの署名がある。その横の災害記録参照時刻は、公式報告と五分ずれていた。
「この時刻は、どちらが正しい」
「それを確かめようとして、私は書庫へ入りました」
エリスの答えに、監査官は黙り込んだ。
夕方、工房は営業停止の札を掲げた。それでも修理を待つ壊れた道具は棚に並び、救助された護衛は自分の選択で残した指をゆっくり握る。
帰り際、セドリックは一つだけ言った。
「規則を破ったことと、今日あなたが正しかったことは、別々に記録する」
エリスはその言葉を、処分の軽減より長く見送った。




